CHAIN_32 次鋒シングルス -1-
次鋒。第一ラウンド開始。
バトルフィールドは西洋風庭園のような場所。丁寧に剪定された庭木に中央を彩るのは大噴水。歴史ある宮殿を彷彿とさせる彫刻の英雄たちが飾られていた。
「まさか君と当たるとはね。そもそも来るとは思ってなかったけど」
「――荊棘の機関銃 《ソーンマシンガン》」
「おっとっと!」
いきなりの先制攻撃に足をばたつかせるネクロ。足もとには無数のトゲが刺さっている。
「危ないじゃないかあ、もう」
「薔薇の弾丸 《ローズバレット》」
攻撃は続く。弾けて伸びた鞭が弾丸のように真っ直ぐ空を切った。
「――ッ」
「……その辺にしときなよ、お嬢ちゃん」
直撃したかに見えたその鞭は突如現れた骸骨によって阻まれていた。
「死霊の群集 《アンデットクラウド》」
ネクロの目の前。硬い地面を突き破って次から次へと骸骨が出現する。これが彼のアビリティ。骸骨を率いて戦う死霊使い。
「遊んできな。くははっ」
その合図で骸骨たちは一斉にリコルのもとへ押し寄せた。
リコルは迫りくる骸骨の群れを鞭で捌いていく。数は多いが一体一体の戦闘力はたかが知れている。
「死霊の宴 《アンデットパーティー》」
そのスキルで骸骨たちの士気が上がり攻防の能力が高まった。
「くッ……」
さすがにただの通常攻撃では捌ききれなくなってきた。リコルは後退して鞭を地面に突き立てた。そして、
「荊棘の縛り 《ソーンバインド》」
地面を突き破って現れる荊棘の大群。それは骸骨たちを次々と絡めとっていく。
荊棘の檻に囚われて身動きが取れない骸骨たちを見てネクロは舌打ち。
「死霊の軍勢 《アンデットソルジャーズ》」
全ての骸骨が瓦礫のように崩れ落ちて消滅。それを糧にするかのように新たな骸骨たちが現れた。彼らは防具を身にまとい武器を手にしていた。
「暴虐を貪れ。くははっ」
骸骨の軍勢は進行を開始。荊棘を切り裂いて蹴散らしながら我こそが敵将の首を討ち取る者なりと言わんばかりにいよいよ張り合っている。
「荊棘の縛り 《ソーンバインド》」
より力強く賢くなった骸骨にとって荊棘の檻は脅威ではない。出現したそばから刈り取られていく。
荊棘の縛りでは敵の猛攻を止められないと悟ったリコルは、
「薔薇の舞 《ローズダンス》」
この状況を打開する奥の手を使った。
伸びた鞭を自身に纏わせてミノムシ状になり、鋭利なトゲと触手のような荊棘を外側に構えた。
始めはお淑やかだったその舞いも急速に回転数を上げて竜巻に変貌を遂げた。粉骨砕身の決意で飛び込んでいく骸骨たちは文字通りの結果になっていく。
「……これはちょっと困ったね……」
ネクロは背筋に冷や汗の流れるような感覚を覚えた。
「死霊の軍勢 《アンデットソルジャーズ》。死霊の宴 《アンデットパーティー》」
骸骨の軍勢に能力増強のスキルを使用して突撃させる。が、失敗。リコルのパワーのほうが上回っていた。
なす術もなく竜巻に蹂躙されていく骸骨たちを見て何かを企んだネクロは、
「あーあ。もうやめだやめだ」
そう言って無防備に歩きだした。先には竜巻があるはずなのに真っ直ぐその方角へ。
あろうことかネクロは竜巻の中にその身を投げた。
諦めたのか。自暴自棄になったのか。そうとしか思えないような行動に会場の一部がどよめいた。
当然ネクロの体力ゲージはみるみる削られていきやがてゼロになった。
第一ラウンド終了のゴングが鳴って薔薇の舞を解除したリコルは釈然としない表情を浮かべている。
そのままインターバルに入って次のラウンドを待つ。
§§§
九十秒後の第二ラウンド、開幕。
「死霊の蝙蝠群 《アンデットバッツ》」
今回先に動いたのはネクロだった。素早いスキルの行使で蝙蝠の群れがリコルのほうへ飛んでいく。
「――ッ」
蝙蝠の群れに囲まれたリコル。鞭で追い払うが執拗に付きまとわれる。スキル自体は妨害系のようでダメージはないに等しいが、それでも動きを制限されるのは好ましくない。
「死霊の囁き 《アンデットウィスパー》」
ネクロは両手で口元を隠して呟く。それは蝙蝠を介してリコルの耳に直接届いた。
「……さすがだよ、薔薇の女王。やっぱり君は強い。でもね、忘れてないかい? もしも君が僕に勝ったらどうなるのかを……」
「バカか。その手には乗らん。大人しく敗北を認めろ」
「……君のアレ、みんなが見てもいいのかなあ……」
「ふんっ。勝手にしろ」
「……くははっ。もしかしてだけど、まさか君だけの問題だと思ってる……?」
「……はったりだ」
「……一年生だよね。あの地味で大人しそうな女の子。くははっ……」
その笑いを最後に囁きは途切れた。リコルの心の内がざわつく。
「死霊の軍勢 《アンデットソルジャーズ》」
地面から再び現れた骸骨の軍勢。
「奥の手、使わせてもらうよ。死霊の狂想曲 《アンデットラプソディー》」
続けて使用したそのスキルは骸骨たちを狂化させて全能力の上昇を図り、その代償として敵味方問わず暴れ狂うというもの。
「これはね、僕にも制御できないんだ。だからこうさせてもらうよ」
未だ蝙蝠の群れに妨害されているリコルを差し置いてネクロはオブジェクトの影に身を隠した。
「――くッ」
ようやく消えた蝙蝠の群れ。だがしかし次は狂戦士の骸骨たちが迫りくる。
「荊棘の縛り 《ソーンバインド》」
とっさに使用したスキル。けれど荊棘の檻程度ではもはや何の足止めにもならない。
「なら、薔薇の 《ローズ》……」
ためらうリコル。活路を開くそれを使えば勝てると考えたが、そこにネクロのあの言葉が重くのしかかってくる。
「くっ、荊棘の機関銃 《ソーンマシンガン》」
薔薇の舞を使わずに他のスキルで対処するリコルを物陰から見てネクロは静かにほくそ笑む。しめしめ、思い通りになったぞ、と。
その頃、彩都高校の面々はさきほどまでの勢いが急に止まって苦戦するリコルを不思議に思っていた。




