槍と幻想竜王
カトレアさんに連れられて一つの部屋まで来た。
中に入るとメイより前に助けた四人が話している。
「スラン、お帰りなさい。」
「ただいま、調子はもういいの?」
「はい、もうなんともありません。」
皆元気そうだけどこんなに早く回復するとは思ってなかった。
見た感じ相当疲れていたっぽいし。
「私はこの子を隣の部屋に寝かせてくるから、さっきの事話しておいて。」
「はい。」
カトレアさんはフリージアを抱えて部屋を出ていった。
それとさっきの事か、何の事だろう?
ファントム絡みである事は分かるんだけど……
「で、話って?」
「あの竜人と戦う作戦の事です。」
「簡単に内容を言えば私と寝ている人を除いた五人で戦いに行くって作戦ね。」
タルトが簡単に補足してくれる。
五人って事はカトレアさんも入れているな。
でもなんでタルトは来ないんだ?
「ほら、誰かが残らないと襲われる可能性があるでしょ?」
「まぁ、そうだね。」
ここを落とされるとそもそもとして地上に甚大な被害が出る。
確かに手を出されるのはあまり良い事とは言えないな。
でも──
「タルトだけでなんとかなる?」
「失礼ね、時間稼ぎならいくらでも出来るわ。」
「戦う前までカトレアちゃんがお城に残るから、多分大丈夫だと思うよ。」
まぁそれなら問題ないか。
カトレアさんなら負ける心配はないし。
「では詳細を教えますね。」
「うん。」
セフィは咳払いをしてから解説を始める。
「まず、カトレアさん以外の四人で相手の本拠地に攻め込みます。」
「その時に僕の魔法で本拠地を囲って幻術を無効化して入るんだ。」
そうすれば幻術は防げるか。
幻術とはあまりやり合いたくないし、最初から防げるに越した事はない。
「目標を見つけ次第、ミラさんが魔法の規模を相手のみにして私達が魔法を使える様にします。」
「その状態だと僕達の魔法が反射されない?」
「それなら心配しないで、そうしない様に随時操作するから。」
そう言うのなら平気だろう、戦場でもそういった状況はあっただろうし。
「前衛はルンちゃん一人に任せる形になります。」
「……」
ルナミスの顔が死んでいた。
疲れているとかではない、あれは嫌な事がある感じだ。
流石に一人で受け持つのは嫌なのかな?
「魔王には勇者をぶつけるのが一番ですから。お願いしますね?」
「えぇ。」
「そして私とカトレアさんが回復や防御を担当します。」
「で、僕は後ろの三人を守るって感じだよね?」
というかそこ以外に入れる場所がない。
前衛じゃないならそこしか考えられないし。
「そうですね、勇者の攻撃に合わせられるとは思えなかったので。」
「まぁ、あれは無理だね。」
おそらく足手纏いになるのが精一杯だ。
それならまだ後ろで待機していた方がいいだろう。
「では行きましょうか、相手に時間を与えたくないですし。」
「そうね、じゃあ送るから近付いて頂戴。」
いつの間にかカトレアさんが戻って来ていた様だ。
言われるがまま近付き、城の外に出た。
目の前には相手がいるであろう禍々しい城がそびえ立っていた。
「じゃあやるよ!」
ミラさんが相手の本拠地を魔法で取り囲む。
特に変化はなかったのでどうやらあの城は本物の様だ。
「じゃあ、行ってらっしゃい。」
その言葉と共に、僕達は本拠地に乗り込んだ。
中は思っていたよりずっと綺麗だった。
ただ暗めな基調をしているので怪しさはある。
ミラさんが相手の位置を把握したので歩みを進めていく。
階を一つ上がった辺りでルナミスが口を開いた。
「ねぇ、本当に──」
「しつこいですよ、諦めてください。」
「はい……」
僕の方を一瞬見た後、肩を落とした。
多分、というか絶対勇者の時の髪を見られたくないやつだ。
僕は気にしてないけど……そう言う問題じゃないし。
暫く歩くと大きな扉が目の前に現れた。
人一人分くらいは開いているのでそのまま中に入れそうだ。
中に入ると、あいつが瞑想をしていた。
そして横には変わった大剣が立てかけててある。
持ち手側に四つの穴が空いている剣が置いてあり奇妙だと思った。
「待っていたよ、君達を。」
「……」
会話はしない。
それで痛い目にあった以上、しようとは思えなかった。
「警戒しなくてもいいよ、今は魔法が使えないんだ。」
「……勇者顕現。」
ルナミスはさっさと勇者になり警戒態勢に入る。
髪の事は忘れていそうだし、気付く前に終わらせてしまおう。
「ここで君達が勝てば今やっている事を辞めてあげる──よっと。」
「ちっ。」
ルナミスの一撃は相手に軽々と剣で受け止められてしまった。
一旦二人が距離を取ると、またあいつは話し始める。
「いやぁ、久し振りにこの剣を抜いたよ。やっぱり勇者っていうのは強いよ、ねっ。」
「えっ──」
話しながら放った一撃でルナミスは僕達の近くまで吹き飛ばされてしまう。
それと同時にカトレアさんが転移して来た。
「何かが……」
「避けて!」
間髪入れずに攻撃を入れてくる。
だがその攻撃は顔の目の前で止まり届かなかった。
「邪魔しないでくれる?」
「まだ君は越えられないか。」
カトレアさんの結界が僕達を守ってくれる。
傷一つも付いていないので余裕がありそうだ。
「ルナミス、合わせるからどんどん攻めなさい。」
「了解!」
そう言ってあいつと戦い始める。
結界のおかげで押される事はないが、決め手に欠ける状況だ。
ふと横を見てみると、ここには居ない筈のアリーが立っていた。
「アリー!?」
「私を置いてくなんて酷くない!?」
なんでアリーが……
いやいた方が僕的にはありがたいけどさ。
「私が独断で連れてきたわ。その方が動きやすいでしょ?」
「そうだけど……」
「作戦に支障はないんですよね?」
「ないわ。ねっ、ダーリン?」
そう言って僕の手を掴むアリー。
それに伴って僕とアリーが一つになっていく。
「よし、これでいいかな?」「死ぬ時は一緒だよ。」
「何それ!?」
「見せた事なかったっけ?」「これは運命の赤い糸で繋がった二人でしか出来ないの。」
ミラさんはとても驚いてくれた。
ただセフィはあんまり驚いてくれなかったな。
「セフィちゃん知ってた?」
「いえ、でも似た様なものは知っていたので……」
「ふーん。」「シル、おいで!」
話している間にアリーがシルフィを呼んでくれた。
ただいつもと様子が全くもって違う。
小さな妖精の体だったのに、今日は大人の姿になっている。
《今日はルナちゃんが大盤振る舞いしてくれたから、全力で戦えるよ!》
「それはよかった。」「精霊憑依!」
早速憑依すると前とは比べ物にならないくらい強くなれた。
身体強化も合わせて発動させ、後は……大丈夫かな?
「少しだけ試させて。」「うん、いいよ。」
僕は覚醒を使った。
僕はほぼ普段通りだけど……どうだ?
「何これ……」
うん、大丈夫そうだな。
これなら……
「前出てもいい?」
「やめておいた方が……」
「まぁ一回くらいいいんじゃない?最悪治せるでしょ?」
「そう、ですね。」
許可が出たのでルナミスの邪魔にならない様に前線に出る。
丁度あいつの攻撃が弾かれた瞬間に一撃を入れてみた。
すると意外にも攻撃が通りそこから血が流れ始める。
「まさか、君に傷付けられるとはね……」
「ルナミス、僕も入るから。」「よろしくね!」
《私も頑張っちゃうんだから!》
「えぇ、よろしく……」
なんか微妙な反応だけど、取り敢えずは倒すのが先だな。
ルナミスと一緒に攻撃を始めるも、中々当たらない。
さっきのは油断していたから当たったというのを強く感じる。
「槍技:反転」「ウインドディレクション:フィールド!」
「勇者の剣!」
「おっと……」
ルナミスの攻撃を邪魔しない様に槍を伸ばし、相手を拘束する。
そのまま直撃、とはいかなかった。
一瞬だけ竜の姿になり、攻撃を受け止めてしまったのだ。
拘束も簡単に解かれ、また人型に戻った。
「思ったより痛いね、少し頭がくらくらするよ。」
「あれで無傷!?なんで……」
「君が思っているより強いんだよ、僕って。」
「……」
何か違和感があるのだろうか、ルナミスが悩んでいる。
元々知っていたし、何かが違うのか?
「とはいえ、魔法が使えないっていうのは辛いね。」
「そんな事言っても解除はしないわ。」
「そうだよ、突破出来るならともかく。」
「まぁ、そうだね。」
そう言いながら僕の方に突っ込んできた。
特に何の策もなさそうで怪しいが反撃が入れられそうなので入れてみる。
そしてその攻撃を避け、相手の右脇腹を抉った。
「ぐふっ……流石に強いね。」
「もう一発──」「ウインド──」
「だけどね、もうゲームオーバーなんだよ。」
突如、ファントムから信じられない程の魔力が溢れ出る。
ミラさんに抑えられている筈の魔力がどんどん増えていく。
「何で、私魔法解いてないのに……」
「そういう事ね……」
「二人共、彼を止めてください!」
セフィにそう言われて、僕は改めて攻撃を入れた。
だがしかし、その攻撃は空を切ってしまう。
「スラン!逃げて!」
「えっ……」「何やってるのダーリン!」
いや今止めてって──まさか、
「そのまさかだよ。」
「!?」
あいつの攻撃がすぐそこまで来ていた。
防ぐ事も、避ける事も出来ない距離だ。
僕はさっきの声をセフィだと思っていたが、こいつの魔法による幻聴だったのだろう。
やられた、ミラさんの魔法が突破された時点でその可能性を考慮すべきだった。
死ぬ事は避けられない、おそらくアリーも一緒に。
……このまま一緒に死ぬくらいなら──
⦅何してるのスラン君!⦆
(ごめん、シルフィ。)
僕は強制的に合体と精霊憑依を解
僕の一撃でスラン君の体は消し飛んだ。
残っているのは頭くらい。
合体していたエルフと精霊は怪我はない様だけど意識はもうないし、勇者さえ倒せば僕の勝ちかな。
「嘘……」
「……」
「これで後四人か、と言ってもここからはただの単純作業なんだけどね。」
残された仲間は皆まだ現実を受け止め切れてない。
そうだよね、そういう反応になるんだよ。
「貴方、それの意味が分かってるの?」
「言われなくても、君達と格が違くなっただけさ。天使の君ならそれがどういう意味なのかは十分理解しているだろう?」
「えぇ。」
僕は、神になった。
ただこれは始まりに過ぎない。
これにならなければ、まず話にもならないからね。
「何で、私の魔法が……」
「それは僕の格が君達と違うからさ、当然でしょ?」
「……」
さて、まずは回復役を倒そうかな。
天使は殺せないから、聖女からか。
「じゃあ、死のうか。」
僕は一気に彼女に詰め寄り、一撃を入れた。
入れた、筈だった。
「……?」
「もう、悩む必要はありませんね。」
僕の一撃は腕一本で止められた。
傷すら付いていない、という事は──
「コール様、もう一度お借りさせていただきます。」
「今度は楽しめるといいけどね。」
神の力を持つ者同士、やろうじゃないか。
KHRBよろしくお願いします。




