槍と一歩
カトレアさんはすぐさま対悪法を発動し、ゴウマリュを殺しにいった。
ただ、それは彼に避けられ逆に攻撃を仕掛けられてしまう。
カトレアさんは一瞬の間の後、僕達ごと転移してくれた。
「相手の持続系統を封じているのね。」
「この一瞬でよく気が付いたものだ。」
「貴方こそ、攻撃する手段がないじゃないの?」
「ふっ、それはそちらも同じ事。対悪法が当たらない以上、我が負ける事はない。」
お互いにそう言って戦い始める。
僕達は一応少し離れた場所でいつでも加勢出来る様に準備してる状況だ。
仮にも相手は有利対面の悪魔、下手に一緒に戦って負ける可能性を増やすくらいなら、こっちの方がいい。
それにしても、一つ疑問が残るな。
最初、僕達を助けてくれたのはカトレアさんが発動した結界だ。
ただ、さっきの攻撃は転移で移動して回避していた。
悪魔との会話からさっきの技は持続系無効、つまり結界とか身体強化みたいのを封じている物だろう。
実際僕の覚醒も出来なくなっていた、魔法じゃなくても無効化出来る筈。
ならなんで、一回目は結界で防げたんだろうか?
単純に考えるなら、まだ効果範囲外だったと考えていい。
二回目以降で効果範囲に入れたのも納得が出来る。
取り敢えず、様子を見よう。
少なくともあの技がどんな効果があるのかが殆ど確定する前に手は出せない。
もし加勢するとしても、その後だ。
「傲慢なる世界!」
「!、こっちに──」
「当たる直前で避けるよ。」
「えっ!?わっ、分かりました!」
カトレアさんが攻撃の後に対悪法を当ててくれる事を祈って僕達は左右に避けた。
多分それくらいはしてくれている筈。
読み通り、対悪法は悪魔に対して放たれていた。
ただ、それが到着する前に勇者の方に攻撃を仕掛けようとしている。
その速度は異様に早かった。
まるで、元から勇者を攻撃する事が目的だったかの様に。
「ここで貴様は終わりだぁっ!」
「勇者の剣。」
勇者は昨日見せてくれた技で悪魔に反撃を食らわせる。
あまり効いてはいなさそうだが、そこでカトレアさんが距離を詰めてきた。
勇者は大きく距離を取り、また一対一の状況を作りだす。
「やはり貴様相手では上手く事を進められるのは難しそうだ。」
「当然よ、貴方に好き勝手やらせる程私も馬鹿じゃないの。」
「まぁ、だろうな。」
……正直、これで勝てるのだろうか。と思っている。
少なくとも僕達は今邪魔な存在と思われているだろう。
ある程度自衛は出来るけどそれでも守りながらの戦闘には違いない。
ただここで逃げてもゴウマリュは追いかけていつでも襲える様な場所取りは欠かさない筈。
状況が変わるとは思えない以上、下手に動くわけにもいかない。
ただ動かないとそれはそれで隙を見て狙われるだろう。
なんとかなるべく勝とうと考えていると、悪魔が話始めた。
「これでは、お互いに勝てる気配がしないな。」
「私は勝つわ。」
「はっはっはっ!君ならそう言うと思ったよ。」
「あっそう。」
「……一つ、取引をしようではないか。」
「はぁ?、あんたとするわけないでしょ?」
「これを見ても、まだそんな事が言えるといいがな。」
そう言って彼はどこかから一つの大きな結晶を取り出した。
中には……人、かな。
ん?……!、あれは──
「貴様らの仲間であるこやつ、我の取引に応じれば返してやろう。」
「随分と上から目線ね。どうせ神の力で受肉出来なかったから取引条件に使っただけでしょ?」
「まぁそうだが、だとしてもそこの男には魅力的な条件であろう?」
そう言って僕を見る悪魔。
その結晶の中にはセフィが入っていた。
……返してほしい、けどその条件は何なのだろうか?
これで負けでもしたら意味がない。
それにカトレアさんが悪魔と取引なんて絶対に嫌がる。
何をするか分からない以上、ここは──
「我が提示する条件は、カトレア、貴様の体を我が貰おう。」
「……ふーん、そう。」
「どうだ、十分釣り合っているだろう?」
「乗らなくていいよ、やっても負けるだけだ。」
「ほう、貴様はこの女を見捨てる判断をしたか。」
見捨ててなんかいない。
ここでカトレアさんがいなくなることがどれだけ致命的なのかは分かっているつもりだ。
そんな事をする必要性は、一切ない。
ただ、その思いを裏切るかの如く──
「いいわ、乗ってあげる。」
カトレアさんはその提案を受け入れてしまった。
「えっ!?」
「その選択、誠に感謝する。ではそこの男に投げ渡してやろう。」
そう言ってセフィの入った結晶を僕に投げてきた。
とても重く、持ちきれそうになかったがそれを僕は気合で受け止める。
そしてその間に──
「これで、我も受肉に成功したのか。」
カトレアさんは悪魔に受肉されていた。
「……」
「ふっ、貴様はこの交渉に乗るべきではなかった。」
「そう。」
「貴様がいなくなれば、盤面がひっくり返る事もなくなる。」
「そうね。」
「貴様が天使のままであれば、ここから我を殺す事も可能な筈だったろう。」
「えぇ。」
「貴様なら、この状況からでも対悪法は撃てる。が、それは同時に貴様の死を意味する。」
「ふーん。」
「ファントムに貴様を堕天させる様に頼んで正解だったな。」
「はぁ。」
「お前が一生体験しないと言った痛みと共に散るか、無力にも世界が滅んでいくのを見届けるか、
好きな方を選ぶがいい!」
「なら、貴方を殺すわ。」
突如、ゴウマリュが光を放ちながら苦しみだす。
一体何が……と思っている間に、カトレアさんと分離してしまった。
「ふぅ、とても不快だったわ。受肉なんて二度とされたくないわね。」
「カトレアさん!」
「わっ!、ちょっと、そんな急に抱きしめないで……」
僕は思わず抱き着きに行ってしまう。
カトレアさんは少し恥ずかしそうに頬を赤らめている。
「なっ、何故、何故貴様はっ、ぐぅっ。」
「貴方、私が一生体験しないと言ったってさっき言っていたけど、どこで聞いたのかしら?」
「ノレアーノの所で貴様っ──うっ。」
「やっぱり盗み聞きされてたのね。ごめんなさい、対悪法は私に効かない様にしてあるの。」
「なっ……」
「当然でしょ、なんで自分で作った魔法に殺されなくちゃならないのかしら?」
多分、悪魔側の天使を封じる作戦が今のだった。
だけど作戦を考える前提で間違っていたから失敗してしまった、ということかな。
「このまま、ただで──」
「さようなら。」
「おわるものかぁっ!」
そう言って悪魔は勇者の方に攻撃しに行った。
しかも、対悪法を食らいながらだ。
僕達が到底間に合わない速度で勇者に攻撃する。
「勇者の剣!」
「しょうかのじかんっ!」
その一撃は、入ってしまった。
勇者は倒れ、悪魔は一度大きく光った後、消えてしまう。
「回復を──」
「いえ、魂がなくなってるわ。」
……詰めが甘かったな。
これで、異世界からの勇者は全滅という事になってしまった。
「しょうがないわ、切り替えていきましょう。」
今悩んでも仕方がない、か。
取り敢えず、世界を救うのが先決だ。
「お疲れ様、ゴウマリュ。」
「のぞみどおり、たましい。」
「ありがとう、助かるよ。」
「はやく、なおせ。」
「あぁ、君は用済みだよ。どこかで野垂れ死にしてきなよ。」
「なに──」
ゴウマリュは、その場から姿を消した。
いや、消し去られたと言う方が正しい。
「ようやく、勇者の魂が揃った。」
「悪魔達ももういらないし、後は時間稼ぎだけしてもらうか。」
そう言って、ファントムは勇者の魂を取り込む。
彼の目に、もう悪魔が映ることはもうない。
何故なら、彼の目的の一つは勇者の魂を自身の手を汚さずに手に入れる事。
その為に使っていた悪魔に、会う理由は何一つないのだ。
彼は事前に渡していた転移出来る石をここではないどこかに設定し、悪魔達を見捨てたのだった。
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