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38. 懐かしの教祖

 うぉぉぉぉ!


 まるで地鳴りのような歓声が会場を包んだ。


 しかし、ベンは固まり、動けなくなる。


「マ、マーラ……さん? な、なぜ……」


 そう、教祖は見まごう事なきマーラだった。勇者パーティで唯一ベンに気を配ってくれた憧れの存在。優しくて素晴らしいスキルを持っていたヒーラー。なぜこんなところで教祖なんてやっているのか?


 マーラは熱狂のるつぼと化した会場を見回し、ニッコリと笑うと、高々とVサインを掲げた。


 直後、まばゆい紫の光がVサインから放たれ、会場全体にキラキラ光る紫の微粒子が舞っていく。


 信者はみな恍惚(こうこつ)とした表情を浮かべながらその微粒子を浴びた。やがて、立っていることができなくなり、次々とぐったりとしながら席に沈んでいった。


 ベンは腹痛に耐えながら必死に考え、ついに理由に気が付いた。マーラも四天王の魔法使いと同じだったのだ。この計画を進める上で、勇者が得た女神からの加護は危険な不確定要素だった。だからその加護内容の調査のためにパーティに加わっていたのだ。


 そんな裏があったとも知らず、ただのほほんとマーラの優しさに惹かれていた自分が情けなく、ガックリとした。


 ベンはふと周りを見て、信者が全員座っているのに気がついた。


 あっ!


 焦って座ろうとしたベンをマーラは見逃さなかった。


「べ、ベン君……」


 マーラは渋谷でとんでもない強さを見せたベンの姿を思い出し、顔をこわばらせ、焦る。


「あ、いや、これは、そのぅ……」


 ベンはこの想定外の事態に混乱した。ただでさえ腹が痛くて頭が回らないのだ、何を言ったらいいかなんてさっぱり分からない。


「男よ! 男が紛れ込んでるわ!」


 マーラはベンを指さし、必死の形相で叫んだ。


「キャ――――!」「お、男!?」「ひぃぃぃ!」


 ベンの周りから信者は逃げ出し、会場は大混乱に陥る。


「第一種非常事態を宣言します! 総員戦闘配備! アクセラレーターON!」


 マーラはVサインを高々と掲げ、叫ぶ。


 すると、信者たちは全員ローブをたくし上げ、金属ベルトのボタンを押した。


 は?


 ベンは目を疑った。


 彼女たちが押しているのは魔王の下剤噴射ガジェットだった。いったいなぜ? 何のために?


 女の子たちのお尻に次々と噴射される薬剤。それは彼女たちに言いようのない感覚を呼び覚まし、


 ふぐっ! くぉぉ! ひぐぅ!


 と、口々に声にならない声を上げた。


 直後、バタバタと倒れる女の子たち。そして、響き渡る排泄音。


 一万人の可愛い女の子たちが壮絶な排泄音をたてながら床に倒れ、痙攣(けいれん)している。まさに地獄絵図だった。


 オーマイガッ!


 そのあまりの凄惨さにベンは頭を抱え、叫ぶ。


 一万人分の排泄物が振りまかれた会場は、酸鼻(さんび)を極める阿鼻叫喚(あびきょうかん)の様相を呈し、まるで下水が逆流したトイレのような、息をするにもはばかられる状況になってしまった。


「ベン! お前一体何をした!」


 鼻をつまみながら鬼のような形相でマーラが叫ぶ。


 ベンは言葉を失い、ただ、その壮絶な状況に首を振る。


 何をしたというより、『何やってんのあんたたち?』と言わせてほしいベンであった。


「死ねい!」


 マーラはそう叫ぶと金色に輝くエネルギー弾を次々と空中に浮かべ、ものすごい速さでベンに向けて撃ってきた。


 おわぁ!


 ベンはすかさず空中に飛んで逃げる。エネルギー弾はベンの座っていた椅子に次々と着弾し、激しい衝撃が会場全体を揺らす。


 もうこうなってはマーラを(たお)すしかない。ベンはベルトのボタンをガチッと押し込んだ。


 ふぐっ!


 二発目のボタンはもろ刃の剣である。


 ぐぅ、ぎゅるぎゅるぎゅ――――!


 暴れまわる腸に肛門は決壊寸前となった。


 くはぁ!


 腹を抱え、ゆらゆらと飛ぶベン。今にも落ちそうである。


 ポロン! ポロン! と『×100000』の表示が出るが、意識をすべて括約筋に奪われてもう何もできない。


 その時だった。


「ベン君! 受け取って!」


 会場の隅からベネデッタが千倍にブーストされた神聖魔法の癒しの光を放った。


 おぉ、おぉぉぉぉ……。


 ベンは空中をふわふわと漂いながら黄金色に輝く。腹痛は相変わらずではあるが、意識がはっきりしてくるのを感じた。


 それはベネデッタが必死に練習して勝ち得た千倍のスキル。ベンはその熱い思いに感謝し、グッとサムアップして見せた。そして、ステージを見下ろす。


 マーラは何やら恐ろし気な紫色の光る円盤を無数に浮かべ、鬼の形相でベンをにらんでいた。


「小僧が! まさかお前が立ちはだかるとは……。死ねぃ!」


 マーラはそう叫ぶと円盤を一斉にベンに向けて放った。


 鮮やかな紫に輝く円盤は、それぞれ複雑な軌道を描きながらベンに向けて襲いかかる。


 くぅ!


 円盤は巧みにベンを取り囲むように飛来し、ベンは忌々しそうににらんだ。


「あぁっ! ベン君!」


 悲痛なベネデッタの叫びが響き、直後、円盤はベンのあたりで次々と大爆発を起こした。


 激しい衝撃が会場を揺らし、爆煙があがる。


 いやぁぁぁ!


 ベネデッタの悲鳴が響き渡った。


「はーっはっはっは! 口ほどにもない」


 マーラが勝利を確信した時だった、マーラの真後ろにベンは現れ、腕でグッとマーラの首を締めあげた。


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