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「あいつ」
「あいつ」
「眠れないのか?」
彼女は天井を見ながら、疲れた顔で、そんなことないよと呟いた。
それが、始まりの日──
「寒いのか?」
震える彼女に尋ねた。
俯きながら、そんなことないと返ってきた。彼女の様子は、おかしくなる一方だった。
「何やってるんだ!」
倒れている体を起こす。彼女は乾いた瞳で虚空を睨んでいた。ついには、彼女はジサツを図った。
「一体、どうしたんだ?」
そう問い詰めると、『どうしもしない』そう言って、彼女はくすくすと笑いはじめた。
「あいつ…」と彼女が呻く。
あいつ? 僕は考えを巡らす。
彼女は今度は泣くばかりで、なかなか話してはくれない。
「あいつが出て来るのよっ!」大声で怒鳴った。
そうか、あれから18年か。彼女の小さな体を僕は優しく抱きしめた。
もうじきあいつが釈放される。
どれだけ時間が経っても、あいつがどこかで生きているいる限り、この子の傷は癒えない。