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完成

 木レンガを積み、固定する。


 この動きを何回繰り返しただろう。心を無にしてただひたすら、愚直に屋根を作り続けていた。


 既に五日が経過している。


 今日こそ! 今日こそ仕上げるのだ! この屋根を! この家を……!


「ミャオ〜」


 狩りに出ていたテトが戻ってきた。その口には頭のない山鳥が咥えられている。テトに狩りを任せてから何度も見た光景だ。


 どうやっているのか知らないが、スパッと頭の部分が落とされた鳥や小動物を得意げにもってくる。ただの猫の筈なのに……。


「じゃあ、昼飯にしよう。羽根を抜いて下拵えするからその辺に置いてて」


 ミャオと返事したテトは山鳥を地面に離し、家の中に入って丸くなった。


 屋根から降りてかまどに火をつけて湯をわかす。ちょうどいい温度になったところで鳥をまるっと鍋につけた。そしてシンナリした羽根を一気に抜く。ここで手を抜くと食感が悪くなる。手早く、丁寧に。


 それが終わるとナイフで解体する。内臓も肉も、同じサイズに切り分けて塩を振る。そして不滅キノコとハーブを加え、鍋で一気に炒める。


 あぁ、お金が出来たらフライパンも欲しいなぁ。鍋一つでなんでも作るのは効率が悪いし、品数も増やせない。


「ミャオ」


 匂いにつられてテトが家の中から出てきた。


「もうすぐ出来るよ」


 といってもテトは熱々の料理は苦手なので、食べ始めるのはもうしばらくしてからだ。皿を前にして冷めるのをジッと待っている様子はとても可愛い。


「先に食べちゃうから。テト、いつもありがとう」


「ミャオ〜」


 どうぞ〜と言ったのだろう。歯応えのある山鳥の肉とキノコの旨みが口の中で広がった。美味い。これでお昼からも頑張れる。



#



 最後のレンガを丸屋根の頂に固定する。


「完成だー!!」


 そう。やっと出来た。丸五日掛けて、ついに積み終わった!! 防水処理とかも必要だろうけど、とりあえず今は屋根が出来たことを喜びたい!!


 屋根から降り、少し引いて眺める。


 丸い筒状のレンガ造りの家。屋根はドーム状の丸屋根で美しい曲線を描いている。


「ミャオ!」


 テトがやって来て歓声を上げた。途中、飽きていたテトだが、流石に完成した屋根を見ると感動したようだ。


 家の中に入って床に寝転び、天井を見上げると、円の中心に向かって木レンガが綺麗に並んでいる。我ながら丁寧な仕事をした。とても美しい。


「ミャオ〜」


 テトが隣にやって来て、同じく床に寝転ぶ。そして天井を見上げて目を細めた。


「さて、屋根は完成。次は家具を作らないとね。やっぱり寝る場所、ベッドからだと思うんだけど、テトはどう?」


 当然だ! というように、テトは返事をした。テトは寝るのが好きだから、やはり寝床にはこだわりがあるのだろう。ただ、ベッドを作るだけなら簡単だ。木レンガを積んで固定すればあっという間に出来上がる筈。問題は寝具だ。

 流石に布団をレンガで作る訳にはいかない。羊毛や綿花が手に入ればいいが、なにせお金がない。さて、どうしたものか……。


「あ、鳥の羽根を使おうかな」


 鳥と言えばテトである。テトは山鳥を狩る名手だ。ここのところ、一日に何羽も獲ってくる。


「ねえ、テト。明日からたくさん鳥を狩ってきてほしいんだ」


「ミャオ?」


「鳥の羽根の柔らかいところを使って、布団を作ろうと思ってね。きっと軽くて暖かい布団になる」


「ミャオ!」


「余った鳥の肉は串焼き屋さんに売ろう。それで布を買って布団作りだ。明日からも忙しくなるぞ」


 ミャオ〜とご機嫌にテトは鳴く。


 レンガ職人のジョブを授かり、クライン家から追放された時はどうなることかと悲観にくれた。しかし今はどうだ。あの頃よりも毎日が楽しく、我ながら生き生きしている。


「魔の森に来てよかったよ……」


 そう呟くと、テトは「当たり前だ」というように少し強く鳴いたのだった。

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