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馬鹿なこと

「マルス……国境の紛争のこと聞いたか?」


 家で昼食を食べ終え、テトとゆったりお茶をしていた時のことだ。真剣な顔のゴルジェイがやってきて、ゆっくりと口を開いた。


「えっ? どの国境のことですか? 獣人国は平和なはずですよ?」


「違う。王国と帝国だ」


 帝国からの亡命者であるゴルジェイはその辺の話題に敏感だ。


「帝国が仕掛けてきたんですか?」


「逆だ。王国の貴族が仕掛けたらしい」


 王国と帝国の国境にはそれぞれが要塞を造り、睨み合っている。亡命者の件で緊張感はあるものの、軍同士が直接争うことはここ数年なかった筈だ。一体、何があった?


「貴族の名前、わかります?」


 国境の警備の大半は国王軍だが、貴族が持ち回りで兵士か金を出すことになっている。その貴族が馬鹿をしたのだろう。


「クライン侯爵家だ」


「……」


 ゴルジェイの発した名前に言葉を失ってしまう。もう関係ないとはいえ、かつて俺はクライン侯爵家の一員。いや、嫡男だった。なんとも言えない気分になる。


「それで、状況は?」


「帝国側に大幅な援軍の動きがあるらしい。もしかしたら、予め準備していたのかもしれない」


 なんてことだ……!!


「帝国は王国に攻め込む口実を探していたってことですか? でも、帝国軍は獣人の住む領域を侵攻していた筈では?」


「その情報が間違っていた可能性がある。帝国はそもそも土地を欲して獣人の領域を侵攻していたのではないのかもしれない」


「土地ではなく、人……。奴隷……」


「そうだ。獣人の領域に住んでいた獣人達は皆、獣人国を目指していると聞く。ならば帝国の狙いも……」


「なんでそんなに、皇帝は獣人に固執しているんですか?」


「さぁな。分からんよ。ただ……」


「ただ……?」


 俺の緊張を察してか、膝の上のテトが見上げている。


「もし本格的な戦争になって王国の領土が削り取られたとしよう。その状態で停戦となれば王国は不利。何かを差し出さねばならない。その差し出すものが何なのか……」


 最悪の事態が頭に過ぎる。


「ちょっとローズさんと会話してきます」


 ニャオと飛び退くテト。俺は外に飛び出し、ローズの家の扉を叩いた。



#



「こいが領都かぁ。ラストランドとは比べもんにならんぐれでけねぇ。ところでマルス。新鮮な水は何処にあっとじゃろうか?」


「普通の水しかないと思いますよ? それ、出発前にも言いましたよね? というか、なんで付いて来たんですか!?」


「精霊ってんな好奇心が強かもんなんじゃ」


 ヴォジャノーイの我儘に頭が痛くなる。


「マルスちゃん……! 久しぶりの領都に興奮してきちゃったわ……!! 可愛い服、買ってもいい……!?」


 自分の金で買えよ!!


「ミャオミャオミャオ!」


 背中のリュックにいるテトまで興奮している。


「あの! 遊びに来たわけじゃないですからね!!」


「わかってるわよ……! あっ、マルスちゃん! あの喫茶店、新しくなってるわ……!!」


 聞いちゃいねぇ。


 何故このようなことになっているかというと、俺がローズを通して辺境伯に謁見を申し込んだからだ。駄目で元々の嘆願だったが、意外なことにすんなり通った。


「謁見は明日です。とりあえず宿を取って旅の疲れを癒しましょう。ローズさん、おすすめの宿はありますか?」


「あるわよ……! 領都で一番高い宿……!!」


 うーん。領都に来たのは間違いだったかもしれない。

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