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05

 私は急いで二人の設定をノートに書き起こす。


―――――


名前:

サウル・レイモンド・サルヴァシヨン


作中での立ち位置:

『聖と魔を巡れるスフィア』のサポーター(リメイク版では隠し攻略キャラ)

『聖と魔を巡れるスフィア2』のメイン攻略対象


ヒロインとの関係:

『聖と魔を巡れるスフィア』→学園での先輩

『聖と魔を巡れるスフィア2』→王室からの命令で行動を共にする協力者


ストーリー:

『魔族公』として恐れられるサルヴァシヨン公爵家の当主。

第一作目では家庭の事情により登校日数が少ない先輩として登場(おそらく家督相続の手続きと慣れない領地経営で多忙を極めていたため)。

人間関係や勉強、進路など様々なことで悩むヒロインの前にふらりと現れてはアドバイスして去っていく。

リメイク版では慣れない環境で健気に頑張るヒロインの姿に癒されると同時に励まされ、友情を感じるようになる(この頃すでにエレオノーラと婚約していた模様)。

続編では攻略対象ヘクター・サム・フェリス(お兄様)の妹エレオノーラ(つまりは私)と婚約していることが明かされる。

婚約者を大切にしているが、相手に嫌われているため関係が上手くいっておらず、そのことを悩んでいた。

王室からの命でヒロインと共に嫌魔族派の動きを探っていたところ、自分の婚約者がサルヴァシヨン家及び魔族全体を排除しようとする計画に加担していることを知る。

ヒロインと共に計画阻止に奔走するが、ヒロインを逆上した婚約者から庇おうとし誤って殺してしまう。

以後、罪悪感に苦しめられるが、ヒロインに支えられ、最終的にヘクターとも和解する。

学生時代からずっと自分を癒し慰めてくれたヒロインに心惹かれていることに気づき、彼女に告白。

エンディングで結婚式を挙げる。


初登場:

第一作目ゲーム開始序盤。

学園内で迷い入学式に遅れたヒロインと中庭で出会う。


備考:

サルヴァシヨン家の人間は猫と縁が深く、当主は猫科の動物と意志疎通を図れる(ゲーム中ではサウル様本人も黒猫を使役し、自分の目や耳として使っていた)。

またサルヴァシヨン家の人間は魔力量が非常に高く、成人を迎えた頃から魔力過多症に苦しめられる。

そのままでは二十代半ばに命を落とすため、代々当主は同じく魔力量の多い相手を伴侶とし、特別な契約を交わすことで寿命を延ばしている(続編ではサウル様も魔力過多症に苦しめられるシーンがある)。

初代サルヴァシヨン公爵は人間ではなく悪魔だったという説があり、子孫に代々受け継がれている貴石眼や不思議な能力、膨大な魔力量などはその名残と言われている。


―――――


デフォルト名:

リリー・ハウエル(名前変更可能)


作中での立ち位置:

聖女


ヒロインとの関係:

本人


ストーリー:

庶民生まれのごく普通の女の子。

十五歳の誕生日に祝福と精霊契約の儀式を受けに教会へ行く。

儀式の最中に大聖霊が降臨したため、国から聖女として認定され、ハウエル男爵家の養女になる。

王立学園に通いながら攻略対象たちと絆を育み、彼らと結ばれるか、聖女として教会で生きるかの選択を迫られることになる。

聖女として教会に所属した将来 (ノーマルエンディング)で続編のシナリオに突入。

魔族を排除しようという怪しい動きが見られるので教会内部と嫌魔族派の貴族たちを探れと王室から密命が下る。

王室から紹介された協力者(攻略対象)たちと行動を共にし、事件を追いながら絆を育んでいく。

尚、続編に限りノーマルエンディングは実装されていない。


備考:

誕生日に儀式に臨んだが、ヒロインに契約精霊はいない。

その代わり大聖霊の加護があり、近くにいる精霊が協力してくれるので精霊術の行使は可能。

通常、一人一体の精霊契約となるため一つの属性の魔法しか扱えないが、ヒロインは全属性の魔法の使用が可能(いわゆる主人公補正)。

作中では、素直で明るく心の優しい頑張り屋さんとして描かれている。

典型的な愛され主人公。


―――――


名前:

ヘクター・サム・フェリス


作中での立ち位置:

『聖と魔を巡れるスフィア2』の攻略対象


ヒロインとの関係:

王室からの命令で行動を共にする協力者


ストーリー:

親魔族派であるフェリス侯爵家の当主。

サウルの親友であり、その婚約者エレオノーラ(つまりは私)の兄。

学生時代から派閥を問わず交友関係が広く、若いながら嫌魔族派の貴族にも多少の影響力がある。

ヘクターのルートでのヒロインは、度々嫌魔族派の貴族の夜会会場に潜入する。

そこでヘクターと一緒に、エレオノーラが嫌魔族派の屋敷に頻繁に出入りしており、何らかの計画に利用されていることを知る。

エレオノーラを救い出すべくヘクターと協力しながら奔走するうちに、二人の間に絆が芽生えていく。

サウルルートではヒロインを庇おうとした親友に妹を殺される。

大切な妹を亡くしたことを深く嘆くも、事情を聞き、サウルの心情を思いやり寄り添おうとする姿勢を見せる。

罪悪感から中々自分と会おうとしないサウルに痺れを切らし、ヒロインに仲介を依頼する。


初登場:

第二作目ゲーム開始序盤。

第一作目のエンディングから半年後、王室からの密命を受けヒロインがフェリス家に訪問した時に当主として迎える。


備考:

ゲームでは妹思いの若き侯爵として描かれていたが、今世のお兄様は私に対する過保護ぶりが酷い。

おそらくゲームの十割り増しは過保護。

あのお兄様が私の嫌魔族派の夜会の出入りを許可するとは思えないので、たとえ続編シナリオに突入しても本当にイベントが発生するか不明。


―――――


(……やっぱりこれ私大丈夫なんじゃない?)


 勢い余ってお兄様の設定まで書き始めたが、思わず途中でペンを止めた。だってどう考えても嫌魔族派の人間がお兄様のガードを掻い潜って接触してくるとは思えないのだ。

 何度も言うが、お兄様は私に対して非常に過保護だ。買い物だって商人を屋敷に呼ぶので外出の必要などないし、その商人だって別室で待機させて私とは顔を合わせないようにする徹底ぶり。

 そう、お兄様は私の外出許可を絶対に出さない。お茶会や夜会のマナーは教養として家庭教師から学んでいるけど、招待状をもらっても一度も参加を許されたことなんてない。この秋から王立学園へ行くのでさえ当初は「貴族の義務なんて関係ない! ネリーは行かなくてもいい!」とかなり反対していて、執事のユリエルに窘められていたくらいだ。

 多分お兄様は、私を外部の人間と接触させたくないのだろう。使用人だって我が家は私の子どもの頃から働いている人たちばかりだ。人が減っても新しい人を雇わないので、我が家の屋敷で働いている使用人の数は、侯爵家にしてはおそらく少ない。

 私が魔族に悪感情を持っているなら話は別だろうが、前世の記憶を取り戻した今の私は親魔族派だ。そんな厳しいお兄様の目を盗んで、わざわざ私に接触してくる嫌魔族派がいるだろうか? これぞ前世のことわざで言うところの「骨折り損のくたびれ儲け」というやつだ。嫌魔族派の心配はないだろう。

 つまりですね、私が殺される未来はお兄様によって自動的に回避されるということですよ。あれ、やっぱりこの縁談受けても何も問題ないな。


 ……こうしてよくよく考えてみると、いくら相手が親友とはいえ、よくあのお兄様が縁談を持ってきたものだと感心してしまう。きっとそれだけサウル様を信用しているのだろう。

 うん、大丈夫だ。お兄様が私を不幸にするはずがない。前世の経験から自分の男を見る目は全く信用できないが、お兄様は信用できる。そのお兄様が私の相手にと選んだのだから、サウル様はやはり素晴らしいお人柄なのだ。


 確かに、行く行くはサウル様とヒロインが恋に落ちるかもしれない。しかしそれは現時点では可能性の一つでしかなく、いくつもの未来のうちの一つに過ぎないのだ。たとえ二人が恋に落ちたとしても、私がすんなりと身を引けばそれで済む話だ。というかヒロインを差し置いて推しと結婚なんて恐れ多いので、そんな事態になったら私にはその選択肢しかない。

 何と言っても私はサウル様×ヒロイン推しだ。二人が結ばれる様を間近で見守れるというのならこれ以上の喜びはあろうか。いや、ない! むしろ一時的にとはいえ推しと婚約できるなんて人生の運を全て注ぎ込んだようなこんな僥倖を逃してたまるかという気持ちだ。何せ婚約者になったら堂々と推しを観察し放題。ヒロインとも仲良くなれれば私がサウル様との関係を取り持つこともできる。うん、素晴らしい。これにて問題解決!!


 私はノートを閉じた。問題なく死亡フラグが回避できるとわかった以上、もうわざわざ破滅対策など考える必要はない。

 それよりも大事なことは一週間後に控えた推しとの初対面だ。いくら私がバックグラウンドのない舞台装置のモブとはいえど、推しと会うのだから恥ずかしい格好はできない。ドレスを選ばないければ。

 それにしても本物のサウル様と会えるなんて夢のようだ。こんなにワクワクすることなんてここ最近ちっともなかった。浮かれた気分で書斎机を片づけると、私は自分の部屋に設えられたウォークインクローゼットを覗き込み――


「うっ……」


 そこに並んでいたドレスたちに思わず絶句してしまった。

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