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CHAIN_4 共振形態【レゾナンスフォーム】

「任せて。私の中に元々そういう機能もあるからきっとミツルもそのつもりだったのよ」

「爺ちゃんが……」


 本当にこういう用途のためなのかは分からないが祖父の創ったものなら信じられる気がしてツナグはうなずいた。


「いくわよ」リンがツナグの中に飛び込んだ直後に新しい対戦者が現れた。

「おい、リン。もうすぐ始まるぞ」

「……通常形態のプロセスを終了。共振形態【レゾナンスフォーム】へ移行」


 相手は実名の男性プレイヤーで年はツナグと同じくらい。


氷天架(ひょうてんか)ヒサメ。どこかで聞いたような名前だな……」

「プロセス正常に完了。移行正常に完了。同期率七十五パーセント。正常域クリア」

「リン、まだかよ」

「――間に合った。さあ、ツナグ! 一緒に戦うわよ!」

「来るぞ!」


 ヒサメは礼儀正しく一礼してその姿を消した。いや、消したのではない。あまりの速さにそう見えたのだ。


 一瞬で死角に入り込まれたが視界は滑らかに追随。腕の動きから何かが来ると瞬時に察知する。


「マジか!」


 予想通りヒサメは氷柱を飛ばしてきた。ひらりと避けたが、休む間もなく次々と氷柱が放たれる。


「このやろう!」


 走りながらスレスレで避けていくツナグ。無尽蔵に連射される氷柱は考える暇すら与えてくれない。


「相手の行動を随時分析して予測精度を上げていくわね!」


 その言葉通り氷柱の軌道が徐々に読めるようになった。前よりもずっと頭と体が軽く感じる。


「いけるぞ!」

「ええ! ツナグ、今度は反撃よ!」


 気持ちがいい。脳のキャパシティーが増えたような感覚。どのような攻撃が有効なのか。どのタイミングで打ってでるべきか。どう能力を応用すべきなのか。手に取るように分かる。流れこんでくる。


 飛んでくる氷柱を鎖で弾いて道を開き相手との距離を詰めていく。ヒサメは途中で手法を切り替えた。氷の縦波を起こして行動範囲を制限する。さすがにこれは鎖で弾くことはできない。


「おいおい!」


 全ての氷波はヒサメが操っていてそれぞれがツナグを追尾している。


「大丈夫! そのまま突っ走って!」


 アクション映画さながらの動きで鎖を巧みに使いながら波を回避するツナグにヒサメはそんなまさかと眉を曇らせた。


 ツナグは氷の波に鎖を引っかけて軌道を変更。それはヒサメのほうへ真っ直ぐ伸びていく。


 そんなものは読めていると言わんばかりにヒサメは氷の盾で弾いたが、


「もらった!」


 それはブラフで本命は後方に飛ばし忍ばせていたもう一本の鎖。それはヒサメの体をぐるぐる巻きにして行動不能にした。


「いくぞ!」とツナグは鎖を引っ張って思いきり振り回した。破裂音とともにヒサメは自分で仕掛けた氷波に幾度も衝突して体力ゲージをすり減らしていく。


 ここで焦りの表情を浮かべたヒサメ。拘束からの脱出を試みるも失敗し、力量の差に愕然とした。


 叩きつけられるたびにダメージを受けて体力ゲージは安全域の緑色からとうとう警告域を示す黄色へ。対するツナグのゲージはまだ緑色。


「まだまだァッ!」

「やっちゃえー!」


 ツナグはヒサメを宙へ持ち上げてから地面へ勢いよく振り下ろした。そのあまりのパワーにヒサメの体力ゲージは最後の砦である危険域の赤色へ。凄まじい衝突音がした次の瞬間にはもう左手で相手ごと鎖を引き戻し、


「もう一発ッ!」


 向かってきたヒサメの顔面に鎖で固めた右拳を激しく叩きつけた。


「――ぐうッ!」


 ヒサメは拳の勢いそのまま吹き飛ばされて地に伏した。


 体力ゲージはゼロへ。戦闘続行は不可能。ツナグの勝利である。


「か、勝った……!」

「やったー!」


 試合終了のゴングが鳴って勝敗が表示される。そこには『YOU WIN』の文字。


 勝利の喜びを噛み締めているうちにツナグたちは待機状態に戻された。


「ツナグ! やるじゃん!」

「サンキュー! お前のおかげだよ!」


 §§§


 喜び合う二人がいる一方で落胆している者もいた。


「いったい何者なんだ……。どこかのアマチュアか。いや、それにしてはあまりにも強すぎる。ならプロの誰かか……?」


 DIVEの中で自問自答にふけるヒサメ。油断していたとはいえ、ほぼ無傷の相手に一方的にやられたとなれば意気消沈もする。なぜなら彼は去年のデント全日本選手権・中高生の部でベストエイトに輝いた腕利きのプレイヤーだからだ。


 さらに強くなるために民間のデントクラブに加入し、デント強豪校の伝新(でんしん)高等学校に入学した高校一年生。ツナグと同じ年生まれの同級生である。


 それからヒサメは謎の匿名プレイヤーと再戦するために何度かランダム対戦をおこなったが、それっきり一度もマッチしなかった。


 §§§


「ヒサメさん。おかえりですか?」


 受付の若い男は親しげにそう声をかけた。


「いえ。聞きたいことがあります。今日ここにプロの誰かが来ていますか?」

「いいえ。存じ上げませんが」

「なら有名なアマチュアプレイヤーは?」

「いいえ。申し訳ないですが、何の情報も入ってきていません」

「……そうですか。あ、最後にもう一つ。最近新しく登録したプレイヤーの中で気になる人物はいましたか?」


 今まで一度もこんなことはなかった、となれば最近このセンターに登録したばかりのプレイヤーに違いないとヒサメは思考を巡らせた。


「そうですねえ……。そもそも最近は新規の方はあまりいませんし気になる方と言われましても……」


 受付の男はしばらく考えるそぶりを見せたあとに、


「ああ! まさにちょうど今日、ヒサメさんと同い年の子が新規でやってきましたよ」

「それはどんな? 男? 女? 名前は? どこの学校?」

「ま、待ってください。ヒサメさんといえどもさすがにそれはちょっと……。他のお客様の個人情報は開示できませんよ。申し訳ありませんが」

「……確かに。失礼しました」


 項垂れる高校一年生を見て不憫に思ったのか、


「……もう帰っちゃいましたけど、なんか元気そうな男の子でしたよ」


 男はぼそりと呟くようにそれだけ答えた。


「ありがとうございます!」


 ヒサメは年頃の笑みを浮かべて感謝し、その場から走り去った。


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