CHAIN_33 次鋒シングルス -2-
「……なんだか様子がおかしいね」
「うん。いつものリコルじゃないみたい」
リコルのことをよく知る部長とレイトは首を傾げている。
理由を知っているだけにツナグは心苦しい。が、言い出したところで何の解決にもならないと分かっているので今はただ静かにしている。
「ツナグ君、大丈夫?」
同じく様子のおかしなツナグを見かねてコムギが声をかけてきた。
「ああ、うん。大丈夫」
と答えたがどうも少し前から体の調子が悪い。それは言い出せないことへのストレスだけではない。何か別の要因がある。
ツナグは半透明化して動かないリンをふと眺めたあとに自分の額に手を当ててみた。
熱い。倒れるほどではないが間違いなく平熱以上はある。
「本当に大丈夫?」
一連の動作を見ていたコムギが改めてツナグの額に手を当てた。
「……うーん。ちょっと熱いかも」
「微熱だし問題ないよ。心配しないで」
「そう? じゃあもし辛くなったら教えてね。私から部長に言ってあげるから」
「ありがとう」
始めは引っ込み思案で口数が少なかったコムギも少しずつみんなに慣れてきた。ツナグとは同じ一年生ということもあり話しやすいようだ。
§§§
「くははっ。この勝負いただきっ」
狂戦士の波に呑まれていく相手の姿を見てネクロは笑った。
「……このゲスやろうがッ……」
骸骨たちに揉みくちゃにされて顔を歪めるリコル。彼らの手にした武器がその肌を斬り裂くたびに、その体を貫くたびに減らされていく体力ゲージ。
「……こんなやつッ……」
あの言葉がなければ勝てたのに。そんな悔しさからせめてもの抵抗を試みるが、敵の猛攻を前に虚しくも力尽きた。
「くははっ」
終了のゴングが鳴って第二ラウンドはネクロが手にした。
§§§
試合が終わってリコルが戻ってきた。結局のところ第三ラウンドも終始押されっぱなしで決着がついた。
「リコル君。大丈夫かい?」
心配した部長が駆け寄った。
「別に、なんとも」と言うその顔は誰から見ても疲弊している。
「部長。実は」と口を開いたツナグを、
「黙ってろ」
リコルは一言で制した。
「でもやっぱり……。部長。先輩は脅されていたんです。だからたぶん試合中様子がおかしかったのは……」
ツナグは本人の意見を押し切って正直に話した。当たり前だがその中身については触れない。あくまで脅迫があったという事実のみを伝えた。
「どうしてそんな大事なことを今まで黙って……」
部長はやるせない思いから力なく項垂れた。
「じゃあ言わせてもらうが、話したところでどうにかなったのか? ここにいる一年どもはともかく他はよく知ってるだろ。やつらの被害者がどうなったのかを」
抗っても綺麗に揉み消される。万が一上手くいっても報復が待っている。
それを知っている部長とレイトは返す言葉が出てこない。
「そもそも心配させないために言わなかったんじゃない。私のプライドが許さなかったんだ。粗末な脅しに屈して弱音を吐くような軟弱者になるくらいなら全てを吐き出してでも刺し違える。それが私の生き方だ」
そんなリコルがなぜ負けてしまったのか。ツナグはその裏に自分も知らない何かがあるのではとおもんぱかった。
§§§
彩都高校側の流れが悪くなったところで中堅ダブルスの試合が始まろうとしていた。レイトとコムギは壇上に上がって対戦相手の顔を確認する。
一人は二年生の牛野メルコ。もう一人は三年生の相田タオ。どちらも録画戦で見たことのあるコンビ。
「ここで流れを変えないとね」
「はいっ! 頑張りましょう!」
真剣な面持ちのレイトとやる気に満ちたコムギ。ここで負ければ一ポイント対二ポイントで苦しい状況に追いやられてしまうのでここが踏ん張りどころ。
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