色の無い世界
一から何もかも構築できるという喜びを噛み締めながら僕は、とりあえず泣き止む。
そして、初めて赤ちゃんをあやすことに成功した喜びからか俺を見て両親は満面の笑みで、
「サクト、お前の名前は今日からサクトだ。」
何の因果か、俺の前世の名前と被っている。俺の前世の名は策斗。神木策斗だ。まあ名前が同じだと呼ばれたときに反応がしやすい。
小さなことに驚きつつもざっと計画をたてる。
まず、この家に書物など情報収集に必要なものがないかざっと目だけであたりを確認する。
「うーん、無さそうだ。」
そもそも、この世界に文字を紙に書き留めるという習慣があるのか。
根本から前世と異なるという可能性だってあり得る。
ただ、いきなり赤ん坊が親に喋りかけるというのもおかしな話だ。
となると自力で情報収集をしなくてはならない。悔いの残らないように努力を怠ってはいけないが焦りはもっと禁物だな。
そういえば、幸いにも言語が日本語と同じだったな。ならばここは平行世界のようなものか?
いや、しかし家の中は見たことのないような文化のような。
「リリィーそろそろご飯にしないか?」
「そうですね。私もちょうどお腹がすいてきた頃ですし。」
そして母親は何やら皿の上にある生肉に聞いたことのない言語で五秒ほどぶつぶつといい終えた。
その後肉は美味しそうに焼けた。
「っっ!?」
火を使わずしかも調理器具すら使わずに、あたかもそれが当然のように父親もコップに水を注ぎ始めた。
それも虚空から。
俺は驚き過ぎて声もでなかった。
もしかしたら、ここは今の不自然な事象が常識なのかもしれない。
そして、両親がいない間に家の中をくまなく情報になりそうなものを探した。本は存在して文字は読めるところもあった。
情報を集めるには文字を読めるようにしようと、文字の勉強をした。
そして二週間ほど経過した頃ある程度理解することはできた。どうやらこの世界は魔法と呼ばれるものが存在するらしい。
本を読みあさり1ヶ月が経過したであろう頃、夜に両親が今まで聞いたことのない声で喧嘩していた。
あんなに優しそうだったものだから、俺は耳を凝らして何の話か聞いてみた。
「な であの子 こんな目 会わなきゃ らないの!!」
とぎれとぎれだが口調が強いため少しだけ聞こえてくる。
「こっちが聞 たいよ!!でも、もう決ま たこと んだ。あの のためにもサ トは捨 るし かない だ。」
前世のように目の前の世界が色を無くしていくような感覚に陥っていく。