ペットを飼うのは大変だな
「……………」
ジーーーーーッ
そーいう視線をショーケースに送る少女、阿部のん。
中にいるのは可愛い子犬達。子供達がペットショップの前に興味津々になるのも、分からなくはない可愛さだ。しかし、親達にとってはそうはいかない。動物を飼うって、そんな生易しい事じゃない。すでにお子さんと夫を飼育しているのに、その上散歩にご飯。掃除と手入れにも苦労するペットなんて飼えません。
ペットを飼うなんて金持ちのすること。ペットを飼っていて、金がありませんなんてホザく家庭はまずいないし、そんなんあったら貧乏舐めんな。って怒り狂いそうだ。
「……………」
なんだかんだ神妙な顔になって、阿部のんもペットショップから去っていく。
その様子を見ている人達がいる。
◇ ◇
「絶対に!!絶対に!ペットはダメッ!!」
別に言ってないけど。
「シェアハウスはペット禁止!!それをのんちゃんに伝えなきゃ!」
阿部のんという小学生とワケ有りの同居をしている沖ミムラ。最近、近所のペットショップで動物を見ているのんちゃんが、今にもペットを飼いたいと言ってきそうな気がして、友達に相談していた。
「まぁ、のんちゃんがペットの1匹くらい飼いたいのは分かるね」
「さすがに飼えないのは分かっていると思うが、……それならミムラに相談するはずだぞ」
とある喫茶店の4人席。飲み物も少しのおつまみも出されている状況。ミムラと対面で座る男女からの意見は、冷静なもの。だが、ミムラの隣の野球帽を被った男は。
「あり得ないだろう。すでに、ミムラっていうペットを飼ってるんだから」
「ちょっとーーー!!広嶋くん!!私がのんちゃんのペットって、どーいう意味!」
「言葉通りだよ」
広嶋はフライドポテトを食べながら、彼女の私生活を指摘した。
「大学に通っても、夜まで遊んでは勉強もそんなにしない。家に帰れば、小学生ののんに炊事と掃除、洗濯に至るまでやってもらってる。バイトを始めたかと思えば、遊ぶ金ばっかりに使って、のんにいくらも小遣いをあげない。お前がのんにしてやってる事も、家に住まわせてるだけじゃねぇか」
「そ、そ、そんなにストレートに言わないでよ!!華の女子大学生をなんだと思ってるの!」
それでも事実を言われてショックで泣き顔になるミムラ。
「悪かったよ、ミムラ。俺も言い過ぎたかも」
「あはははは、ちょっとは料理ぐらいしたらどーよ。洗濯でもいいし!」
「灯、……お前の料理はいつも炒めるしかないだろ」
女子力の低い山本灯は笑っている反面、少しは磨いてくれと藤砂空はお前も言うなと呆れ気味。
「ううー。でも、どーなんだろう。犬とか猫。ハムスターみたいな小動物を飼いたいとか、やっぱり思っているのかなぁ」
「止せ止せ。ダメなもんはダメって言ってやるべきだ。子供って言っても、聞き分けできる歳だろ。のんは……」
「でも、……」
「ミムラ。あんたもペットを飼いたいとか、わずかに思ってそうね……」
「可愛いじゃないですか!!世話とか大変そうだけど!」
ペットを飼えない家でも、ペットを飼いたいという気持ちはある模様。もし、言われたら押し負けそうになるかもと、ミムラの不安があったのだ。
◇ ◇
ブウゥゥッ
ピッ
「はい、のんちゃんですよ」
『俺だ。広嶋だ』
ミムラの相談がじれったいので、広嶋は直接にのんに電話をした。いちお、ミムラも大学終わってからのバイトでいない時間での通話。少しは気を回していた。
『のん。お前、最近。ミムラから聞いたけど、ペットを飼いたいとか思ってるんだって?』
「え……ああ。ペットショップに行ってるところ、ミムラさんに言われたんですか?」
『そうそう。もしかして、ペットを飼いたいとか……』
「犬も猫も可愛いです~。鳥もいいかもです。でも、ここはペット禁止ですし」
『ああ、なんだ。分かってたのか』
「それよりミムラさんが欲しがりそうな気がします」
『かもな。そーいう事も言っていたな』
ミムラの心配は結局無意味だったか。余計な事だと思ったが
「のんちゃんにはミムラさんがいますから!可愛いのは同じですし、家事ができないところも同じなので、やっぱりペットはいいかなーって思います」
もっと心配するべきだと思った言葉を聞いた。
ミムラ。お前、マジでペット扱いをされてるぞ。
『お、おう。何か困ったことがあったら、相談に乗るからな』
「はい!ありがとうです、広嶋さん!あ、でしたら早速なんですけど」
『ん?』
「ミムラさん。夜遅くまで起きて、お昼に起きてくるんです!さすがにイケないと思って、早朝散歩でも始めるべきかなーって。ペットがいれば、散歩の口実にもいいかなとペットショップで見てただけです」
『……ペットを飼うのは大変だな』
「はい!」