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CHAIN_84 探検隊

 そのあと口を滑らしそうなエルマに他言無用の釘を刺してから中央の大きなレバーをもう一度引いてみた。壊れてしまったのか作動することはなかった。リンに修理できるか聞いてみたところ今のツナグの状態では体への負担が大きすぎるとのことで保留になった。


 二人が地下室から一階へ戻り、城の外に出るとみんなが集まっていた。どうやら誰が消失してしまったか確認しているようだ。


「……計十名か。これはでかいな」コージがため息をつく。

「その分、目が行き届くようになったがな」


 カイの言葉にコージは不満そうに首を振った。


「間違ってはないけど、そういう言い方はないんじゃないか?」

「いなくなったやつらのことなんか考えて何になる? 切り捨てろ、そんなものは。大事なのは今ここにいるやつらだろ。綺麗事を並べる暇があったら集中して今後の予定を立てるべきだ。違うか?」

「……そうだな。その通りだ」


 辛辣だが筋は通っている。コージは納得してどうにか気の迷いを振り切った。


「貴様はやはり冷酷だな。言葉に筋は通っていても人として筋が通っていない」


 今まで黙っていたマリアが口を開いた。


「……なんだと」

「消えていった者たちの思いを背負ってこそ組織の長。シンプルに切り捨てるという考え方では誰もついてこない。私は彼らを思い続ける。そしてたとえ足をくじいて遅れた者がいたとしても私は捨て置かずに手を差し伸べる」

「理想論も大概にしとけよ、このペテン師が」


 カイは吐き捨てて彼女に銃を向けると、


「さっきの戦闘の時にお前はどこにいた? 防衛にかこつけて敵の少ない安全な場所にいたんじゃないのか?」


 先の戦闘のことについて追及した。


「とんだ言いがかりだな。これを見てもまだ安全な場所にいたと言うのか?」


 マリアはそう言ってスキルを使い、完全武装した。修復中の武具に周囲の視線が集まりプレイヤーたちの目から疑念が消えていった。


 カイは何も言わなかったが、それでもまだ疑いの目を向けていた。


「分かったなら修復を早めるために解除させてもらう」


 マリアは再び武装を解除して腕を組んだ。


 そこからは全員で今後の方針について話し合った。拠点の城は半壊して今や存在が不安定。かと言ってどこかへ移動するにしても行くあてがない。どこにいようが化け物が徘徊しているので一緒だという意見も多く出た。


 体調の件に話題が及ぶと体調不良を訴えるプレイヤーが続々と出てきた。多くはツナグと同じように脱水症のような症状が現れていて、中にはマインドイーターによる攻撃で負傷し、今なお引かない痛みに苦しんでいる者もいた。


 総括すると動けない者は倒壊の恐れがない場所で待機。動ける者は少人数の部隊を編成し、城外へ出て周囲を探索。新たな拠点の発見または脱出ルートの入手を目的とする。


 空中部隊はもちろんカイと大隼が担当。偵察の役割もかけ持ちして、異常を察知したらすぐに城へと帰還。


 地上部隊はマリアとその仲間たち。街エリア内をくまなく探し、隣接する砂漠エリアにも足を伸ばす予定。


 そしてもう一つ、街エリアから行ける場所がある。


 雪原エリア。すでに訪れたコージと他数名のプレイヤーが言うには地形効果が大きくて戦闘には不向き。遭難体験でもさせたいのかマップも機能しなくなったという。そのため吹雪による視界不良で道に迷ったそうだ。


 そんな場所で敵に出くわせば最悪の事態は免れない。だからこそ誰も行きたがらなかった。


「じゃあ俺が行くよ」


 その中でツナグが声を上げると、


「あっ! じゃあ僕も行きますっ!」


 当然のようにエルマも挙手して同行することになった。


「なら俺が運び役になろう。迷った経験も少しは役に立つかもしれない」


 意外にもコージが第三のメンバーとして参加を表明した。


「いいのか?」ツナグが問うと、

「このままじっとしていても状況は悪化の一途をたどる。それなら動けるうちに行動を起こしておきたい。幸いマリアやカイもいる。俺がいなくとも大丈夫なはずだ」


 コージは生き残った仲間へと視線を向ける。彼らは表情に不安の一端を見せたもののコージの考えを尊重して小さくうなずいた。


「ちょうどいいわね。雪原エリアには向こう側の人に教えてもらった干渉スポットがあるわ」


 話し始めたリンにツナグは目を合わせて応えた。彼女は話を続ける。


「そこからなら封鎖された会場を統合するコマンドが使えるはずよ。セキュリティー突破用のコードは手に入れられなかったけどなんとかするわ」


 会場の統合。それの意味するところは。ツナグが小首を傾げると、


「うーん。ちょっと待ってね」


 リンは立体図形を作りだして宙に浮かべた。それはツナグたちがいるこの会場を模倣したもので同じものがいくつも並んでいる。


「イメージ的には繋ぎ合わせるんじゃなくて、重ね合わせるの」


 隣同士に並んでいた会場の立体図形がリンの言葉に合わせて綺麗に重なった。


「おそらく不具合が起きた時のために用意していたのね。正常なほうと不具合の起きたほうを重ね合わせると同じ造形だから問題の箇所が浮き彫りになる。できれば正常なほうと重ね合わせたいところだけど、そっちはもう強制的に閉じられている頃合いよ」

「……やってみるか」ツナグは呟いた。


 この世界から脱出できる保証はない。が、試す価値はある。

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