閑話 王女と過去
私にはお母様がいない。
私が生まれてきた代わりに死んだ。
私には優しさが分からない。
お父様とお兄様は何も教えてくれなかった。
私には人の心が分からない。
人と接する機会が全く無かったから。
ある日、私はお母様が死んでる事を知った。
初めてお父様が嘘をついている所を見て信じられなくなった。
その後お兄様に聞いた。
「私のこと、嫌い?」
と。
お兄様は
「我の妹なのに嫌うわけなかろう?」
と言った。
私は知っている、お兄様は本当はお母様が好きな事を。
私は人の心がこれほど難解で、嘘吐きなのだと理解した。
そんな環境に生まれた私は人との関わりが苦手だ。
幼い頃から人と関わる事自体を拒否していた。
それも関係して私は今も婚約者はいない。
そもそも私は元々こんな性格ではなかった。
淑女の嗜みを持っているごくごく普通のお姫様だったと思う。
でもこの性格じゃないと無理だった、お父様の前に出るには。
お母様が死んでる事に気付いてから五年間、一切外に出なかった。
部屋にはお手洗いやお風呂もあったので生活するにはほぼ不便はない。
食事はサーナが持って来る。
私が真実を知る前に専属になり、この五年間を支えてくれた大切な人だ。
サーナは何度も何度も私を外に出そうとする。
その時は私の気持ちなんてわからないのに…って思っていた。
でも違った、本当に分かっていなかったのは私だ。
サーナはお父様やお兄様の事も考えて私を説得していた。
そんな事も分からなかった私は怒った、今までの不満を全部。
全部言い終わった後、少し心が軽くなった気がした後直ぐに頬に痛みがきた。
サーナが叩いたのだ、私の頬を。
私は初めて受けた衝撃とサーナが私を叩いた事に驚きを隠せなかった。
そんな私を置き去りにしてサーナが涙ながらに喋り始める。
「……悲しいのが、自分だけだと…思ってるんですか?」
「陛下や皇太子も…悲しんでるんです。」
「それでも…前を向いて頑張ろうと思っているんです。それなのに…」
「王女殿下は…ルナ様は現実に目を向けようとせず、逃げてるだけじゃないですか!」
そう言って机を叩いたサーナに驚く。
普段は大人しい子が怒る所が余計に、だ。
サーナが私に近づいてしゃがむ。
涙を一度拭いてから喋り始める。
「確かにルナ様はまだ若い、母親の死を受け止めろとゆうのは酷な話です。」
「でも、それでも私は、ルナ様が外に出て元気な姿を陛下達に見せたかった。」
「私はもう終わりです、ルナ様を叩いてしまったから。」
「本当は陛下が、父親がすべき事ですが…ルナ様は私以外部屋に入れたがりませんでしたから。」
「ここは私が、命を賭けてルナ様を戻してあげないとって、ずっと思っていました。」
「ルナ様、私の言葉で元の生活に戻れるのなら幸いです。」
少し間を置いてからサーナは言った。
「今までお世話になりました。さようなら、ルナ様。」
そう言ってお辞儀をして、サーナは立ち上がった。
私は察した、これは自首すると。
そうすればサーナが死んじゃう、不敬罪で死刑だ。
そう思ってるといつの間にかサーナに抱きついてた。
「…行かないで。」
「ル、ルナ様?どうしましたか?」
「行かないで、私は…サーナにいて欲しいの!」
そう言って私が泣きサーナは死ぬのを諦めたと思う。
泣き落とし、案外上手くいくんだなって。
勿論嘘泣きじゃない、本当に泣いたからこそサーナは行かなかったと思う。
サーナは私の人生の恩人だし、大親友。
サーナは絶対に離さないってこの時決めた。
そこから、私の性格は明るく元気に振る舞うようになる。
でもまたそれが、私を変わらせた。
「今日はヴァンドの実が食べたい!用意して!」
「はっはい!畏まりました!」
そう言って料理人が厨房に行く。
私は今、一年間だけ我儘になっている。
「ルナ様…」
「わかってる、一年だけよ。一年だけ。」
「それだと殿方との出会いが…」
「いいのよ、まだ。いい人なんてどうせ残ってないし。」
「それはルナ様が引き篭もりになってたからじゃないですか。」
「む…サーナだって決め台詞言って死のうとした癖に。」
「だっだって、まさかルナ様に止められるなんて思いもしなかったんですよ!」
サーナはあの後死ぬつもりだったらしい。
けどあの時私が止めたからあの時した発言が恥ずかしくなるだけだ。
あの時死んでればかっこよく死ぬ人だったなぁ。
なんてありもしない話を妄想をした。
私が部屋を出てもう直ぐ一年。
私は悠々自適な生活をしていた。
太らないようにはしてるけどね。
そんな感じに思っていると階段から足を踏み外した。
(あ……)
「ルナ様!」
私に天罰が下ったのかな?
まぁこんな人生も悪くなかったな。
目を瞑って痛みが来るのを待つが一向に来ない。
目を開けて見るとそこには
「大丈夫ですか?」
緑髪のイケメンがいた。
目が紅眼で王子様の様な顔だ。
(え…タイプなんだけど!)
超タイプ、私のストライクゾーンにベストマッチしてる。
よし、私の護衛にしよう!
騎士ならお父様の権限で移動できる!
そう思い誘った後、強制的に引っ張ると何かが引っ張ってくるように感じた。
そちらの方向へ向くとそこには
(うわっ、聖女!)
そこには憎きライバル、聖女ことセフィリア・イレイサがいた。
何故憎きライバルかとゆうと簡単だ。
この国限定で女子の小さい頃になりたいのはお姫様か聖女だから。
他の国でも聖女になりたいとゆう子はいると思うけどこの国程はいない。
つまり完全な嫉妬な訳だけど…それでもライバルはライバルだ。
そこで私は強引にサーナの所まで連れて行き転移する。
第六聖なのは確定してるので早めに決着をつけたい。
聖女もそれなりに権威があるしね。
サーナの魔力は空間交換、決して転移の様な物ではない。
けどこれは短距離なら交換ミスがないのでここから数歩でいける執務室の空気と交換した。
そこでお父様がいたので交渉を始める。
途中で聖女が来たが問題ない、この騎士の腕を掴んで取られない様にした。
……聖女め、案外力が強い。
腕の引っ張り合いで少しの間小競り合いをしていたら騎士に抜けられた。
くっ…負けた…
それから私はその騎士、スランについて説明を受けた。
要約するとスランは神から選ばれた護衛である事。
そして今は聖女が呪いにかかっていて離れられない事だ。
後者は国家機密のため言いふらさない様に言われた。
勿論言わないよ、いくら私でもそこまで外道な事はしない。
毎日会える約束をした後部屋に戻って喋る内容を考えた。
サーナはお茶を作りながら話を振ってくる。
「ルナ様、どうしてスランさんを頑なに諦めなかったのですか?いつもは直ぐに引き下がるのに。」
「一目惚れよ。」
「えっ……」
「サーナ?どうしたの?」
急にサーナの手が止まった。
心配になり触ろうとした瞬間
「えぇぇ!あの『男は勝手に惚れるでしょ?』のルナ様が一目惚れ!」
「えっ!サーナそんな事思ってたの!?酷くない!」
「だっていつもの嫡男達には適当に愛想振りまいているだけのルナ様が一目惚れですよ!」
「そんな私でも一目惚れくらいするよ!これでも乙女だよ?私。」
サーナも私に対して少し柔らかくなったと思う。
そんな話をしながら今日は終わった。
それから時は過ぎて武闘大会のエキシビションマッチ。
舞台にはルナミス・レイサが立っていた。
この子は確か愛称が私の名前と被っていて思い出したくないからルンちゃんと呼ばれてる筈。
対戦を見てると何故か相手が魔物化したので今のうちに作戦確認をする。
聖女に睡眠薬を飲ませた後にスランに本音を聞く。
よし、これでスランは私の物にな──
「王女殿下、大丈夫ですか?」
うわっ!びっくりした…
もう、急に喋りかけないでほしいな。
その…あんまりそうゆう事されると顔が赤くなっちゃうし…
あっそうだ!お茶会に誘おう──
負けた、聖女に負けた。
何がいけなかったの?
やっぱりあの性格のせいかな。
それなら──
「サーナ!」
「どうしましたか?あの様子じゃあもう無理だと」
「淑女になり直すわよ!」
「えぇ!今からですか!」
「勿論よ。私、狙った獲物は逃さないの。」
「……因みに何ヶ月ほどするんですか?」
「二ヶ月よ!私が我儘になる期間。精一杯使ってスランに惚れられる女になるんだから!」
「…はぁ、じゃあ陛下に言っておきますね。」
「お願い!後教本も持ってきてね!」
そうして、私がスランを狙う為の準備が始まった。
KHRBよろしくお願いします。