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CHAIN_48 ロックダウン

「ヤバい! 気づかれた!」


 本能的に危機を感じてツナグはその場から逃走した。


「くそッ! なんでッ!」


 施設内には誰もいない。走りながら何度ログアウトを試みても機能しない。もしかしたらと使ってみたテレポートも当然機能しない。


「リンッ! どうなってんだッ!」

「ロックダウン。この空間ごと隔離・封鎖されてるっ」

「誰がそんなことをッ!」

「……分からない」

「お前にも分かんないのかよッ!」


 走っているとうしろから大きな音が聞こえた。振り返ればなんとあの化け物が追いかけてきていた。


 蜂のような頭部にだらしなく垂れ下がったずんぐりむっくりの胴体。腕と思っていたのは前足で、その枝のように細長い四本の足で動いていた。


 全てが奇妙なその化け物は大きく飛び跳ねて先回りをするようにその進路を防いだ。


「マジかよッ!」


 目の前に現れたそれは前足でツナグを引っかいた。


「ぐあッ……」


 劈く痛み。本当に引っかかれた感覚。痛覚機能が完全に遮断されているにもかかわらずそれを頭と体が確かに感じている。


「……ありえねえだろ」


 その痛みに顔を歪めるツナグ。その足は恐怖にすくんでいた。


「――ツナグっ! アレいくわよっ!」


 急にリンが叫んでツナグの中へ飛び込んだ。刹那、ツナグに異変が起こった。


「通常形態のプロセスを終了。共振形態【レゾナンスフォーム】へ移行」


 脳のキャパシティが広がりオーバークロックするような感覚。自分の置かれた状況が即座に理解できる。適切な判断を冷静に下すことができる。


 それはリンが持つ機能の一部。人工知能と同期することによる処理能力の向上。


 二人の同期率が上昇している間に化け物はその口を左右に開けて襲いかかった。


「――ッ」


 ツナグはそれを華麗に避けてそのままエスケープ。この空間からの脱出を図った。化け物はなおも追いかけてきたが、速さが向上した今の状態ならもう追いつかれることはない。


「悪い。助かった」


 上手く撒いたところでツナグは礼を言った。


「えっへん! もっと褒めてくれてもいいのよっ!」


 脳内に響くリンの声。基本的に同期中はハンズフリーならぬマウスフリーで話しかけてくる。しかしながらツナグ自身は口を動かさないとどうにも上手く伝わらない。


「それはここから脱出できたらな」

「それはもう少し待って! 今度は別の角度から解析してみるっ」


 周囲に敵の気配はない。ツナグは用心深く見回したあとに再び走った。その先には施設のポータルゲートがある。そこならこの空間から脱出できるのではと考えたのだ。


 孤独な足音だけが響く。自分だけが取り残されたことに憤りを覚えたがどうしようもない。そうして角を曲がった時に何かが視界に入った。


「……人?」


 遠くに見える人影。自分以外にも誰かが取り残されている。近づけば近づくほどにその姿がはっきりと見えてくる。


 それは女の子だった。燃え盛るような色の髪が特徴的な彼女は肩を押さえて片足を引きずっている。


 そのすぐ近くにはツナグを襲ったあの化け物がいた。


「くそッ! あいつめッ!」


 ツナグは舌打ちして地面を蹴った。


 化け物は威嚇しながら女の子を追い詰めて捕食の準備に入った。左右の口を大きく広げて覆い被さるようにその顔を近づけた。


 女の子は目を見開いたまま恐怖にわなわなと震えている。


「――ッ!」


 化け物に食べられる寸前でツナグが駆けつけた。颯爽と女の子を横向きに抱え上げてその場から急速に離脱。


「――間に合った。大丈夫?」

「あ、あなたは……」と驚く女の子に、

「ん? 俺? 俺は」と答えている途中でツナグは振り返った。


 化け物は仕留め損ねたことに怒っていた。その枝のような足でこちらへ向かってくる。


「ツナグっ! アビリティを使って!」

「は? でもあれは……」


 デントプレイヤーに与えられた戦闘用の特殊能力『アビリティ』。それは電脳世界でも通用するが、人や物に危害を与えないよう厳しい制限がかけられていた。


「やってみるか」


 このままだとどちらにせよ共倒れ。ツナグはリンの言葉に賭けてみた。


「ここで待ってて」


 ツナグはお姫様抱っこの状態の女の子を下ろしたあとに再び振り向いた。化け物はもう目と鼻の先まで来ていて迷う暇はない。


 掌から(チェーン)を出して手を覆ったツナグは、


「――鉄鎖の拳 《チェーンブロー》」


 握りしめたその拳を化け物の顔に叩きつけた。


 ぐにゃりと歪む顔面。鈍い音がしてそのまま弾き飛んだ。


「いける……ッ」


 威力は十分。制限はかかっていない。


「ねっ! 言ったでしょ!」

「ああ」


 だけど安心するのも束の間。むくりと起き上がった化け物はまた襲いかかってきた。


「いけッ! 鉄鎖の投槍 《チェーンジャベリン》」


 ツナグは大きく手を振り上げて掌から鎖を投擲した。高速の鎖槍は真っ直ぐに伸びて矢尻のような穂が相手の頭から胴体へ突き抜けた。


 それでかなりのダメージを負ったのか化け物の体がブロックノイズで乱れ始めた。


「……オォ、バァァラ、イィ、ドォォ……」

「しゃ、喋った……!」


 ツナグは驚きながら鎖を引き抜いた。化け物は怯まずに突進してくる。


「くッ、鉄鎖の拳 《チェーンブロー》」


 大きく踏み込むツナグ。力を溜めたその拳で、


「おらあッッッッッ!」


 飛びかかってきた化け物に渾身の一撃を浴びせた。


「±!@#$%^&*()_+」


 化け物は言葉にならない断末魔の叫びを上げ、全身がブロックノイズで波立ち風船のように膨張して泡のように弾けた。


 そのあとにはデータのフラグメントがシャワーのように降り注いだ。


「……そうだ。君、大丈夫?」


 ふと女の子のことを思い出してツナグは急ぎ駆け寄った。


「……え、ええ。それよりもさっきのあれは?」

「さあ。俺にも分からない」

「……そう。あなた、強いのね。あの怪物をやっつけてしまうなんて」

「ああ、それな。俺も驚いたよ」

「私のおかげよっ!」


 リンが自慢げに飛び回っているがそれは彼女には見えていない。残念ながら。


「とりあえずここから出よう」

「どうやって?」

「探すんだよ、それを今から」と言ってツナグは手を差しだした。

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