精霊女王の本気
女王の首は、確かに胴体から切り離された様に見えた。
いや、本当に離れていたのかも怪しい。
「いったぁい!首取れちゃったじゃん!」
「は?……」
強欲は困惑の感情を持っていた。
一撃当たれば死ぬ強欲なる世界を受けて、彼女は生きていたのだ。
鎌で切った首は切られた瞬間に治り始め、もう治っている。
「なっ、何で、死んで──」
「私のお兄ちゃんって、過保護なんだ。」
「は?今何であの──」
「何回殺しても死ねない加護だったり、一日一回でも殺されると降臨してくるんだよね。まぁそう簡単にはこっちに来ないんだけど、ルール違反だし。」
「……っ!まさか──」
「今頃、四人でお兄ちゃんが降臨するのを妨害してるんだろうなぁ……」
そう言いながら、女王は申し訳なさそうな顔をしていた。
自分が一回でも死ねば兄がルールを破りに動き出してしまう。
そうなってしまえば止められる者は皆無。
妻である四人全員でも先に動かなければ絶対に止められない。
四人は先手を打たなければならない以上、割と女王を見ているので、中々降臨まではいけないという事情もある。
「これ以上皆に迷惑はかけたくないし、本気出そ。」
強欲は、最初から彼女の掌の上で踊らされていたのだと、今更ながら感じた。
女王の魔力で辺りは暗くなり、唯一光っているのは──
「満月……」
暗闇の中で金色に光る月は、とても美しかった。
見ていると目が離せない魅力が、それにはある。
それと同時に、大きな違和感も感じた。
見た事があるかの様に佇んでいる月を、強欲は見た事がなかったのだ。
「月じゃないよ、私が作った擬似満月、綺麗でしょ?」
その声を聞いて、強欲は女王の姿を目視した。
そして、見た事を後悔する。
彼女の髪色は銀色に輝き、瞳は金色になっていたのだ。
その姿は女王の本気だと、嫌でもわかる
まるで月の女神だと、強欲は錯覚をする程見惚れていた。
「……」
「月の位置とかを変えて無理矢理満月にしてもよかったけど、それやると迷惑だからね。」
もう勝ち目がないと悟り、持っている転移の石を探すが、中々見つからない。
目で見つけようとすると、自身の両手がなかった。
強欲は、いつの間にか手を切り落とされていたのだ。
そして気付かなかった、憑依を解除された事に。
「っ!」
「痛くないでしょ?」
「いつの間に──っえ?」
突如、視界が徐々に下へと落ちていく。
見なくても、それが両足の切断だというのは明白だ。
「一番弱いでしょ、仲間の中で。」
「……何を──」
「才能ないんだよね、君。」
実際、一番弱いのは強欲だった。
他の悪魔が強欲なら何十、何百と奪える強欲なる世界で強欲は五つしか奪えない。
その事は、一番強欲が理解していた。
「そんな事、分かって──」
「君は運が良かっただけの弱者なんだよ、たまたま強欲を与えられただけの。」
「……?」
強欲には、意味が理解出来なかった。
生まれてから強欲を背負ってきた記憶が強欲にはある。
「何を……」
「あれ?覚えてないのかな?うーん……なら言わなくていいか。」
女王は一人で納得して、強欲に近付いてしゃがんだ。
「転移させてあげるよ、お城まで。」
「……」
何か裏があるのでは、と当たり前の事を思い女王を睨む。
「そう警戒しないでよ、ただ送るだけ。送った後で君に何かしようとか、考えてないし。」
「なら──」
「でもね、一つだけ約束して欲しいんだ。」
強欲に生き残る希望が見え始めた矢先に、不穏な事を言った。
何を言われるか警戒している強欲に女王は──
「もう二度と、私の前に現れないで欲しいんだ。」
「……」
「いい加減にして欲しいんだよね、そろそろ面倒なんだ。」
「それだけで、いいの?」
「うん、それだけで。」
少しだけ、悩んだ。
強くなるために彼女を追いかけてきたのに、と。
だが死んでは意味がないそう思い、承諾する。
「分かった、それでいいわ。」
「そう、ご理解ありがとう。」
女王の手が段々と彼女の手が近付いてくる。
そして触る直前、突如転移の石が強欲を転移させてしまった。
「あぁっ!?っ〜、こうなったら直接──」
攻撃しちゃえば問題ない、そう言う前に女王の動きが止まった。
そして、展開していた魔法を全て解いてしまう。
「本当にいいの?」
メイを預け、森に来ると目の前にルナローズさんが立っていた。
「うわっ!」
「どう、驚いた?」
「驚かないわけないじゃないですか。」
驚きながらも辺りを見渡してみると森が荒れていないのが分かる。
細かい所までは流石に分からないから、そこは見た感じになるしかない。
「はい、よろしくね。」
準備が整っていた様ですぐにアリーを引き渡してくれた。
意識はあるけどメイみたいに眠そうって感じはしない。
とても疲れている様に見える、というのが正直な感想だ。
「お帰り、アリー」
「ただいま。」
アリーはそう言って僕の胸に寄りかかってくる。
そのまま寝るのかなと思ったが、大きく息を吸い始めた。
うん……いつも通りと言えばいつも通りだけどなんか納得は出来ないな。
「これで全員?」
「いえ、まだマルマーが残ってます。」
「ふーん、あっ!そうそう、もし君達が負けても私は助けてあげないから、よろしくね。」
「えっ!?」
予想していなかった言葉がルナローズさんから放たれた。
こういう感じのやつは許せない人と思っていた分、驚きは大きい。
「最初は私もやろうとしてたんだけど、お兄ちゃんに止められちゃったからさ、だからごめんね?」
「あぁー、はい、頑張ります。」
あの人か、ならもう何も言わなくていいだろう。
どうせ何を言っても無駄だし。
「お兄ちゃん、君達が解決する事を期待してるみたいだし、負けないでね!」
「負けるつもりはありません。」
負けるつもりで挑んだら、勝てる相手にも負けてしまう。
死ぬ事を覚悟する事も大事だけど、同じくらい大事な事だ。
「それと、まぁこれは余計なんだけどさ。」
「はい。」
なんかルナローズさんが言いにくそうな顔をしていた。
余計って言ってたし、あんまり言いたくは無いんだろう。
「次やったら殺すって、お兄ちゃんが。」
「次?」
次とは一体何の事なのか?
言い方的に一回はやっている筈だ。
「多分、この前私の指を口に入れた事だと思うよ。」
「あぁ、確かに。」
納得は出来る、でもそこまで怒るかな?
あれは事故みたいなものだったし。
というか──
「何で多分なんですか?」
「それがね、お兄ちゃんそれを言って帰っちゃったんだよ!もう少しくらい細かく教えて欲しかったよね。」
「そうですね。」
流石に説明不足すぎる。
それで推測して辿り着けないくらいなら、もっと言っても、とは思った。
「さて、お喋りはここまで。頑張ってね。」
「はい。」
返事を返した瞬間、僕は城に戻っていた。
当然、カトレアさんがやったんだ──
「あっそうそう、カトレアちゃんに、戦いが終わったら通信してだってさ、よろしくね!」
……
一瞬だけ森に戻って、そしてすぐに城に戻ってきた。
「……」
「その、割り込まれたね。」
「えぇ、私が敵う相手ではないし、気にしてないわ。」
そう言いながらも、僕にはとても落ち込んでる様にしか見えなかった。
あの人達は別格だし、気にしても無駄だと思うんだけどな。
「気にする必要はないよ。」
「まぁ、無駄ね。切り替えましょう。」
案外あっさりと切り替えてしまった。
僕も次のマルマーに行きたいけど、その前に言わないと。
「なんか、戦いの後通信しろって言ってたけど、ルナローズさんと知り合い?」
「……!?」
なんか物凄く顔が青ざめている。
そんなにやばい、のかな?
「今は、それ以上私に言わないで。」
これは聞いたら駄目なやつだ。
じゃあマルマーの事を聞こう。
流石に終わっていると思うけど。
「マルマーの状況は?」
「それが……」
そう言って見せてくれたのは──
よく知る三人が、苦戦していた光景だった。
KHRBよろしくお願いします。




