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念願のピンク

「ローズさん……納得してくださいよ」


「酷い、酷いわ! マルスちゃん! こんな可愛い私に我慢をしろって言うの?」


 我慢しろっ!!


「滝壺に潜ってレンガを取ってくるの大変なんですよ……!」


「シクシク……」


 わざとらしい。


「屋根を魔花鉱石で覆うんだぞ! こんな贅沢があるかっ!」


 もっと言って! ゴルジェイ!!


「そうだぞ! わがままをゆちゃやっせんじゃ」


 カエルの見た目をした水の精霊、ヴォジャノーイもローズを諌める。てか、なんでこいつはマルス領にいるんだよ。湧水の泉に行くんじゃなかったのかよ。


「とりあえず我慢してください……。開拓村の皆様が協力してくれて、やっとこれだけのレンガを運んでくれたんです」


 目の前には屋根用に薄く調整したピンク色のレンガがドサっと山になっている。


 ただ、これだけのレンガがあってもローズの家の屋根に使って、残りをゴルジェイが製鉄したら綺麗になくなってしまうだろう。


「シクシク。分かったわよ! ローズちゃん、我慢する」


 あぁ、辺境伯はなんて面倒くさいやつをマルス領に駐屯させたのだ。俺を怒らせる為の罠としか思えない。俺は試されているのか?


「ミャオ〜」とテトが俺の肩にのって鳴く。慰めるように。


「で、マルス。製鉄炉とワシの家なんだが……」


 ゴルジェイはマルス領に住むつもりらしい。俺としてはローズに対する牽制としてありがたいところだ。家と製鉄炉を作るぐらい全く問題ない。


 ローズの【ボム】をレンガ化して炉に組み込めば容易く高温をキープ出来るだろう。送風設備については考えなくてよいかもしれない。


「おいん家は? 湧水ん泉から水を引いてきて欲しかとだが……」


 ヴォジャノーイまで家を強請る。湧水が欲しいなら、そもそも泉に住めよ! マルス領まで水を引いてくるの大変だろ!!


「あの、マルス領に住むのはいいんですけど、景観を揃えたいので家の形については俺が決めます」


「もちろんだ」

「よかど」


 納得してくれたらしい。丸屋根の家をもう二軒か。まぁ、すぐ出来るだろう。


 それに、ヴォジャノーイの魔術をレンガにして家を建てたら面白いかもしれない。透明な家が出来上がる筈。外から丸見えかもしれないが、滝壺に住んでたぐらいだ。問題ないだろう。


 色々と想像していたら楽しくなってきた。


 結局のところ、俺はレンガを積んで何かを作るのが好きなのだ。幼い頃に遊んだ積み木。その延長線上に【レンガ職人】のジョブがあったと思えば納得出来る。


「ミャオミャオミャオミャァー」


 テトが鳴く。マルス領の先輩は私だぞ? 領民が増えてもそこは忘れるなよ!? そんなふうに聞こえた。


「大丈夫。テトが一番だから」


 テトを抱き上げて背中を撫でると、ゴロゴロ音を出す。なんとも平和だ。願わくは、これが続くことを……。

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