If 剣と聖女
「ねぇお兄様、留学していい?」
「いいが、いいのか?」
「何が?」
「病弱って設・定・だろ?結婚、するのか?」
「今調子がいいって事にしとけばいいでしょ、私はしない。」
「そうか……」
「護衛、ですか。」
「そうだ。」
マルマーとの戦争が終わり一年が経ったある日、僕は国王陛下に呼び出されていた。
あれから学校を卒業し近衛騎士になったばかり、つまり。
とても緊張してる、という事だ。
急な呼び出しはとても心臓に悪い。
何かしたんじゃないかと冷や汗が止まらなかった。
「護衛任務は初めてか?」
「え、あっはい!」
「今回は二人で護衛をしてもらう予定だ、わからない事があれば教えてもらえ。」
「了解しました。」
もう一人か……誰なんだろう?
近衛の人達の顔を思い出せ、僕が行くんだから相方はどうせ近衛だ。
そうやって考えていると扉から音が聞こえた。
後ろを振り向き一応戦闘準備をしておく。
しかし、扉から入って来たのはミラさんだった。
「お呼びでしょうか、陛下。」
「よし、これで揃ったな。」
そう言って席を立つ国王陛下。
今の言葉で十中八九ミラさんが相方に決まった。
安心した、マルマーで思ったより楽しく過ごせそうだ。
「タルト、いいぞ。」
「はーい。」
タルト!?
そう思った瞬間、もう一つの扉から女の子が出て来た。
髪色や目の色、顔付きまで国王陛下そっくりだ。
勿論、女性の色が強いのは確かだけど。
だけどタルト、か。
タルト、とはこの国の第一王女タルト・ソードベルの事だ。
確か病弱で婚約者がいないとかで巷ではあまりいい噂は聞かない。
そんな人が何で急に?
「私はタルト・ソードベル、今回は護衛よろしくね。」
「よろしくお願いします。」
王女様が手を差し出して来たので僕は握手で応じた。
これが無難だと思いたい。
「タルトちゃん久し振り、急にどうしたの?」
「留学したくてね、でどうなの、進捗は。」
「えっ、いやそれは別に……」
「ヘタレね。」
「何それ!タルトちゃんだって出来ればわかるよ!」
「……私もういるわよ?」
「何だと!タルトいつ出来た!」
「あれ言ってなかったっけ?」
なんか色々やばそうな感じになって来た。
僕は空気に徹しようそうしよ──
「誰なの!タルトちゃん!」
「彼よ。」
あれれー、おかしいぞー。
空気に徹してたのに視線が飛んでくるー。
物凄く痛い、早く帰りたい。
「どういう事かな、スラン少尉。」
「さっさぁ、私にも何がなんだか、」
「まさか、あんな事しておいて覚えてないの?」
痛い痛い!もうやだ帰りたい。
後僕この王女嫌いだ!
いらない事を言わないでよ!
「スラン君、覚悟は出来てる?」
「え、いや僕本当に何も知らないんですよ!」
「まぁ貴方は覚えてないでしょうね、初対面だし。」
え、何この人殴りたい。
ダメだけど。
「まさか、留学中に仲を深めようと?」
「まぁそれもあるけど、一番は研究ね。」
研究、か。
まぁこの人引き篭もってたしそういうのは得意そうだよね。
「はぁ、まぁ深くは聞かん。」
「ありがと、お兄様。じゃあ明日出発だから準備しておいてね。」
そう言ってどこかへ行ってしまった。
なんだろう、仕事辞めたくなってきたよ。
「急だなぁ……」
「そういう事だ、今日はもう終わりでいいぞ。」
「「了解しました!」」
「ねぇミラさん、あの王女嫌い。」
「根はいい子だから、まぁでもあの感じはからかってるね。」
そう言うミラさん。
でもあんなでもミラさんと仲良いんだよな。
「でも詳しい任務内容が移動中って酷くないですか?」
「それだけ信用してるって事。」
それを差し抜いても事前説明はしっかりしておくべきだと思うけどなぁ。
そう思いながら僕達は家に帰り荷物をまとめるのだった。
「任務頑張ってね!」
「頑張れよ!」
「うん、行ってきます!」
父さんと母さんと別れを告げて僕は王城へ向かう。
普段より早いので父さん達も家にいたので話せてよかった。
そう言えばあの王女と会うのか……
「嫌だなぁ……」
「誰が嫌だって?」
急に後ろからあの王女の声が聞こえた。
僕が後ろに大きく下がるとそこにはミラさんがいたのだ。
「どう?似てるでしょ?」
「はい、でも脅かさないでください。」
「ごめんごめん。」
そう言って僕の方に近付いて手を握るミラさん。
「さっ行きましょ!」
「はい!」
僕達は話しながらも王城まで歩いて行った。
……でもなんか違和感がある。
なんか積極的に話してくれるし抱き着いてくる。
普段のミラさんなら絶対しない。
うーん……まぁいいか、そういう日もあるんだろう。
昨日は集合場所だけは聞かされてたのでそこにいくと
「スラン君、おはよう!」
「えっ!」
ミラさんが二人!
そう思って後ろを見るとやはりミラさんがいる。
まさか……双子?
そういう風に僕が戸惑っていると、
「タルトちゃん、また外で遊んでたの?」
「えぇ、彼の事もっと知りたかったし。」
そう言って後ろのミラさんがあの王女に変わる。
えっ!?何それ知らない!
「私ね、変化って言う固有魔法なのよ。」
「なっ成程……」
「さぁ皆乗って、話は中でしましょう。」
そう言いながら中へ入っていく王女。
それに続き、僕達も入って行くのだった。
「「固有魔法の研究?」」
馬車で移動中、僕達は留学目的を聞かされていた。
思ってた以上に重たい内容に驚いてしまった。
「そう、私自身これについて興味があってね。」
「……もしかして僕達二人を護衛に選んだのは、」
「研究対象が多い方がいいでしょ?」
成程ね、チーズ先輩が選ばれないわけだ。
先輩の魔法は知らないけど少なくとも固有魔法ではなさそうだしね。
「あ、そうそう一応学力試験もあるからよろしくね。」
「えぇ!もっと早く言ってよ!」
全くその通りだ、そういうのはもう少し早めに言ってほしい。
今日からでも間に合うかな?
「平気だって、二人とも卒業してるでしょ?あれより少し難しいくらいだから。」
「平気じゃないよ!スラン君はともかく僕なんて何にも覚えてないよ!」
「はぁ、じゃあ問題出すから答えてみて。」
そう言って荷物から参考書らしき物を手に取った。
そこから数分間問題を解き続け全問解き終わると、
「まぁ大体9割くらいね、平気よ。」
「本当かなぁ?」
「まぁ私が受かれば貴方達の点数なんて関係ないけどね。」
「それを先に言ってよ!」
それにしてもミラさんはよく仲良くなれたな。
僕ならここまで仲良くなれないと思う。
でも何も知らないまま拒否するのは可哀想かな?
そう考えていると、
「そういえばタルトちゃん、スラン君に何されたの?」
「あぁ、それ聞く?」
「そりゃそうだよ!気になるよ!」
ミラさんがその話を始めてしまった。
正直僕自身は初対面だし何をしたとか以前の──
「裸をね、見られちゃって。」
「……」
「知らない!そんなの知らない初対面なんです!」
ミラさんからとても冷たい視線が飛んできた。
正直心が辛い、というかもし仮に見ていたとしていつ見たんだ?
そんな記憶一つも──いや一つはある。
だけどそれは先輩だし王女ではない。
尊敬する先輩とこの王女が一緒なわけないしね!
「あぁそういえば言ってなかったっけ、私がチーズだって。」
「すいませんでしたっ!」
まさかの同一人物でした。
くそっ、最初に魔法の名前を聞いた時点で察しておくべきだった。
「へぇーそうなんだね。」
「……」
何も言えない。
何を言っても言わなくても言い訳にしかならなさそうだ。
「まぁ、元はといえばミラのせいだけど。」
「えっ、私!」
「私貴女だと思って入室を許可しちゃったしね、言ってしまえば不慮の事故。」
「それは確認しなかったタルトちゃんが悪いじゃん。」
「わかってる、そこは問題じゃないの。」
「……じゃあ何が問題なの?」
「私が魔法を解いてた事ね。」
……?
それのどこが問題なんだ?
「解いてなかったら、貴方と結婚しなくてよかったのに。最悪。」
「ちょっと待って!いつのまに結婚する前提になってんの!」
「いつって、見られた時からよ?」
平然と言い放つ王女に僕はめまいがした。
何でこいつと……
「……」
「ねぇ、ソードベルでも二人以上と結婚出来る方法知りたい?」
「え?何で今そんな事を。」
「聞きたい?」
「勿論興味はあるけど、」
「じゃあ決まりね。」
そう言いながら指を二本立てる王女。
「現実的な方と非現実的な方、どっちを先に聞きたい?」
「じゃあ非現実の方で。」
まぁ出来ない事を聞くのは最初の方がいいだろう。
あんまり気分も良くないし。
「神託を──」
「もう一つの方法は?」
「──強い人、よ。」
……は?
いやまぁ僕は強いけどさ。
「これを見て。」
そう言って条文を見せてきた。
……確かに、出来るな。
だけどこんな物すぐに直すだろうに。
「この法はね、一度も変更がされてないのよ。」
「でもする前に変えられない?」
「そんなの傷物になれば問題なし。」
「何言ってるの!?」
言いたい事はわかるけどさ……
それでも少し強引な気がする。
「私はね、なるべく仲良くなりたいの。」
「はぁ。」
「何それ、何か文句あるの?」
不満そうな顔をする王女。
文句がないわけがない。
「まぁいいわ、急ぐ必要もないし。」
そう言いながら席を立つ王女。
「私は帝都に着くまで勉強してるから、ゆっくりしてて。」
王女が自室に戻り僕はミラさんと二人っきりになった。
話も盛り上がって結構楽しかった。
タルト王女とも……まぁ仲は良くなったと思う。
数週間経ち、ついに帝都の近くまでやってきた。
「そういえばタルトちゃん。」
「何かしら?」
「研究ってさ、大学の人とやるの?」
「ん、あぁ一応ね。」
大学の人とやるのか。
「誰とやるの?」
「あら、知りたい?」
「知りたいよ!ね、スラン君。」
「そうですね、僕達とも結構合うんでしょ?」
「えぇ〜どうしようかな〜?」
わざと大きな声で悩んでいるふりをするタルト王女。
そしてこういう時の対処法はミラさんから教えてもらっている。
「で、誰なの?」
「だから、どうしよ─」
「誰なの?」
「どう─」
「誰なの?」
「……」
一切タルト王女の誘いに乗らない、これが答えだ。
そしたらタルト王女も流石に諦める。
「しょうがないわね、教えてあげるわ。」
そう言って少し間が空いて、言った。
「先代聖女、テリジア・イレイサよ。」
「先代聖女!?」
先代聖女、僕がまだ子供だった頃に辞めた聖女。
なので僕自体あまりどういう人かは知らない。
「そう、あまり知られてないけどあの人実は学園で教師してるんだから。」
「へぇ……」
「そういえばスラン君は多分あんまり知らないよね。」
「はい、興味もなかったので。僕が生まれた辺りですよね、来たのって。」
「そうだね、タルトちゃんの五歳の誕生日の時だし。」
となると……
「二歳くらい、か。」
「よくその話覚えてるわね。」
「だってタルトちゃん目をキラキラさせながら何回も言ってきたからね、
流石に覚えちゃった。」
よほど嬉しかったんだろうな。
まぁ僕だって聖女と会うのは嬉しい。
誰だってそうだろう。
そして、僕達はマルマー帝国に着いたのだった。
それからは早かった。
タルト王女はしっかりと試験を合格して無事入学出来た。
一応僕達も受けたが大体タルト王女と同じ点数くらいだ。
入学準備も終えて、遂に入学する日が来た。
「クラスとかないから楽ね、関わられなくて。」
「そう?僕は寂しいけど。」
「カード兄様もいるのよ?面倒。」
「言ってる意味はわかるけどさぁ……」
入学式が終わり、僕達は先代聖女のいる研究室まで歩いている。
ここは最後の方の学年になるとクラス分けされなくなる。
なので割と自由である事が多い。
「ここを曲がったら目的の──あら?」
「どうしたの?──成程ね。」
僕には理解出来ず何を言ってるか分からなかったが直ぐに理解した。
明らかに場違いな白い修道服とドレスの中間みたいな服の女性と鎧を来た騎士。
間違いない、あれは今代の聖女だ。先代にしては若過ぎるしきっとそうだろう。
「あら?研究室に入って行ったわね。」
「何かあるの?」
「この時間帯は時間を空けてくれるって言われたんだけど……」
「ただ挨拶しに来ただけかもしれないよ。」
別に先代と今代の仲は悪く無い筈だ。
なら全然別におかしい事は無い。
「まぁ多分そうよね、行きましょ。」
取り敢えず研究室の前まで行き扉を叩いた。
流石にいきなり扉を開けて中に入るなんて事は失礼だしね。
扉が開き中から二十歳位の女性が出てきた。
この人が先代、かな?
「そういえばそうだったね、入って。」
そう言って中に入らせてもらう。
中には先程見た聖女と騎士、そしてその騎士とは別の騎士がいた。
そして見ただけで分かる、この人は強い。
「あら、私の旦那がそんなに気になる?」
「えっ!?いえ、強い人だろうなと思っていただけです。」
あの騎士は先代の夫だったのか。
じゃああの人は護衛だったってことか?
噂には男性の護衛騎士が聖女に出来たら結ばれる事が殆どらしい。
まぁ今代には関係ない話だけど。
今代の護衛はルナミス・レイサ、確か今代とは二歳年上だった筈だ。
僕が少しだけルナミスの方へ向くと──顔を背けてしまった。
「?……あれ、ルナミスちゃん。何してるの?」
「えっいや、その……何でもないです。」
「……ああいうのが好みなんですか?」
「なっ!そんな訳ないでしょ!」
二人の聖女によるルナミスへの問答によってなんとなくわかった。
つまり僕の顔は彼女にとって好みの顔という事か。
悪い気はしないね、むしろ嬉しいまである。
「別に私は構いませんよ?そういうのは私は平気ですので。」
「……分かってるけど、さ。」
そう言って僕の方に向いてきた二人。
何だろう?何かあるのか?
そう考えていると先代が
「さてスラン君だっけ?」
「え?あ、はい!」
僕名前教えてたっけ?
……多分名簿とかで知ったんだろう。
「私の話とセフィリアちゃんの話、どっちから聞きたい?」
……先代はともかく、今代も?
今代のは面倒そうだな、と思い少しだけ今代の方を見た。
見るからに不満そうな顔、よし後回しにしよう。
「先代の方から、お願いします。」
「いい判断ね、じゃあ話しましょうか。」
そう言ってこの研究室の概要を話し始めた。
やはり先代らしく研究内容は聖を用いて説明する事が多い。
「まぁ大まかな内容はこんな感じかな。」
「ありがとうご──」
「じゃあ次はタルト王女から聞こうかしら?」
「私ですか……」
「一応聞いておきたくてね、何でこの研究室に?」
タルト王女は曇りなく、
「スランの為です。」
と言った。
……?、え!僕!?
「へぇ?」
「こいつは固有魔法を扱え切れてません。」
……
なんかいい事言ってたのに喧嘩を売ってきた。
「たった一つだけです、正直固有魔法使いからすればふざけてます。」
「成程ね、私達固有魔法使いは相手を困惑させないといけない。なのにって事?」
「はい、だけど強いんですよ。一つだけでも。」
「……」
「だから一つ、仮説を思いついたんです、
『魔法の使い方の種類が減れば固有魔法の強さは上がるのか?』
って。」
……
「面白い仮説ね、覚えておくわ。」
そう言って僕の方を向いた先代。
「さて、セフィリアちゃん。話してあげて?」
そう言うと今代が立ち上がり僕を見た。
「……あまり乗り気ではない事を覚えておいてください。」
「……はい。」
「スランさん、貴方は、──
神託によって私の結婚相手になりました。」
一瞬、何を言われたか分からなかった。
だけど段々理解してくる。
「えぇ!?」
「……スランは騎士、そう簡単には渡せないのだけど?」
「でも、協定に同意していますよね?」
「それはそうだけど、ね。」
聖女協定、聖女に関する事について円滑に事を進める為に出来た協定。
その中に『神託の内容に聖女が従う場合、協力を惜しまない事』という一文がある。
協定に従っている以上、国としては断れないのだ。
しかも僕は騎士だ、国と深い関係である事は間違いない。
僕は簡単にイレイサ側に渡されるのは容易に想像出来る。
「ですが、私は無理矢理連れて行こうとは思いません。」
「……神託にあまり乗り気じゃないんですか?」
「いえ、本人の意思を尊重したいからですね。」
そう言った今代は立ち上がった。
「今すぐに、とは言いませんが良いお返事が来る事を願っています。」
そして二人はこの研究室から出て行ってしまった。
そういえばさっきからミラさんが静かだな?
「ミラさ──ミラさん!?」
「その内元に戻るから無視でいいわよ。」
ミラさんの目から光が消え何故か負のオーラが漂っている気がする。
そしてこれからの予定を先代から聞いたのだった。
数日が経ち、学園での生活には慣れてきた。
ただし、聖女様が休み時間に来るのだけは流石にまだ慣れない。
良い返事を貰う為と称しボディタッチ多めで接してくる。
その度にミラさんが凄く怒りの篭った目で見てくる。
いつか殺されるんじゃないかと言わんばかりの目で。
そして、今まさにその目で見られているのだ。
しかし、今回は相手が違う。
聖女様と同じくらい対処に困る存在、
「ザラシ王国第一王女ナルム・リルフ!貴方に決闘を申し込むわ!」
この学園には老若男女、亜人だろうがどんな国だろうが入学出来る。
その為、聖女協定に入っていない十王国の人でも入れるのだ。
「何故、僕に決闘を?」
「ふふん!聞いているぞ、お前がこの学園の中で一番強いって事を!」
……昨日のあれか。
僕は昨日お使いを頼まれていた。
その帰り道にエルフの子が学園の生徒に囲まれてたのをたまたま見たんだ。
一応声をかけたらいきなり襲われたから全員返り討ちにした。
その後エルフの子も学園の生徒だったので寮の近くまで送った後
僕の寮まで戻る間にさっきの奴らの親玉的存在に攻撃される。
一撃だけ喰らったけど後は僕が完膚なきまで叩き潰した。
っていう感じの噂が今日学園中に広まってこうなってると思う。
なんでもそいつが一番学園の生徒で強かったらしい。
しかもそいつは一部教師より強かったとか。
それを余裕で倒した僕は学園内で一番強いって考えらしい。
「すいま──」
「お前は騎士だろうから断らないだろう?」
「──わかりました、受けますよ。」
僕でも騎士の誇りくらいはある。
そんな事言われればやるしかない。
……一番強いのが誰かって言えればね、と思いながら後ろを見る。
「好きにしていいわよ。」
「分かってますよ。」
僕達は広い場所まできて勝負を始める。
まぁ、32倍くらいでいいかな?
「炎舞:開花!」
そう言って獣化と同時に武技を放ってきた。
そして、その動きは今の僕が認識出来る速度ではない。
「くっ。」
「なんだ!その程度か!」
もう一撃放たれる前に1024倍まで引き上げる。
その瞬間まともに彼女の動きが見える様になった。
「!、炎舞:散乱!」
彼女もそれに気付いたのか武技を追加で放ってきた。
それを僕が一つづつ丁寧に防いでいく。
「……急に動きが変わるか。」
「どうかしました?」
「なんでもない、フェル!」
彼女がそう言うと同時に近くに大きな狼が出現した。
見るからに普通の狼ではない事が分かる。
「炎舞:再炎!」
明らかに今までより遅い動きで僕に近づいてくる。
代わりに先に攻撃するのは狼。
今の僕では弾き返せないくらいの力で押されていく。
手加減しようとしたけどその余裕もなさそうだ。
そして僕は呟いた。
「ソード:262144、強化!」
ようやくここまで使いこなせる様になった。
だけど魔力が尽きたら僕の負けだ。
その前に、決着をつける!
まずは目の前の狼を吹き飛ばす。
それと同時に狼は消えてしまった。
「フェル!……」
それでも彼女は僕の攻撃を仕掛けてくる。
その彼女の持つ二つの斧の威力は想像を絶する威力。
勿論、今の僕には通用しないんだけど。
そう思いながら斧を弾き飛ばし首元に剣先を向けた。
「これでいいですか?」
「……はい。」
という事で僕が勝った。
まぁ負けるわけにはいかなかったしいい感じだったかな。
魔力量が心配なので少しどこかで休もうとすると後ろから彼女に服を掴まれた。
「……なんですか?」
「その……欲しいなって。」
「欲しいって何を……ん?あぁあれ、か。」
獣人が欲しいって言ったらあれしかない。
あまり言うのは躊躇うけど。
「……ちょっと、僕一人では決めかねるかな。」
「そう、ですか……」
可哀想ではあるけど僕一人で決めたら色々といけないと思った。
この時、僕はあんなに怒られるなんて思いもしなかったのであった。
KHRBよろしくお願いします。