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CHAIN_81 エリジブルデリーション

「何が起こってる……?」カイは目を凝らした。


 完全にひしゃげてしまった檻から這い出てきたのは、あの軍団を率いていた個体。その周囲に集まっていく粉塵、に見えるのは弾けた仲間の残骸だった。


「データを吸収してるのか……?」


 カイが喋ったあとにそのボスと言うべき個体が力強く咆哮した。レイドミッションはまだ終わっていなかった。


 ボスは口を大きく開けてまばゆい光球を作りだした。


「嫌な予感がします……!」大隼が翼を傾けて現在の位置から急速離脱。


 その数秒後に光球から迸った光の線。


 真っ直ぐに伸びたそれはおよそ城の三分の一を壁ごと消し飛ばした。さきほどまで勝利に沸いていたプレイヤーも巻き込まれてデータの灰も残らず完全に消却された。


 生存者の間に沈黙の時が流れる。そうしている間にもボスは第二射の態勢に入った。その先にはエルマがいる。


 マズいとツナグが思った矢先、城壁から何かが打ち出された。玉のようなそれはボスの手前、ひしゃげた檻にぶつかって炸裂し、広域に煙幕を張った。そのすぐあとに第二射が放たれたが、煙幕による視界不備で狙いがずれた。


「……なんてことだ……」大隼が声を震わせる。

「……冗談かよ……」実力者のカイですら気を呑まれている。

「今すぐあいつのもとへ!」

「でもあんなのを相手にするのは……」

「頼む! 近くまででいい!」

「……ち、近くまでなら」


 ツナグの必死さに押されて大隼は要求を呑んだ。


「お前、本気であいつとやりあうつもりか……?」

「やってみなきゃ分からない」

「……はッ、さてはバカだなお前。だが気に入った。おい、俺たちをできる限りやつの近くに寄せろ」


「わ、分かりました。頑張ります」


 カイの指示で大隼は決心。スピードを上げてボスのもとへ身を運んだ。


 ボスは遠くから飛び込んでくる大隼を感知して振り向く。何か気になることでもあるのかしきりに目をぎょろぎょろとしている。


「――リン」

「分かってるわ」


 ツナグの一声でリンが同期率を上昇させる。たとえ値が同じでも以前とはその強さが異なっている。ツナグの成長、リンの進化。相互作用により破格のペースで力を付けていた。


 接近するとボスは三人へ狙いを定めて光球を形成し始めた。


「そうはさせるかッ! 双銃の早撃ち 《ガンズクイック》」


 西部劇のガンマンよろしく限界まで縮めたキャストタイムからのファストドロー。放たれた二発の弾丸がボスの顔に直撃して光線の発動を未然に防いだ。


「全速力で突っ込め!」

「は、はい!」


 カイの命令を受け、大隼は二人が振り落とされない範囲の最大加速で前進。敵の真横を通り過ぎる間際にツナグが飛び降りて、


「――鉄鎖の拳 《チェーンブロー》


 投げだしたその身のまま宙で構えてその拳を開きかけた口にねじ込み、振り抜いた。


 弾き飛ばされたボスは凄まじい勢いで斜線状に急降下。空を突き抜け、派手な衝撃音とともに地面を抉って進み、ようやく動きを止めた。


「双銃の連弾 《ガンズラピッド》」


 続いて籠の上に飛び移ったカイが連射で畳み掛ける。それにより砂煙の幕が張られて姿が視認できなくなった。


「避けてっ!」リンが叫んだ。


 その幕の中からツナグたち目がけて一本の太い光線が放たれた。


「――チィッ!」

「――ッ!」


 二人とも異なる方向へ飛び降り間一髪で回避した。直撃を受けた籠は完全に崩壊してしまい見る影もない。


 ちょうど付近を飛んでいた大隼が落下中のカイを救出。


「鉄鎖の投槍 《チェーンジャベリン》」


 ツナグは遠くへ槍を飛ばして地面に深く突き刺し急速に引き戻した。そうして着地した場所はボスのすぐ目の前だった。


 向かい合った人間とそれに仇なす異形。


「……オーバーライド……!」


 ボスが機械的に言葉を喋った。人間を模倣しているだけのようには見えない。そこには自己のようなものがある。


「……エリジブル……デリーション……」


 それを聞いてリンがしたたかにこう言った。


「ツナグ。どうやら私たち削除対象らしいわよ」

「言わなくても見れば分かるってのッ」


 その直後、互いに踏みだして交戦状態に入った。


 ボスはなくした石斧を呼びだして乱雑に振り回す。一見ランダムに見える動作に規則性を見いだしたリンはその擬似乱数を解析して転送。受け取ったツナグの動きがさらに機敏になり敵の攻撃を難なくかわしていく。


「所詮は汎用の低級プログラム。私の敵じゃないわ」


 人間相手には穏やかなリンもプログラムに対しては容赦がない。間断なく更新される敵の分析情報によりツナグは増して攻撃的になっていく。


 形勢不利と判断したのかボスは後方へ大きく距離を取って光線の発射態勢に入った。


「そんなものッ! 鉄鎖の籠手 《チェーンガントレット》」


 両腕を覆った鎖の籠手。攻撃に利用するよりもそれを受け流すほうが得意な型。


 一時的に跳ねた同期率が光線の発射時機を告げる。


「――はァッ!」


 刹那的だった。一切のブレもなく伸びた光の線を絶好の機会と角度で弾いた。


 必中予測が外れて急遽ボスの内部にて再計算による処理負荷が発生。感情がないはずのマインドイーターに動揺のようなバグが現れた。


「さっきまでの勢いはどうしたよ」


 煽るように軽いステップを踏んだあとツナグは籠手のまま相手に連打を食らわせた。


「……マスター……コマンド……オブザーヴァンス……」


 退却するだけの賢さはあるはずなのにボスは立ち向かってくる。それでもツナグたちの処理能力には太刀打ちできない。


「鉄鎖の二連拳 《デュアルチェーンブロー》」


 籠手から攻撃特化の拳に切り替えて猛烈な打撃を浴びせる。当たるたびにブロックノイズが発生してテクスチャが崩れ落ちていった。


「……エ、エリジブル……デリーショ、ション……」


 動作がみるみる不安定になっていく。体力ゲージは表示されないが耐久力は有象無象よりも遥かに上でやはり他とは一線を画す。


「……オ、オーバー、ライ……ド……。デ、デ、リー……ション……デデデ……」


 幾度計算をおこなっても全ての予測が空振り。自己の否定にまで考えが及ぶ。そうして導きだした最後の結論が、自壊。


 ボスは突然硬直してカウントダウンのように点滅を始めた。


「チィッ!」


 ツナグはそこから自爆と推論してその体に鎖を巻きつけると力の限りぶん回して空へ放り投げた。


 頭上高くへ打ち上がったボスに向けて、


「――鉄鎖の投槍 《チェーンジャベリン》」


 すかさず地上から槍を放ち落下へ移行する前に止めを刺した。点滅のカウントダウンを待たずしてボスの体が急速に膨張し、爆発した。

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