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「切ない思いで」


 「切ない思いで」


 悲しい風が私の心にそっと触れていく。

 この場所に来たのは一年ぶりだが、何も変わっていない。

 私が幼かったあの頃のままだ。


 「ひさしぶりだね」


 そう言われた気がして、静寂に包まれた墓地で一人頷く。


 あの子は家庭の事情で、私が小学三年生の時に転校してきた。

 ずっと外国に住んでいたという彼女は皆と話すことが出来ずに、

 いつも窓から外を眺めていた。


 ある日、泣いている彼女を見つけた。

 ゴメンナサイ、ゴメンナサイ……

 弱々しい声で片言の日本語を繰り返していた。


 誰も居ない教室で、

 可愛い顔をくしゃくしゃにして、

 しゃがみ込み泣いている。


 彼女に笑みを浮かべたはずの自分の瞳から、

 温かいモノが流れていることを知った時、

 どうしようもなくおかしくて二人で笑ってしまった。


 優しくて、

 恐がりで、

 ニンジンが嫌いで、

 私の大好きだった子。


 あれ以来、彼女と私は何をするにも一緒だった気がする。

 言葉はほとんど解らなくても彼女の言いたいことは理解できたし、

 私の考えも向こうに通じていた。


 毎日が楽しかった……

 彼女も本当に楽しそうに見えた。


 でも、それは私の思い込みに過ぎなかったのだ。

 後悔の念は未だ消えない。



「ありがとう さいしょでさいごの ともだち」



 この手紙を見るたびに、私の心は酷く痛む。


 十五年以上経った今でも、

 戻らない過去にしがみつき現実を疑う自分がいる。

 悲しい、一生忘れられないとても悲しい夢を見ていたような感覚。


 ひとつだけ教えて欲しい事がある。

 あの時の涙と、今のこの涙は、もう違うものなのかな。



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