歪んだ心
新作。よろしくお願いします。
''完璧な人間はこの世に存在しない''
こういう言葉があるのはご存知だろう。
意味としては言葉通りだ。
何もかもが完璧で、弱点がない人間はこの世に存在しない……というもの。
今の私は、この言葉ほど信じているものは無い。
ある物語では、完璧な人間はいるらしいが……少なくとも、この物語で完璧な人間と会ったことは、私にはない。
……さて、なぜ私がこういう話をしているのか。それはと言うと……
私の学校では[十美女]という、完璧な女性と呼ばれた10人で組織されたグループがある。
厳密には組織させられている、なのだが。
その[十美女]に所属させられた10人は……
''容姿端麗'' ''文武両道'' ''品行方正''
が揃っている才色兼備であり、尚且つ性格までもが完璧である。そう、言われている。
「完璧な人間、10人もいるじゃん!」
その言葉についてだが、異議あり、だ。
先程の三拍子。これが揃っているのは、まあごく稀にいるだろう……が。
性格まで完璧、というのは……果たしてどうだろうか。
何が言いたいのか、だって?
先に言っておこう。私は人の心が読める。
厳密に言うと、読めてしまう、だが。
これを言ってしまえば、私の言いたいことはすぐに分かってしまうかもしれないな。
さっそくだ。
私は、[十美女]の心を読むために、その一人に近づいてみた。
「〇〇さんほんと可愛いよねえ!」
「その上勉強も運動もできる!流石だ!」
早速リア充のモブ男達が、[十美女]の一人を褒め倒していらっしゃる。
ちなみに[十美女]の人気度は、好みが人によるものなのか疎らでバランスがいい。
……で、その[十美女]の一人の女性も。
「ふふ、そんなことないですよ。でも、お褒めに頂き光栄です」
謙虚。こんな完璧であって、性格が''謙虚''なのだからさすがは[十美女]だ。
表の面、の話ではあるがな。
さて、心の中を見てみよう。
──当たり前よ!私の表だけを見てんじゃないわよこのモブが!こちとら努力の量があんたらとは違うんですぅ!
……謙虚の欠片もない、酷い有様だ。
ちなみにこの女、家に帰ると壁を殴りまくってストレスを解消しているらしい。
まあ、同情はするさ。
折角頑張って青春しようとしてるのに、みんな上っ面しか見ない。虚しくなるだけ。
さて、一人だけで粗方分かっただろう。
[十美女]はたしかに才色兼備だが、性格は誰も彼もが''歪んでいる''。
もうこれで9人も読んだんだが……
一人は能力で心の中で皆を見下して。
で一人は美貌でクラス裏を支配して。
また一人はステータスで男を食べて。
私が心を読んだ結果、全てこれだった。
……無論、こんなものを晒している私も、相当心が歪んでいるのは自覚済みである。
特段楽しくてやっているわけではないのだから……私の方が悪質かもしれないな。
だが、この歪んだ心は当たり前のものだ。
人間誰しも、欲望というもので皆心が歪んでいるものなのだ。
少なくとも、この物語の人間はどこかしら心が歪んでいる。
だから私は最初の、あの言葉ほど信じているものは無い、と述べたのだ。
もし、分かっていただけたのなら幸いだ。
……さて。
[十美女]の中でまだ心を読んでいない人間が、あと一人だけになってしまった。
余談だが、私のこの能力が覚醒したのはつい最近の出来事で、読める範囲も少し狭い。
心を読めたのも最近だし、ターゲットは別のクラスなために心を読んでいなかった。
……最近、か。
最近まで、私もあの[十美女]の事を崇め、拝んでいたというのか。
今になると、少し吐き気がしてくるな。
閑話休題。目的人物が微かに見えた。
どうせ、彼女の心も歪んでいるのだろう。
調べなくてもわかることなのに、突き止めてやりたい。そういう心が私の中で強かった。
だから私は、その女に近づく。
その女もまた、陽キャのモブ男達にチヤホヤと囲まれている。
いやはや、やはりさすがは[十美女]だ。
今や友達のいない私とは格が違──
「───ッ!?」
その時だった。
彼女に近づこうと走り寄って行く陽キャ。その肩が、私の肩に勢いよく衝突したのだ。
元々持つ力もさほどなく、無防備だった私は一瞬で体のバランスを崩してしまった。
さして数秒もしない内に、硬い廊下に顎が叩きつけられた。
「ッってぇ……」
歯が唇を切り裂いてしまい、口元にいやに鮮やかな血を流しながら私はそう呻いた。
「大丈夫ですか!?」
そしてまた、その時だった。
[十美女]のその女が、蠢く男の中から私を見てそう叫んでいた。
「んん?」
「ああ、あんな陰キャいいだろ。それよりさあ……──」
……全く、突き飛ばした張本人の癖に酷い扱いである。
そう思いながら私は立ち上がると……
「すみません!大丈夫ですか!?」
[十美女]の女が、男を掻き分けて私の方に近づいてきたのだった。
心配そうな上目遣いで、その視線は恐らく血が流れる私の口元に向かっている。
「うっわきったね……」
「離れた方がいいよ〜?」
……まあ、女は私をこかしてくれた張本人の言う通りにするべきなのだろう。
どうせこれは、こけた私を心配して周りの評価を上げるためのものだろう。
……丁度いい。今からこの女の心を読もう。
いくつも脳内から響いてくる声に、正直頭が痛くなりながらも……私は目の前の女に意識を集中させる。
……さて、聞こえてくるのは……
──本当に大丈夫かな!?怪我してるよね?えーっと……とりあえずティッシュ……!
………ん?
……なぜ目の前の女は、赤の他人である私を自分が犯した過ちでもないにもかかわらず、心配してくれているのだ?
「おいおい、そんな血で汚い奴ほっとけよ」
「そうそう。汚れちゃうよ?」
私をこかしてくれた張本人とその友らしき者のセリフに、ティッシュをポケットから取り出そうとしていた女が振り返る。
「そもそもとして、あなた達がこの方を怪我をさせたのでしょう!?それなのにその扱い、恥ずかしくないの!?」
……これは、また驚くようなことをしてくれる子だな。
今も尚この女の心を読んでいるが、思ったことをそのまま口にしている。
この女に怒られた犯人達は、居心地悪そうに黙りこくってしまった。
「まったくもう……あ、あったあった。大丈夫?ちょっと失礼するね?」
「……え?」
「「「「「は?」」」」」
次の瞬間だった。
女は私の片頬を手で優しく包み、ティッシュで口元についた血を拭ったのだ。
それをされて私……いや、私たちは呆然としてしまった。
「よし、拭えた。また血が流れるかもしれないから、早めに止血しておいで?」
「え?あ、ああ。ありがとう……恩に着るよ」
「いえいえ」
私はさすがに汚いために「捨てるよ」と女のティッシュを奪い、振り返って走り去る。
……これはまた、特大に驚いたな。
もちろん、私はあの女の心を読んでいた。
しかしあの行動は、彼女の本心から成り立つものであり……裏は全くなかった。
私は彼女に優しく包み込まれた片頬に手を添えながら、呟く。
「……私が一番信じていたもの。彼女にぶち壊されてしまったらしいな」
……これが、私と彼女との出会いだ。
新しく投稿させて頂くこの小説。少し宜しくない描写がありますが、あくまでこの物語のものです。
この作品は超不定期更新となりますが、それでももしよろしければブックマークと評価をポチッとよろしくお願い致します。