御ホモ隠して御ホモ隠さず
その知らせが良典の耳に届いてから、教室から姿を消すまで0.001秒と掛からなかった。
「……良典様が消えました」
楓はイリュージョンを超える瞬間移動に、瞬きを忘れ良典が去った後を見つめ続けた。
「野乃先生ー!!!!」
病院の受付をボコボコにし、吐き出させた病室へと飛び入る事風の如し。良典は足にギプスがはめられた野乃先生を発見し、涙を流した。
「先生……御無事で……!!」
「良典君? 学校はどうしたの~?」
「サボりました!」
「こらぁ、めーっ!」
野乃先生がポカポカと良典の頭を叩くが、良典には心地良いマッサージ程度にしか効かなかった。
「早く学校へ戻りなさ~い!」
「行きません! 先生が治るまでココに居ます!」
「だめでーす!」
「なら、治ったら俺とデートして下さい!」
「……仕方ないですねぇ」
「じゃ、帰りまーす!」
踵を返し足早に病室を立ち去る良典。そして病院を出た直後、その場に座り込むように崩れ落ちた。
(やべ……どさくさに紛れて先生をデートに誘っちまった……!! しかもオッケーだと!?)
良典は病院から学校までの記憶も曖昧なまま、気が付いたら放課後を迎えていた。
「良典様……良典様ー?」
楓が揺さぶると、良典はハッとした表情で夢から現実へと帰ってきた。
「……楓」
「はい」
「骨折って、どれ位で治るんだ?」
「程度によりますが、一般的には一月程は掛かるかと……」
「一ヶ月ぅぅぅぅ!?」
今の良典には、一ヶ月が一生に感じるほど、気が遠くなりそうな長い歳月に思えた。
「そんなに待てない……」
そして良典は全ての時間を寝ることで出来るだけ一ヶ月を短縮させることにした。
──デート当日、良典はハードモヒカンに銃弾で穴の開いたジャケット。刺の付いた肩パッドといかれたベルトと派手なズボンを履き、待ち合わせの噴水の前に居た。当然周囲には人気が無く、誰もが良典を避けていた。
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良典の頭の中は今にももげそうな程に真っ白と真っ赤と真っ黒が入り混じっていた。
「……良典君おまたせ~」
聞き慣れた声の聞き慣れぬ声色。振り向き様にその両の眼に映った幼き女神に、良典は控えめに言って性的に興奮した。
浅葱色のフリフリが可愛らしいワンピースの野乃先生は、どう見ても小学生にしか見えず、しかし良典はそんな野乃先生を大人の女性として見ていた。
良典は直ぐに頭の中がどっかへ飛んでしまい、その後のデートも食事や洋服選びとお店を渡り歩いたが、良典はその殆どを記憶することが出来なかった…………。
次の日、良典は校長室へと呼ばれた。
初めて入る校長室。それは威厳が立ち込める密室であり、良典の他に野乃先生が少し暗い面持ちで校長の前へと佇んでいた。
「……これは、何かね?」
校長が差し出したスマホには、SNS上にアップされた、野乃先生と良典が二人並んで歩く姿が映し出されていた。
「この奇抜な格好は……君かね?」
良典は一瞬にして全てを察した。
(マズった! 誰かに撮られた挙げ句晒されたか!!)
良典はデートのつもりでも、野乃先生にとっては生徒の戯れに付き合ってあげた程度の物だ。決して取るに足らない出来事ではあるが、校長という立場上SNSで上げられている以上、見過ごすわけにもいかず、何らかの対処は致し方ない状況であった。
そして何より良典の世紀末風の格好が何より宜しくなかった事は言うまでも無い。
「申し訳ありませんでした。以後気を付けます」
「当たり前だ。今後一切そのような事の無いようにな」
野乃先生が深々と頭を下げるのを見た良典は酷く胸が締め付けられる思いがした。そして自らの軽率さを悔やんだ。
──ガラッ
「そこまでです」
校長室の扉が開き、楓が美しい佇まいで中へと入る。
「何だね?」
校長が訝しげに聞くと、楓は一冊の薄い本を開き校長へと見せた。
「──!?」
それは楓が書いた良典と西村のBL本(全年齢版)であった。
「良典様は御ほも故、女性に現を抜かす事などありませぬ」
「き、君は何を言っているんだね!?」
校長が薄い本に目をやると、そこには西村に焼きそばパンを買ってこさせた良典が、屋上でいきなり朝チュンするシーンが描かれていた。
「こ、これは君なのかね!?」
「…………どうやらそのようです」
「君は御ほもなのかね!?」
「それが俺ならばそのようです」
「……なんて事だ…………私は無実の生徒に不純異性交遊の濡れ衣を着せてしまったのか!?」
校長は眼鏡、顔を覆って己の不始末を嘆いた。
「すまない。どうかこの通りだ……」
「──こ、校長先生!?」
校長が床に座り勢い良く土下座を放った。野乃先生は校長の体を起こそうとするが、小さな野乃先生では校長はビクともしない。
「良典様。一件落着でございます」
「……そう……なのか?」
良典は暫し困惑した。
──ガラッ
「おっ、良典どうだった?」
良典が教室へと戻ると、西村、委員長、ダイナマが仲良くトランプに興じていた。
「……死んだ」
「そうか……それは……辛いな」
「いや、お前がな」
「──!?」
「俺に世紀末コーディネートを施した天罰が下ったぞ」
「えっ! えっ? ……えっ!?」
「お前もホモになった」
「──!!」
西村は楓の爽やかな微笑みを見て何かを察した。
──ガラッ!
「西村君!!」
「──校長先生!?」
楓の薄い本を片手に突然現れた校長は、西村の手を掴むと、そのまま引き摺るように何処かへと西村を連れ去った。
「愛には色々な形がある! 僕は感動したよ!!」
「えっ!? ちが、違うんです──」
「皆まで言わなくてもいい! 分かってる。分かってるぞー!」
「良典! 良典助けてくれー!!」
「さらば友よ…………」
良典は手を振って西村を弔った。
お付き合い頂きましてありがとうございました!!
(*´д`*)