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CHAIN_95 誘導の罠

「鉄鎖の拳 《チェーンブロー》」


 鎖を巻いた拳で真っ向から攻撃を仕掛ける。マリアはそれを剣で受け止めた。


「――ぐッ。やはり重いな。だが……ッ!」


 軋む刃。マリアは精神操作の要となるその目でツナグの動作を見極めると、隙を見つけて上手く横へ流した。


 ツナグは即座にバックステップ。襲いくる強烈な薙ぎのカウンターを回避した。


「……さすがと言うべきか」


 自信のカウンターをかわされたマリアは鼻で笑った。


 今のツナグは共振形態を使っていない。対マインドイーターならともかく対人ではあまりに強すぎて殺しかねないからだ。


 かと言って相手は殺しもいとわない精神病質者。だからこそ、その心臓はかつてないほどにバクバクとしていた。


 一挙手一投足が死に繋がる。そんな思いを見透かしているかのようにマリアは徐々に攻勢を強めていく。そこに自身の命を顧みる様子はない。


「君が強いことは知っているし、何より君が優しいことも知っている」


 マリアは動きにためらいがあることを看破してさらに行動を制限しようとする。


「ツナグっ! 落ち着いてっ!」


 激しい心臓の鼓動を検知してリンが声を上げる。


「……ふう」


 ツナグは大きく息を吐いて冷静になった。目の前にいるのは人間だが、人間ではない。やらなければやられるだけだと。


「――ッ」


 迷いを振り切って相手の懐に入り込む。


「鉄鎖の拳 《チェーンブロー》」


 当然そこに立ちはだかる剣撃からの防御。それで受け切ったと見せかけてツナグはそこから体を回転させて手の甲による裏拳打ちを決めた。


「――うッ」


 側頭部に命中してマリアは大きくふらついた。


 やはり彼女自身は特段強いわけではない。心理戦には長けているが、戦闘能力としては平均よりもやや上といったところだろうか。


 著しい成長を続けるツナグにとっては平静でいれば勝てる相手。


「その調子よっ!」


 戦闘予測からリンもこちらに分があると見ていた。


「どうした。まさかこれで終わりじゃないよな。お得意のマインドコントロールとやらを使ってみせろよ」


 煽られたマリアは苛立つことなく、


「武装変化 《スイッチオーバー》」


 武器を剣から槍へ切り替えて踏み込んだ。非常に独特な体の運びで接近して攻撃を仕掛けてくる。


 恐怖心を制御できれば、あくまで直線的な突きに対応するのは難しくない。はずだが、何かがおかしい。客観的に見れば避けられそうな攻撃に四苦八苦するツナグ。どうにか直撃は免れているものの槍が伸びるたびにその体をかすめていく。


 ミスディレクション。手品師がよく使う視線誘導のテクニック。マリアはその独特な体の運びでツナグの視線を無意識に誘導して隙を作っていた。


「これも一種のマインドコントロールとやらだろうか」

「……このやろうッ」


 勢いづく相手に押され始めるツナグ。だがこのまま黙ってやられるわけにはいかない。


 落ち着いて一旦距離を取り、


「鉄鎖の投槍 《チェーンジャベリン》」


 自分に有利な位置から反撃した。射出された高速の鉄鎖を打ち落とそうと即座に構えたマリアだったが、直前で急に逸れたことに目を疑った。


 何かの間違いかと彼女が思った矢先、それは急激に方向転換してブーメランのように飛来。装甲の薄い腕の部分に突き刺さった。


「――ッ」


 その痛みに顔をしかめるマリア。


 ツナグがやったのはミスディレクションの真似事。自身でも鎖の動きをコントロールできるようになってきたことで可能になったトリック。


 素早く引き抜いたら今度は走り回って、


「鎖の機関銃 《チェーンマシンガン》」


 リコルから着想を得たスキルで鎖の先端部分を連射する。


「武装変化 《スイッチオーバー》」


 マリアは槍を盾に切り替えて対応。次々と放たれる弾丸をその場に留まって防御した。


「……くッ」マリアの顔が歪む。


 執拗に頭部を狙う攻撃。それに合わせて盾を構えれば視界が遮られる。隙を見つけて視認しても相手が忙しなく動き回っているため対処するだけで精一杯。反撃ができない。


 防戦一方のマリアに、ツナグは乱数的なステップで徐々に間合いを詰めていく。


 時には片方の手から鎖を射出し、壁や床に突き刺してからの引き戻しで急な高速移動。それはさらに彼女を混乱させた。


 それでもツナグがだんだん近づいてきていることを彼女は知っていた。いつ盾から切り替えてカウンター攻撃を浴びせるか。そのタイミングを計っていた。


 あと一歩。そこで決める。反撃の態勢を整えたマリアだったが、


「――ッ!」


 突如として視界から完全にツナグの姿が消失した。焦って盾を下ろすとそこにはスライディングで急接近している人影があった。


「――足もとがお留守だったな」


 すでに目と鼻の先。ツナグは彼女の両足に鎖を巻きつけて引っ張り転倒させた。


「ぐッ……。武装 《スイッチ》」

「鎖の雁字搦め 《チェーンバインド》」


 そうはさせまいとツナグは彼女の体を縛り上げた。ここからは力比べ。彼女の抵抗が勝れば脱出されてしまう。


「ぐぐぐ……ッ」

「ぐ……ッ」


 内側から破壊しようとするマリアに対して外側からさらに圧をかけるツナグ。すると途中でピタリと抵抗が止んだ。


「……参ったよ。私の負けだ」


 ツナグではなく信者たちのいる遠くを見てマリアは言った。その視線を追って不意に緩む鎖の雁字搦め。その時だった。


「――武装解除 《ディスアーム》」


 マリアが武装を解除して鎧からフルボディスーツに戻り、空いた隙間から脱出を図った。


「逃すかよッ!」


 ツナグは即座に反応してマリアを再び縛り上げた。


「……くっ」

「分かってたよ、それは」


 ツナグはあえて視線誘導の罠にかかった振りをしていた。


「……今度こそ本当に私の負けだな」


 マリアはとうとう観念したのか全身の力を抜いた。

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