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EP1:始まる関係

 非常に冷たく、激しい。一番の印象としてはウザい風を、ドアを開けると共に感じる。

 冬ももうそろそろ終わりだと言うに、この寒さ。気候とは難儀なものだと思う。


 ……徒歩五分程という、やけに近い我が母校へと早々に到着。

 遅刻ギリギリだ、と。正直耳障りな教師の注意を聞き流しながら、教室へと出向く。


 ……早速だが、かなりのストレスが私の心の中へと襲ってくる。

 喧しく感じる雑談が耳から脳へと響き、また脳内でも、様々な心の声が響く。


 心を読めたら、と。時々他の物語で目にする事があるが、その時はそいつらにこの煩さを体験させてやりたくなってくる。

 脳の外からも、中からも。ただただ煩い他人の声に、教室に入ってから五分もせずに目眩を覚えてしまう。


 最近、学校、というものが……人生で()()()に嫌いになってしまった。

 ……今日も、明日も。この憂鬱な体験をすると思うと、今から吐き気がしてくるな。



 □



 やっと今日の全授業を終え、私はできるだけ足早に玄関で靴を履き替える。

 まだ慣れぬこの多大なストレス。()()()()()()()()()まだ立ててはいるが、このままではすぐに()()保健室で世話になってしまう。


「ちょっとちょっと!」


 靴をなんとか吐き終えたため、私はもう必死で学校を出ようとした時だった。


 昨日、嫌ほど印象に残ったその鈴のような女性の声に。

 私は頭が猛烈に痛いのを忘れて、咄嗟に振り向いてしまった。


 ……彼女だった。


 この学校で崇められ、拝められし十人の女子……[十美女]。その一人。

 そして昨日、その[十美女]の中で唯一汚い裏が無かった女。私が興味を示した、女。


 その名は、[鈴川すずかわ 姫乃ひめの]。


 [十美女]と呼ばれるに相応しく、女性の中では平均的な高さの体を、頭から足の隅々まで綺麗で整った姿をしていた。


 具体的に言うと、まず血色がよく健康的な白くて綺麗な肌。見る感じの雰囲気は瑞々しく、シミなんて欠片すらもない。

 そこに目立つように、そしてバランス良く配置されたパーツも美しい。


 ぱっちりとした二重のアーモンドアイ。長い睫毛で覆われているにも関わらず、茶色く光った瞳は存在感が大きい。

 中心に配置された小さい鼻。目とは対照的に存在感は薄いが、筋は綺麗に通っている。

 中でも驚く程に瑞々しい唇。触ればぷるん、と音がなりそうで発言する度に艶めかしく動く。


 そんな顔の上に乗る髪の毛。光沢を放つそれは瞳と同じく茶色一式で、一つに纏められていた。


 ……まあ、そんな姿だ。多少、少し前のテンションが戻ってきてしまっていたが。

 しっかりと私を捉えている茶色い瞳に視線を合わせ、私は口を開いた。


「……ああ、昨日はありがとう」


 まだ意識を彼女に向けていないため心は読めてないが、恐らくこの事だろう。

 ……尤も、意識を向けたら私は倒れてしまうかもしれないが。


「うん!今日廊下で見かけたから気づいたんだけど、同じ学年だったんだね」

「ああ、そうだな」


 ……なんとか返事はしているけれど、正直言って早く学校から抜け出したい。

 二階から、近くの教室から。様々な声が、私の脳内で響いてくる。


「えっと……あ、ちょっと待ってね」


 そんな気持ちを察したのか、はたして。ともかく、俺の足元を見てなにかに気づいた彼女も靴を履き替えだした。

 スリッパから黒の小さいローファーへと履き替え、つま先で地面をつついてこちらに近づいてくる。


「早速なんだけど、折角だし一緒に帰ろ?」


 そして、なんの裏もなさそうな笑顔を向けてそう言ってくる。

 いきなり変な距離感だが……昨日のことを考えると、本当に裏はないのだろう。


 私としても、彼女にはやはり興味があったために「ああ」と頷いた。

 ……常に『ああ』から始まってしまうのは許して欲しい。こちらも必死なのだ。


「ありがとう!」


 と彼女は言うと、子供のように軽やかに走って、さっさと校舎から出ていった。

 ひらり、と凛々しく振り向いて……抜いた私を待ってくれている。


 そんな仕草を、とても眩しいな、と思いながら。私も校舎を出ることにした。


「じゃあ行こ!君の家はどっち?」


 前者の発言と同時に彼女は歩きだし、校門を指さしながら後者のことを訊いてきた。

 私が住んでいる所はここから右だったため、「右だけど」とシンプルに答える。


「お、一緒!幸先いいね〜」


 どういう意味なのかは定かではないが、とりあえずスルーして彼女と共に右へ曲がる。

 すると彼女は、「じゃあさっそく」と前置きをしてくる。忙しい女だ。


「私の名前は鈴川姫乃っていうの、D組。よろしくね!」


 「君の名前は?」と。それ以外私に返答させる余裕も見せずに、彼女は訊いてくる。

 私は彼女のペースや精神的距離に気圧されつつも、素直に口を開く。


「A組のソウシン。こちらこそよろしく」


 彼女が紹介してきた事柄と同じようにして答えると……彼女は首を傾げた。


 少し痛みがひいてきた頭に……遂に彼女の声をしっかりと捉える。

 いつもの反応に、私は苦笑した。


「……苗字は?」

「ソウ、だよ」


 言われた通りに答えると、彼女は「え?」とまたもや首を傾げる。

 「こほん」と一回置いて、私は苦笑した表情のまま口を開いた。


「想像のそうに、昔の中国の国名のしんそう しんが私の本名だ。ちゃんと日本人の血筋だよ」

「なるほど……珍しい苗字だね」


 「そうだな」と、私は頷く。実際、そう、という苗字は日本に数えられる程しかいない。

 ……ただ。


──……でも、同じ苗字の人をうちの学校で聞いたことがあるような……?


「ちなみに、三年生の中で有名になっている同じ苗字のあの人は私の実の姉だ」

「えぇ!?すごく意外!」


 ……まあ、確かに私と姉さんは傍から見れば全く似ていない。傍から見れば、な。

 そんな姉さんのことは、後ほど紹介しよう。一緒に住んでいるからな。


「それにしても……シンくんって男の子なのに一人称が私なんだね?」


 ……ああ、そういえば言っていなかったな。文章では分からないかもしれないが、私もれっきとした男子高校生だ。

 ……で、今ナチュラルに名前を呼んできたが……私も名前で呼んでよさそうなのか?


「昔からの癖でな。今更治すつもりはないけれど、話す時は少し浮いてしまうのが悩みだ」

「なるほど……でも、私は大人っぽくていいと思うよ!」


 本心からテンションが高めな感想に、「ありがとう」と礼を言っておいた。

 次の曲がり角に「私は左だけど」と言われて、同じだったので頷いた。


 ……さて。


「じゃあ、私からもヒメノに質問いいか?」

「! うん!もちろんいいよ!」


 「で、質問って?」と促してくるヒメノに多少気圧されつつも、私は純粋な疑問を言葉にする。


「どうして先程、ヒメノは私に話しかけてきたんだ?」


 それを聞いて彼女は「え?」と素っ頓狂な声をあげるが、当然の質問だ。

 私は今や友もおらぬ、所謂[ぼっち]という存在。そんな私になぜ話しかけてきたのかは、誰もが疑問に思うことだろう。


──昨日のことがあったからってだけだし、どうしてって言われてもなあ……


「……うーん……強いていうなら、シンくんが面白そうな雰囲気を持っていたから?」

「面白そうな雰囲気……?」


 イマイチピンと来ない理由に、私は首を傾げる。そもそもとして、ヒメノは話しかける理由は考えて無さそうだと、少し思った。


 そんなヒメノは、「そうそう」と頷く。


「なんかね、シンくんって一人称以外でも色んな大人っぽい雰囲気みたいなのがあるの」

「ふむ……?」


 ちゃんと理解しようと耳をたてるが、そろそろ私の家が見えてきてしまった。


「その雰囲気は、シンくんの場合だと背伸びしてる感じじゃなくて無意識に放ってる。

 そんなのシンくんだけで、今日昼休みで見かけた時に興味がでたんだよ」


 ……なるほどな。

 ちゃんとヒメノの本心からの言葉に、私は胸を撫で下ろす。


 ……さて、もう家の前だ。


「なるほど……ありがとう。それとすまない、ヒメノ。ここが私の家なんだ」


 私がそう言って立ち止まると、彼女は「おろ?」と目を見開いた。

 ……あれ?それは本当なのか?


「早いね?それに、私の家と大して距離が変わらない……」


 彼女が言葉にする前に心の声が聞こえて、私は先に目を見開いていたが……どうやら不自然な行動は気が付かれなかったらしい。


「そうなのか?具体的にはどこに?」


 そう訊くと、彼女は私の家と向かい側へと顔を向けたため私も顔を向ける。


「この公園の向こう側が私の家。今から訊こうとしたらシンくん先に止まっちゃった」


 それはなんだか申し訳ないこと?をした。

 謝る必要はなさそうなのでしないが。


「近いな」

「ねー、近いね……あ、いいこと思いついたんだけどさ」


 彼女がその発言するとともに考えた事柄に、私はそれを捉えた自分の頭を疑った。


「明日から一緒に登校しない?」



 □



  ……今日は色々と、変わったことに遭遇してしまった。


 あの提案なのだが、私はヒメノにまだ興味があったため承諾した。

 ……早めに登校する件に関しては、正直眉をひそめてしまったが。


 ついでに、連絡先も交換した。

 彼女はそういうのに躊躇がないらしく、私も断る理由がないためあっとういう間に。


 まだ挨拶のスタンプしか表示されていないヒメノとの個人チャットを、私は椅子に座ってぼーっと見つめる。


「……彼女には色々と予想外なことに遭遇させられるな」


 別に嫌でもないことにため息を吐いて、私は目の前の()()に向き合った。

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