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CHAIN_30 先鋒シングルス -1-

 彩都高校対無千高校。


 睨み合うのは滝本ダイナと同じく一年の新井(あらい)テルシ。


「俺が引いたのはハズレくじか」

「……あとで後悔させてやる」


 のっけから煽るダイナにまんまとハマりかけたテルシだったが、


「テルシ」


 トランのその一言で正気に返った。


「……面白くねえ」


 ダイナは舌打ちをしてDIVEの中に入っていった。


 §§§


 第一ラウンド開始。


 今回のバトルフィールドは花畑のような場所。本来ならありえない春夏秋冬の花々が入り混じっていて非常に画面映えする。これにはアイサもにっこり。


「……花畑かよ。やりづれえな」


 ダイナは足もとに咲き誇るデジタルの花々を見てため息をつく。その矢先、


「――光弓の一射 《ブライトアロー》」


 綺麗な花々がなんだとお構いなしに光の矢が放たれた。それは低空で花畑を切り裂きながらダイナの足を狙う。


 その矢は瞬間的にまばゆい光を放ってダイナの目を眩ませた。


「――くッ」


 ダイナはとっさに横へ転んで矢から逃れたが、


「光弓の一射 《ブライトアロー》」


 息をつかせず第二射が来た。腕で目を庇いながら、矢のまたたくタイミングに合わせて横へ飛ぶ。


「分かっちゃあいるが」


 このスキルは録画試合を見て予習していたが実戦では想像以上に避けづらい。


 新井テルシのアビリティは光る弓矢を用いて戦う『ブライトボウ』だった。


「少しはやるようだな。なら次はこうだ。光弓の速射 《ブライトクイックアロー》」


 尽きせぬ矢をつがえて連続で放つテルシ。それらは放物線を描いて様々な角度からターゲットへ。


「――ッ」


 ストロボのような閃光が続く。腕で目をガードしなければ眩んでしまう。しかしそれでは視界が狭まったまま。反撃にもなかなか打ってでられない。


「くそッ!」


 ヒットしたとは言えないただかすっただけの矢がダイナの体力ゲージをわずかながらジリジリと減らしていく。


 この状態で長期戦になれば不利なのは間違いなくダイナ。遠距離型のジャマーとは相性が悪い。ハズレくじを引いたのは自分か。そういう思いがダイナの脳裏によぎった。


「まともに見えやしねえ」


 速射のスキルを活かした妨害戦術。モニター越しだと絶え間なくフラッシュがまたたいているように見える。そのため一時的にモニターの光度が落とされた。


 疲れ知らずのテルシは走りながらスキルを連続使用。矢の命中精度は度外視で。もはやかすりさえすればいいとの考え。それでタイムアップまで妨害し続けようというのだ。


 しみったれ、という表現がしっくりくる戦法だがスキルの決定力不足を補うには仕方がないと言える。


「人差し指の狙い 《インデックスフィンガーエイム》」


 人差し指を向けるが眩しくてなかなか相手が視認できない。


「ははは、最高に気持ちいいね! 相手の手も足も出ない姿を見るのは!」

「やろうがッ」


 加えてずっと走り回っているので照準も定まらない。


「……落ち着け。でかいのを一発当てりゃいい」


 体力ゲージはまだ十分残っている。時間切れになる前に威力の大きな攻撃を当てれば逆転は可能だ。


 それにこの閃光の雨で相手の視界も悪くなっているはずとダイナは気づいた。


「……試してみるか」


 一度でも狙いが決まればいい。その思いでダイナは自身にスキルを使った。


「跳馬の掌 《バウンスハンド》」


 一定時間オブジェクトに弾性を与えるそれは自分自身も例外ではない。


「――おっと」


 思わずよろけるダイナ。接地する両足はホッピングが付いたような感覚でかなり動きに違和感がある。けれど遠距離型プレイヤーへの対策としてそれを御する練習を何度も繰り返してきた。


「ふんっ! ふんっ! ふんっ! ふんっ!」


 ダイナは助走をつけて徐々に跳躍力を伸ばしていくと、


「おらああああああああああああああああッ!」


 渾身の踏み込みで一気に高く跳び上がった。


 放物線を描く矢の一団よりもさらに上へ。視線の奥にテルシの姿を確認した。


「なにッ!?」と不意を突かれたテルシの手も止まった。

「人差し指の狙い 《インデックスフィンガーエイム》」


 その隙を逃さずダイナは人差し指を差し向けた。


 ターゲット、ロックオン。


 ここからは時間との戦い。着地した時に弾性スキルを解除して全力疾走をかます。


 見なくても分かる。人差し指が示すその先へ。


「な、み、見えないはずだろッ!?」


 やはりと言うべきか事前に相手のスキルを予習していなかったテルシは動揺している。


 妨害しながら走り回るテルシよりも防御を投げ捨てたダイナのほうが速い。


「歯ァ、食いしばれッ! 鉄拳制裁 《アイアンフィスト》」

「ぶはッッッッッ!」


 接近を許したテルシの顔に重い拳が叩き込まれる。


「もう一発おまけだッ! 鉄拳制裁 《アイアンフィスト》」


 地面で跳ねたあとにすかさずもう一撃。


「がはッッッッッ!」


 タイムアップ。そこで時間切れのゴングが鳴った。


 体力ゲージの残量判定。なんとかギリギリでダイナのほうが勝っていた。


 テルシの消極的な姿勢がはなから時間切れ狙いであると審判プログラムが判断。次のラウンドでは移動速度減退のペナルティーが課せられた。


 §§§


「……まずは第一ラウンド」と部長が息をつく。


 そのすぐ近くでリコルが難しい顔をしていた。視線の先には無千高校レギュラーメンバーの一人が。ツナグは視線を辿る。


「あれは確か……」


 三田(みた)ネクロ。録画試合でも見た男。アビリティ『ネクロマンシー』を扱う三年生で要注意人物。その性格は陰湿極まりないと噂されている。


「先輩。大丈夫ですか?」と声をかけるも、

「……うるさい。集中させろ」


 と素っ気なく返された。それは試合に集中させろという意味ではなく精神を集中させているから邪魔をするなということだった。


 それだけでリコルのこの対戦に対する緊張度合いが伝わってきた。

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