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CHAIN_91 偽りの仮面

「俺とお前は同じ中学校に通っていた。覚えてないだろうさ。一年の時に一度だけクラスが同じだったってだけだからな」

「……それがどうした?」

「当時全国区のメディアにも取り上げられた同級生洗脳事件。堅固な情報規制でほとんど個人情報が漏れず匿名だったが、その犯人がお前だったことを俺は知っている」


 コージの指摘にマリアの目つきが鋭くなる。


「カルト宗教に入れ込み、そこの教祖となったお前は同級生を洗脳し始めた。彼らの言動を縛り、生活を制限し、時には無理難題を押し付けた。当時仲の良かったクラスメイトがずいぶんと世話になっていたよ。このサイコパス女が」


 真面目なコージが吐き捨てるように言い放った。


 サイコパスと呼ばれる精神病質者。それを聞いてツナグはふとリンを見やった。


 あの時おこなった嘘を見抜くための表情解析と分析。嘘はついていないという結果だったが、もし彼女が罪悪感なく平然と嘘をつける人間性なら話は変わってくる。


「……じゃああの時の椅子も」


 代表者会議の時に覚えた些細な違和感を思い返すツナグ。


 エルマが文句を言っていた硬くて痛い教会の椅子。親しみ深いと言っていたにもかかわらず、彼女はなぜか四苦八苦していた。教会通いの教徒ならばある程度慣れているはずのその椅子に。


 それはつまり、実際には教会になど通ってはおらず、ただ教徒のふりをしていただけ。通い慣れた場所であるという演出をして平然と嘘をついていた。


「名前もそうだし教会に馴染んでるから、てっきり敬虔な信仰者なのかと……」

「バーカ。こいつがまともな教会なんかに通うかよ。通っていたのは信者を監禁していたカルト宗教の施設のほうさ」


 ツナグの言葉に被せるようにしてコージが背中越しに言い表した。


「昔の話を掘り起こすのはもう十分だ。当時の私は未熟ゆえに過ちを犯した。みんなの幸福を追求するあまり本来とは違う方向へと進んでしまった。だが今は違う。あれから猛省して再び一から考え始めた。どうすれば正しい方法でみんなが幸せになれるのかを」


 意外にも素直に事実を認めたマリアは憂いを帯びた表情で周囲に目をやった。


「贖罪のつもりではないが、だからこうして今、みんなの力をまとめてこの世界からなんとか脱出しようとしている。騎士道連盟のメンバーにはとても感謝しているよ。私一人ではここまで来られなかった」


 マリアの表情で、目で、声で、言葉で、周りのプレイヤーたちは心が揺さぶられた。


「……いいや、信じられないね。お前の本質は変っちゃなんかいない」


 そんな中、コージは確固たる信念で追及した。


「……どうやら君とは永遠に分かり合えないようだ。だがそこにいる君とはまだチャンスがあるかな」


 マリアはツナグへと視線を向ける。


「君は彼のことを疑っていただろう? 地下室のアイテムを盗んだ犯人だと」

「……ツナグ」コージが振り向く。


 戦闘が始まったにもかかわらず姿を消したコージ。その訳が知りたかった。


「なあ、コージ。戦いが始まってから合流するまでの間は何をしていたんだ……?」

「そ、それは……」コージは言い淀む。

「頼む。信じさせてくれ」


 人間の本質は騙し合い。リンの言葉が再度ツナグの脳裏によぎった。


 それを聞いたコージは意を決した顔になり、


「――実は用を足していたんだ。元々緊張するとお腹が痛くなるたちで、生死を賭けた戦いになるってなったらもうどうにも止まらなくて。誰もいないところに行ったあと隠れてからこっそりとやっていた。だから遅れた」


 言いづらい事柄を赤裸々に語った。


「はははっ! 実によくできた面白い話だな。誰が信じると言うんだ、それを」


 マリアは手で顔を覆ったまま笑っている。周りの人々も大概呆れて苦笑していた。


「さあ、君はどちらを信じる。私か、それとも彼か」


 逃げ場のない問いを目の前に差しだされたツナグ。


「お兄さん……」


 エルマはただじっとその姿を隣で見守っている。


「笑いたければ笑え。けどな、どんな理由があれど、みんなのアイテムを盗むほど俺の心は腐っちゃいない」


 周囲に辱められながらもコージは断固として否定。それを見てツナグは決心した。


「……答えはもう出た。俺は……、コージを信じるよ」

「ツナグ……!」


 その瞬間、マリアはツナグを睨みつけた。


「心地いい上っ面だけの言葉を並べられるよりもずっと信用できる」

「……残念だ。君とは分かり合えると思っていたのに。これで君だけの特典もなしということになるな」

「そんなもの、くそ喰らえだッ」


 ツナグは吐き捨てるように言った。


「ならば仕方ないな」


 マリアは立ち上がってコージへと歩み寄り、


「――うッ」


 何のためらいもなく鞘から抜いた剣で彼を突き刺した。


「コージッ!」

「――アイテム『キャプチャーキューブ』」


 マリアのその手から素早く放たれた便利アイテムはツナグとエルマを半透明の立方体の中に閉じ込めた。


「あとはみんなで、終わらせなさい」


 剣を引き抜いたあとの無機質な合図で、騎士道連盟のメンバーは一斉にコージを攻撃した。競技用に磨いていたそのアビリティを凶器へと変えて。

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