表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
274/277

不死とボウショク

「僕、加勢しに──」


「この後ファントムと戦うのに、今消耗してどうするの?」


「それは……」


確かに、言う通りだ。

今僕が行ったら、現実的にファントムを相手取るのは厳しい。

あれを倒す算段だって、今も考えている。

でも、このまま見ているだけは──


「今は我慢しなさい、それに、ほら。」


「えっ──」






時は少し遡り、スランが十王国に転移した時──


「っ、ちょこまかと……」


「はぁっ、はっ、この程度かよ、はぁっ、はぁっ。」


暴食に限界が近付いていた。

自分を鼓舞する為にあんな事を言ったが、まともに動ける体力はもうない。

テリジアの魔法によって、暴食の想定より早い段階で衰弱し切ってしまう。


三対一、本来ならもう決着がついていてもおかしくない状況が何故起きているのか。

それは暴食が戦いの天才だからというのもある。


前述の通り暴食が悪魔の中で一番才能の持ち主だ。

どんな状況でもすぐに適応し始める暴食。

そんな奴に長い時間を与えるという事は負ける可能性を増やしていると言ってもいい。

それでも暴食が劣勢なのは相性不利だからとしか言えないのだ。


そして何より──


(まだ、俺は死ねない、死ねないんだ。)


死んではいけないという強い思いが、暴食の原動力になっていた。

彼らの目的、末妹を助ける事は非常に重要な要素だ。

それを達成出来ないというのは到底容認出来ない。

一人でも欠けてはいけない目的である以上、死ねないのだ。


ただこの時生きているのは暴食のみであり、その頑張りは無駄である。

だがその事実を知らない事で、暴食は頑張れたのだ。


「紫電一閃。」


「くっ!」


暴食は何とか避けた。

しかし、それが敗因となってしまう。


「隙あり。」


「なっ!?」


隙を見せるのを待っていたルークの攻撃に、反応する事が出来なかった。

暴食は真っ二つに切られ、先代の魔法によって下半身はすぐに消滅してしまう。

上半身は何とか魔力で侵攻は抑えているが、先の魔力大量消費の影響もあり段々と消え掛かっている。


「これで終わりだ。」


ルークは一切油断せずに絶命させる一撃を放った。


(いやだ、死にたくない。まだ俺は何も成し遂げていないっ!)


ルークは、一つ間違いを犯した。

それは、暴食に時間を与えて過ぎてしまった事だ。

天才に時間を与えるという事は、非常に致命的な行動であった。


「!?」


暴食の魔力が、爆発的に増え始める。

早く殺さなければとルークは思うが、もう遅かった。

もう近くに寄れない程の魔力が集まってしまったからだ。


「どうして……魔法は使えない筈なのに。」


「ごめん、間に合わなかった。」


「いや、出来る所までやったさ。彼がそれ以上の傑物だっただけだ。」


三人は次の暴食の動きに注目していた。

そして次の一言で全員は死を覚悟したのだ。


「『魔魂連結(ゼーレル)蠅の王(フリゲニヒ)』!」


「はぁ!?」


「こんな一瞬で……」


暴食の姿が異質な肉の塊になり、それは不気味な程膨らんでいく。

闘技場の十分の一程の大きさになった後、それは爆発した。

飛び散る肉片は壁や地面を溶かし、当然彼らにも攻撃が降り注ぐ。

先代の魔法で防がれてはいるものの、魔力を大幅に削られる。


[我り、復れ活たの来時!]


その肉塊の中から一人の男が出て来た。

雰囲気は暴食のそれだが、明らかに別人だ。


「話はもう通じなさそうね。」


「魔法、後どれくらい続く?」


「十分、それ以上は無理。」


「それだけあれば何とかなるかな。」


ルークは距離を詰め、一撃を入れる。

しかし、その攻撃は皮すら越えられなかった。


[ほかう、気我るとや!]


「刃すら通らないのか……」


「紫電一閃!」


皇帝も一撃を入れるが、当然傷は付かない。

一旦二人は距離を空け、様子見を始める。


[礼だ儀者だ、す名申乗とっヒてニおゲこリうフ。我のは食魔暴王部セ幹デのシ属ス直様!]


「これは困ったね、有効打がない。」


「この様子じゃ本気の一撃でも無理かもね。」


「多分だけど、強さ自体はあまり変わってなさそうね。」


「いや、それは──」


[でるは、参こらちから!]


話している合間に男が攻撃を仕掛けて来た。

咄嗟にルークが受け止めたが、予想していた威力よりずっと低かった。


「確かにこれは変わらないね。」


[我かのい攻な撃はをで受るけや止々め中るはと!]


「なら、まだ何とかなりそうか。」


ここから、この男を倒す戦いが始まった。




[はたっしはうっどははっ!勢先威程の!]


「くっ!」


二人は、相当体力を減らされている。

いくら強さがそこまで変わってないとはいえ、元々強いのだ。

かつ攻略法も未だ見つからないとなると、ただいたずらに体力が減るしかない。


「もう、魔力が……」


「もう時間はないか、彼女を連れて逃げ──」


「ルーくん私絶対に逃げないからね!」


「という訳なので、最後までやります。」


「大変だな、君も。」


二人は構え直し、先代を守る様に陣取る。

この状況、逃げようが逃げまいがとても不利な状況である事に変わりはない。

結局の所先代の魔法で男の魔法を打ち消しているので、使えなくなった時点で詰みだ。

ほぼ負けと言ってもいい。


しかしながら、誰かが味方すれば話は別だ。


「!、気を付けて、上に膨大な魔力反応が!」


謎の魔力反応を警戒し、守りの態勢に入る。

それは男も同じで上空を見て警戒していた。

見ると空に赤い一点が浮いている。

段々と赤い点がこちらに向かって落ちてきた。

赤い点は男目掛けて速度を上げて近付き──


紅玉好転(ビクトリーノヴァ)っ!!」


その一撃は、男の半身を吹き飛ばした。

攻撃を受け止めようとして、この有様。

地面には隕石が落ちた跡の様な物が出来てしまう程だ。

すぐに再生されてしまい反撃されるが、軽く避けた。


「!?」


攻撃が通った事により、男の体からフリージアの体が出て来ていた。

それを見た皇帝は当然拾いに行こうとするが、武技の余波ですぐには行けない。


「パパを困らせているのは君だね!」


[我なのい半強分様を貴消はしと飛すば。]


「へ?」


[ようからろもう、てなせららばや我でも力全!]


「……?」


男の魔力がさらに増え、それを少女にぶつける。

少女は一瞬対応が遅れてそれをまともに喰らってしまう。

少女はそのまま先代達の後ろの壁まで吹き飛んだ。


「ルーくん足止めしといて!」


「了解。」


先代は指示してから少女の元へ向かう。


「今治して──」


「もうっ!急に殴らないでよ!」


「きゃっ!?」


少女が急に起き上がった事で、先代は驚いて尻餅をついてしまう。


「?、お姉さん誰?」


「私?私はテリジア・──」


「ねぇお姉さん。」


「話は最後まで──」


「それってどうやるの?」


少女は先代の魔力を明確に指した。

その目はただ魔力を見ている訳ではないと、すぐに分かる。

先代は若干驚きながらも、答えた。


「これは魔魂連結(ゼーレル)よ、そ──」


「やり方教えて!」


少女は先代に目を輝かせながら言った。

教えてくれないという選択肢はないと言わんばかりの目だ。


「あのね、これはすぐに出来る──」


「教えて!」


「はぁ……魔魂連結(ゼーレル)って言った後、自分の魔法に合った言葉が出てくるから、それを続けて言うだけよ。」


簡潔に説明したので少女は理解出来ず、再度質問をする。


「ぜーれる?って何?」


「ただの形式的な言葉よ。」


「違う!どういう意味なの!」


自身の意思を相手が理解出来なかったので、若干頬を膨らませて怒る。

これ以上長引かせる訳にもいかないので、ちゃんと答えた。


「魔法と魂を連結させるって意味よ。」


「そうなんだ、ありがとうお姉さん!」


そう言うと少女の魔力が膨大になっていく。

その膨らみ方は、見覚えのある膨らみ方だった。


「『魔魂連結(まこんれんけつ)、空を統べる紅の王』!」


先代が見つけた以外の方法でこれを使う事は難しい。

しかし、別の方法で少女はこの領域に踏み込む事に成功する。

その影響か少女は姿を大きく変え、美麗な女性になったのだ。


先代は動揺し、いつの間にか魔力も回復していた。

原因は女性の魔魂連結における副次的効果だ。

女性の行使する魔法はその様な効果はない。

ただ膨大な魔力が周りの生物に影響を与えた結果だ。


「『勝利の新星(こうぎょくこうてん)』。」


一撃で決着がついてしまった。

男はそれを受け止められず、暴食に戻ってしまう。

戻った体はもう頭しかなく、生きてるとも言えない状況だ。


「くっ……」


「もう一回──」


「まだ、まだだぁっ!」


暴食は叫び、フリージアの方に飛び掛かる。

もう一度受肉し、再起を図るためだ。

だが事前に近くに寄っていた皇帝がそれを防ぐ。


「通さないよ。」


鋭い一撃が、暴食を捉えた。

それにより暴食の体が消えかかる。

ただ、それで暴食は終わらなかった。


(掛かったな、はっ、詰めが甘いな!)


暴食は自身の精神だけフリージアに飛ばし、受肉する。

特に抵抗もなくすんなり入れたのでまだ動かせるだろう。

そして後ろから──


(甘いのは貴方の方。)


(誰だ!)


突如として謎の声が暴食に語りかけて来た。

こうなれば警戒せざるを得ない。


(まぁ、多少は感謝しておくわ。)


(なんだと!)


(じゃあね。)


謎の存在の手が暴食に触れると、気付かぬまま体が消滅していく。

こうして、悪魔達は全滅してしまったのだ。






「大丈夫だったでしょ?」


「うん。」


色々戦ってたけど最終的にメビウスさんが倒した。

途中でキョニョ助が入ってきて驚いたけどあの子なら呼ばれるのも分かる。

僕の知らない技も使って強くなってて少しだけ感慨深いなと思った。


「じゃあ送るわ。」


「うん。」


戦いが終わったのを確認してから、僕はマルマーに転移する。

転移すると映像で見ていた闘技場に立っていた。

見ていたけど、思った以上に荒れているな。


「あっ、パパだぁ。」


転移してすぐにキョニョ助が僕に気付いた。

さっきの戦いで疲れ切ったのか凄く眠そうだ。


「君、いつの間に子供を作ってたんだい?」


「そういう事では……」


否定しながらメビウスさんのいる方に歩いていく。

近くまで行くとキョニョ助は近くに来て鳥の姿に戻って眠ってしまった。

……?、いや気のせいか。


「あぁ、そういう事か。」


「はい、そういう事です。」


「その子、借りたいのだけどいいかしら?」


テレジアさんがそう言って来た。

うーん、やっぱ気のせいじゃないのかな?

なんか違和感がある。


それはともかくその言い方で渡したくはないな。

万が一キョニョ助になったら嫌だし。


「そう警戒しなくていいよ、シアはその子が傷つく様な事はしないから。」


「はぁ……」


あんまり納得してないけどテリジアさんなら僕の想像するような事はしないと思い手渡す。


「何をするんですか?」


「私の研究結果ではありえない事をしたから調べたいの。」


研究……魔法関係かな?

さっきのキョニョ助がやっていたあれの事だろうか。

雰囲気もなんか変だし、聞いてみるか。


「その、さっきから変な雰囲気を貴女から感じるんですけど、何でですか?」


「研究対象の副作用ね、大した問題でもないでしょ?」


無いと言えば無い、少しだけ居心地が悪いけど。


「後は、頼んでもいいかい?」


「えっ?」


「僕達、今の戦いで疲れ切ってしまったからね。」


まぁ確かに、四人全員戦えそうな体力は戻ってなさそうだ。

……頑張るしかないか。


「じゃあ妹の事もよろしく頼むよ。」


そう言われて手渡された瞬間、城に戻されていた。


「さて、始めましょうか、作戦会議を。」






「後、少し。それでこの世界は変わる。」


ファントムは、万全を期す為に瞑想していた。

全ては、自分の為に。

KHRBよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ