表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/106

CHAIN_28 ストーカー

 予選第二試合を翌日に控えたこの日。街中で望美ツナグをたまたま見かけたある男が尾行を開始した。男は帽子を被りサングラスをかけている。


「……あれは間違いなく君のはずなんだ。その強さの秘密、僕にもどうか教えてくれ」


 独り言を言いながらその男はツナグのあとについていく。その様はまさに不審と言っても過言ではない。


「……君はやはり勘が鋭いな」


 何度も立ち止まっては振り返るツナグに男は素早く物陰に隠れることで対応した。それを見ていた通行人は渋い顔でそそくさと通り過ぎていく。


「……どこへ行く。秘密の特訓場か?」


 人気の少ないほうへと歩いていくツナグに男は興味津々といった様子。だがしかし、


「――ねえ、あなた何やってるの?」


 とうしろから急に声をかけられて振り返った。そこにはツナグの幼馴染みのアイサと親友のセンイチがいた。


「うちのツナグに何の用ですか?」

「いやお前のじゃねえけどな」とやれやれ顔で突っ込むセンイチ。

「誤解しないでくれ。僕は別に怪しい者じゃない」


 男は立ち上がって帽子とサングラスを外した。


「……えっ?」

「あ、見たことある」


 二人の反応はバラバラ。アイサはポカンとしていてセンイチは顔を指差している。


「ちょっとセンイチ! ほら、あの人よ! 氷天架ヒサメよっ!」

「あー、あのデントやってる有名な」

「僕のこと知っているんだね。嬉しいよ」とヒサメは一度表情を緩めたが、

「で、そんな有名人がなんでツナグのストーカーなんかしてるんだ?」

「ち、違うっ! 断じてストーカーの類ではないっ!」


 センイチから投げられた直球の質問にうろたえた。


「じゃあ何やってたんだよ?」

「……それはちょっと、たまたま見かけた彼を遠くから観察していただけで」


 ヒサメは言いづらそうに目を伏せて答えた。


「はあ、それをストーカーって言うんだよ。そもそもさ、たまたま見かけたって言ったけどあいつのこと知ってるのかよ?」

「……彼は僕の好敵手になり得るかもしれない男だ」

「なんのだよ?」と首を傾げるセンイチにヒサメは静かに「デント」と答えた。

「え、デント? ツナグってデント強いの?」

「彼は強い。いや、まだ定かではないけど僕はそう睨んでいる」

「へえ、あのツナグが……」


 アイサはただただ感心している。夢にも思わなかったのだろう。


「あいつ、ちゃんと楽しんでるみたいだな」


 さきほどまで硬い表情をしていたセンイチだが今は嬉しそうに微笑んでいた。


「――はあ、なんだよ。みんなして」


 声がしてふと三人が振り向くとそこにはなんとツナグがいた。向こうから近づいてくるのに気づかなかったのだ。


「ん? お前は氷天架ヒサメ」とすぐさま気づいたツナグ。

「久しぶりだね」

「ついこの間だけどな。で、どうして三人が?」


 てっきり無千高校の連中だと思っていたツナグは内心ほっとしていた。


「ああ、それはこいつがスト」と言いだしたセンイチの前にヒサメが割って入った。

「ストリーミング配信について話していたんだよ。プロと違って僕らの試合は録画のダイジェスト版だから会場に足を運んだ人以外はリアルタイムで見られない。でも中には事情があって来られない人々もいるからもっと配慮すべきだろうって」

「……よくもまあとっさに思いつくもんだ」


 センイチは参ったよと言わんばかりの顔で腕を組んだ。


「……ストリーミング配信」


 その時ツナグの脳裏にある考えが浮かんだ。実現可能かリンに小声で問いかけると「そんなのイージーよっ!」と返ってきた。


「ねえ、なに一人で喋ってるの?」

「いや、なんでもない」


 ツナグは平静を装った。怪しまれないように喋ったつもりだったが気づかれた。さすがは幼馴染み。よく見ている。


「ともかく僕は明日の試合見にいくつもりだよ」とヒサメ。

「わざわざ言わなくても勝手に来ればいいだろ」


 自分の存在を顕示するかのような発言にツナグは若干うんざりとした。


「じゃあ私も見にいってみようかなあ、なんて」

「無理して来なくてもいいよ。なんだかんだ忙しいだろ?」

「……そ、それはそうだけど、でも……」


 アイサは不満顔で口をもごもごとさせている。


「悪い。行きたいけど俺はパス。練習試合があるからな」

「分かってるよ。俺もそっち見にいけないしお互い様だ」


 センイチはセンイチで用事があるので会場には来られない。けれど試合後のダイジェスト版を見ると約束してくれた。


 明日はいよいよ本選進出を賭けた無千高校との戦い。今のところ部員の誰かが大きな事件に巻き込まれたという報告はない。


 ただツナグにとって唯一の気がかりはリコルのことだった。あのあとも何度かメッセージを送ったのだが余計なお世話だと突っぱねられた。


 その夜、ツナグは立てた作戦についてリンと念入りに打ち合わせをした。そうでないと人工知能の彼女は良からぬことをしでかしそうだからだ。


「よし」


 話が終わるとツナグは明日への緊張感を胸に早めの就寝をした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ