CHAIN_20 中堅ダブルス -1-
「次は僕たちの番だね。準備はいいかい?」
「はい! 頑張ります!」
次の試合はダブルス。二対二の対決。部長須磨ケイタと体験入部加瀬コムギのコンビ。
対する相手は井出オサムと木城タダシの三年生コンビ。もう後がない彼らは鬼気迫る表情をしていた。
緊張の面持ちで壇上へ向かう部長とコムギ。
ダブルスの基本的なルールはシングルスと一緒だが体力ゲージは二人で共有となっている。そのため片方だけを集中的に狙うという観客感情からしたら卑怯とされる戦術も運営によって黙認されていた。
「レイト先輩。部長って強いんですか?」とツナグ。
「そうだねえ。強いよ。けどアビリティがサポート向きだからシングルスだと厳しいんだよねえ」
「へえ。どんなアビリティなんですか?」
「見れば分かるさ。あ、もう始まるよ」
§§§
四名が電脳空間へログイン。第一ラウンドが始まった。
今回は古代遺跡風のバトルフィールド。足もとは砂漠。気候変動の影響で崩れ落ちたスフィンクスも在りし日の姿で顕在している。
「いくよ! コムギ君!」
「はいっ!」
先に動いたのは彩都高校側。
「念力の誘導 《サイコムーヴ》」
ケイタは念動力で瓦礫を持ち上げるとそれを相手に向かって飛ばした。
彼のアビリティは『サイコキネシス』。念力を行使して戦う超能力カテゴリー。
瓦礫はオサムとタダシの間に着弾。とっさに横方向へ逃げられたが、開始当初同じ場所にいた二人は離れ離れになった。
「コムギ君!」
「いきますっ! 玩具の兵隊 《トイズアーミー》」
ケイタの呼びかけでコムギは手持ちの本から玩具の兵隊をぞろぞろと出現させた。
彼女のアビリティ『イマジナリーブックス』は手持ちの絵本から想像上の何かを出して戦う武具カテゴリー。
玩具の兵隊は隊列を組んでオサムのほうへスタスタと向かっていく。
「ストーーーップ!」と隊を止めた指揮官らしき玩具はすかさず、
「レディーーー!」と言って他の兵士に銃を構えさせると、
「ファイアーーーーーッ!」
その一言を皮切りに一斉射撃をさせた。
かわいい見た目から繰りだされる弾丸の雨をもろに受けるオサム。
「ぐッ、なんだってんだッ……!」
「オサム! さっさとアレを使え!」
「分かってるっつうの! 変身 《メタモルフォーゼ》」
オサムの全身が波打って閃光が迸った。その直後に彼の姿はなかった。
いや、姿形が変わっただけでそこにいる魚が彼なのだ。
アビリティ『メタモルフォーゼ・レイ』。魚のエイに姿形を変える変身カテゴリー。
「乗り損なうなよ!」
巨大なエイの姿になったオサムは砂の海を泳いでタダシのもとへ。
「――よっと!」
タダシは慣れた動きでオサムの姿を捉えてその背中に飛び乗った。片手で頭の突起を掴んで離さず上手に乗りこなしている。
「さあ、見せてやろうぜ!」
「俺たちのコンビネーションを!」
砂上を裂くように滑らかに移動する彼らに対してケイタたちは砂に足を取られて思うように動けない。
タダシとオサムは急接近。背の上でタダシが漁師のように構える。
「一角の牙 《ナールワールタスク》」
利き手に構えた鋭い矛がすれ違いざまのケイタを貫いた。
「ぐッ……」
アビリティ『フィッシャーパイク』は海獣を狩る一本角のような矛。
二人は流れるようにして今度はコムギのところへ向かった。
「危ないッ!」
ケイタは叫んだがコムギは恐怖で立ちすくんでいた。
「くッ……! 念力の波動 《サイコウェーヴ》」
アンダースローのような姿勢から放ったそれは砂上を波のように走ってコムギに近づく二人に直撃した。
小気味良い音が鳴って砂が舞い上がる。
「――びびった」
「――あっぶねえ」
砂煙の中から現れた二人。特になんともなさそうだ。体力ゲージもほとんど減っていない。でも目的は果たした。我に返ったコムギはその間に二人から距離を取ってケイタのほうへ走っていた。
「コムギ君!」
「部長っ! アレ使いますっ!」
ケイタと合流したコムギは絵本に手を突っ込んで、
「天狗の隠れ蓑 《テングケープ》」
中から蓑に似た茶色のケープを引き抜いた。
ふわりとそのケープを被った二人はスッと姿を消した。
「消えた!?」
「マジかよ!?」
急に二人を見失った出刃具高校コンビは困惑している。
しんと静かになった砂漠の上。砂をかき分けて進む音だけがフィールド内に響く。
「――念力の緊縛 《サイコバインド》」
その時だった。どこからともなく姿を現したケイタが声を張った。
「なにッ!?」
宙で拘束されたタダシ。乗り手を置いてオサムは通り過ぎていく。
「コムギ君、今だ!」
「お願いっ! 赤鬼の金棒 《レッドオーガクラブ》」
コムギの合図で絵本から厳つい赤鬼が出てきた。その赤鬼は大きな金棒を持っていて今まさに大きく振りかぶり、
「や、やばいッ」
力の限り殴りつけた。
「ぐあああああああああッ!」
バットに打たれたゴムボールのように吹っ飛ぶタダシを、
「念力の誘導 《サイコムーヴ》」
ケイタは念動力で強引に引き戻した。
「もう一発! 当ててやれッ!」
「いきますっ! 赤鬼の金棒 《レッドオーガクラブ》」
役目を終えて消えかかっていた赤鬼は再び構えると、タダシ目がけてもう一振り。
「ぐうッ!」
「タダシッ!」
落下地点に先回りしたオサムはタダシを背で受け止めた。
「天狗の隠れ蓑 《テングケープ》」
ケイタとコムギはケープの内に再び身を隠した。
§§§
「いい感じの連携プレイだねえ」とレイト。
「こんな戦い方が……」
ツナグは知らなかった。一対一では不利と言われるアビリティでも組み合わせ次第ではかなりの相乗効果を得られることに。
「いわゆるシナジーってやつね。辞書で調べたわ。私とツナグもそうなのかしら?」
リンとツナグの関係は相乗作用というよりも相利共生。ツナグが自律化のための機械学習と宿としての体を提供する代わりにリンは既知のイベントの精密分析やパターンの新発見を促す高度予測、それから処理能力を飛躍的に向上させる知的介助を提供している。
「お前は俺がいないと何もできないだろ」
「む、ツナグだってそうじゃない! この私がいないとてんで戦えないわ!」
「あのなあ!」
「ど、どうしたの急に?」
ツナグが急に声を上げたことに驚くレイト。
「い、いや、なんでもないです」
慌てて取り繕ったがレイトは怪訝な顔をしていた。リコルとダイナは黙って試合に集中しろと言わんばかりに睨んでいた。
§§§
「念力の波動 《サイコウェーヴ》」
何もないところから放たれた念力による波の振動が砂上を駆ける。
「来たぞッ!」
「いや、大丈夫だ! あれは大したことない」
ダメージが低いことを覚えていたオサムは落ち着いてその場停止。波動は彼らの目の前を横切っていった。
アビリティの威力が弱いのは元より承知。ケイタの目的は一時停止させること。
「玩具の兵隊 《トイズアーミー》」
「念力の誘導 《サイコムーヴ》」
隠れ蓑から現れた二人。ケイタは玩具の兵隊を念動力で遠くへ投げ飛ばした。それは出刃具高校コンビの近くに着地して、
「レディーーー! ファイアーーーーーッ!」
銃を構えて一斉射撃した。
「ぐあああああああああああッ!」
「ぐッ、オサム! 早くいけッ!」
図体の大きいエイは格好の的。面白いように弾が当たる。背上のタダシは腕でガードしながら足で蹴って退避を促したが、一足遅かった。体力ゲージがゼロになる。
そこで第一ラウンドが終了した。
「やったよ! コムギ君!」
「はいっ!」
二人は勝利のハイタッチ。九十秒のインターバルに入り、第二ラウンドに備えた。




