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居城にて

「マルスよ。よく来たな」


 とても貴族とは思えない風貌──眼帯に髭──の辺境伯は鷹揚な態度で俺を迎えた。


「謁見の機会を与えて頂き、ありがとうございます」


 辺境伯の居城にある応接室。そこには俺と辺境伯しかいない。


「私にとってもよい機会だったのだ。一度君とは話してみたいと思っていたのでね」


 控え目な装飾のソファーに身体を沈め、こちらを見据えている。何かを探るかのように。


「俺とですか……?」


「あぁ。魔の森の開拓は君の力によって一気に進んだからね。領主として感謝しているのだよ。獣人国については少々やり過ぎだがね……」


 眉間に深い皺が刻まれる。一瞬で空気が凍りつき、俺はしばらく呼吸を忘れていた。


「……あ、あれは、脅されて……」


「私を舐めるなよ」


 ぐっと首を絞められたような感覚になる。今まで対峙したどんな存在よりも強大。王国に辺境を任された男は、これほどまでなのか……。


「今のところは見逃そう。ただ、これから獣人国に関わるときはボーワダッテ……に報告してもらう」


「……はい」


 やはり副ギルドマスターは辺境伯の息がかかっているのか。


「さて、私からの話は終わりだ。マルス君の話を聞こう」


 ふっと空気が緩む。辺境伯からのお仕置きの時間は終わったようだ。幾分か呼吸が楽になる。


「対帝国の貴族軍が組織されると聞きました。俺を辺境伯軍に加えてもらえませんか?」


 辺境伯の瞳が大きく見開かれる。意外な申し出だったらしい。


「マルスは貴族との繋がりを避けていると思っていたが……。クライン侯爵家の尻拭いをするつもりか?」


 どこから情報を仕入れたのか、俺がクライン侯爵家の人間だったことは知られているらしい。


「まさか、今更ですよ。単純に辺境伯の力になりたいだけです」


「本当のことを、話せ」


「今、帝国と王国が争えば、王国は不利です。ただ、王国の中心まで取られることは考えにくい。国境周辺を削り取られたところで和平協定となると読んでいます」


 辺境伯は楽しそうにしている。


「続けろ」


「そこで、帝国が何を求めるのか? 現皇帝の獣人への執着を考えると、この辺境や獣人国に関する条件が出される可能性があります。また、そうなっても国王や多くの貴族にとっては痛くも痒くもない。獣人を喜んで差し出すでしょう」


「それは私にとっても同じことだろう。獣人がいなくなっても困らない」


「本当にそうお思いですか? 獣人国の女王ルーは王国の貴族に恐れられています。そのルーを制御出来れば、辺境伯はさらに王国の中で発言権を増すでしょう」


「随分と貴族的な発想をするな。しかし、マルスが動く理由が分からない。獣人達がいなくても、君は辺境において重要な存在。その自覚はある筈だ。何故、自ら危険な戦場をもとめる? 獣人国の女王に惚れたか?」


 辺境伯は組んでいた脚を解き、前のめりになった。真意を聞かせろというように。


「……気に食わないだけです。大きな力を持った存在が、その力で人を苦しめることが」


「ふん。世界を救うつもりか?」


「そこまで言ってません。自分の手の届く範囲の平安を守りたいだけです」


「随分と手を広げているように思えるぞ?」


「辺境伯の目の届く範囲でしか動けませんよ。俺は。だから、軍に加えてください」


「……いいだろう。ローズ達と一緒に先遣隊としていってもらう。帝国軍はもちろん、王国の他の貴族も出し抜け。辺境伯軍の名前を轟かせろ!」


「ありがとうございます! お任せください!」


 勢いよく立ち上がり、すっと頭を下げた。もう辺境伯から言葉はない。俺も言うことはない。


 扉に向かって歩き、振り返ることなく部屋を後にした。

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