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道すがら

 マルス領からラストランドまでの道のりを進むうちに、ローズへの苛立ちは収まりつつあった。せっかくいい天気なのだ。くさくさした気持ちは入れ替えたい。


 そんな俺の内面を知ってか知らずか、背中のリュックにいるテトはご機嫌な鳴き声を上げる。


「あら、テトちゃんご機嫌ね」


 ローズにも愛想よく「ミャオ〜」と返す。


「そうだ。冒険者ギルドに寄ってマッドボアの干し肉をもらわないと。もうそろそろなくなる頃だ」


 コボルトキング討伐時の報酬ということでテトにはマッドボアの干し肉百頭分が贈られることになったが、流石に一括ではない。一頭分ずつ、冒険者ギルドで受け取ることになっているのだ。


 テトは干し肉と不滅ダケのスープが大好きなので、かなりの勢いで消費している。下手すると一年持たないかもしれない……。


「そういえばマルスちゃん。そろそろ新しいスキルが生えてくる頃じゃない? コボルトキングの件でスキル使いまくったでしょ? それに名声値も溜まった筈よ?」


 名声値……。もしくは悪名値。ローズはあんな胡散臭い理論を信じているのか……。


「まだスキルは増えてないですね。それに、名声値なんて嘘っぱちでしょ?」


 俺の少し前を歩いていたローズが立ち止まり、振り返る。


「そんなことないわよ! 本当に名声が広がったタイミングでジョブのレベルが上がるの! ローズちゃん、経験済み!!」


 反論しようと思ったが、こじれるのは面倒臭い。それにローズのこの表情……。これは自語りしたい時のやつだ。


「……ローズさんは何をやって名声値が溜まって、ジョブのレベルが上がったんですか?」


「よくぞ聞いてくれたわね! マルスちゃん!! あれは忘れもしない三年前。私がまだ冒険者として王都で活動していた頃の出来事よ。討伐依頼を受けてある村に行っていたの」


 はい。やはり自語りでした。


「その日の朝は寒くて、ローズちゃんはなかなかベッドから出られなかった……」


 朝起きるところから語るの……!?


「ラストランドに着くまでに、その話終わります?」


「窓の外を見ると白い。ミスラ王国で雪が降ることなんてほとんどないのに……」


 聞いちゃいねぇ。


「これは何かが起きている。ローズちゃんの直感がそう言ったの。私は慌てて髪を整えお洒落をし、宿から飛び出した。すると村の中央にいたのは……」


 いたのは……?


「氷の肌を持った綺麗な女だったわ」


 氷の精霊か。訪れた土地は一度、雪と氷に覆われるが、それが解けると豊作が十年続くという。ありがたい存在として知られている。


「私は言ったの。"この寒さの原因はあなたね? 民を苦しめる魔物め! 成敗してあげるわ!"」


「えっ……!! まさか【ボム】を……!?」


「当然でしょ……!! 爆炎魔術で吹き飛ばしてやったわ!! その後、名声は王都中に広がり、ローズちゃんは見事にジョブのレベルが上がって【フレア】を使えるようになったの……!!」


 それ、完全に悪名だろ……。



#



 ローズの話を聞いているうちにラストランドは近くなり、やがて喧騒が耳につくようになった。ちょっと前に来た時よりも、更に賑わっている気がする。開拓民がどんどん流入してきているという話は本当のようだ。


「ローズさん。ピンクの石はどの辺りの露店で見かけたんですか?」


「冒険者ギルドの近くよ!」


 ならば丁度いい。ついでに冒険者ギルドにも寄れる。


 ラストランドの門を潜り、大通りに入ると人で溢れかえっていた。人混みが苦手なのか、背の低いローズが俺を盾にする。


「マルスちゃん、頼んだわよ!」


 仕方ない。


「はぐれないで下さいよ」


 泳ぐように人垣を掻き分け進んでいく。背中でテトとローズがギャアギャア騒いでいる。なんだか楽しそうだ。


 大通りを進み、冒険者ギルドが見えてきたが、肝心の露店はどれだろう? ピンクの石なんて見当たらない。


「ローズさん、ぱっと見ピンクの石を置いてる露店はないですけど……」


「えっ、そんな筈ないでしょ!! マルスちゃん、私を持ち上げて!!」


 背中から前に移動してきたローズがぴょんぴょん跳ねている。軽くため息をついてからひょいと持ち上げると、彼女はキャッキャと声を上げた。子供かっ……!!


「ないでしょ?」


「ないわね……。まだ店をやってないのかしら」


 露天商なんて気まぐれだ。いつ店を始めるかなんて分からない。


「じゃあ、先に冒険者ギルドに行きましょう」


 俺はローズを持ち上げたまま、冒険者ギルドに向かって歩き出した。

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