幻想竜王と色欲
イレイサ王都の門の前で、その戦いは始まっていた。
「それそれっ!」
色欲が魔法を放って遊んでいる。
本来、色欲は多人数戦においては一瞬で片付いてしまう。
それもその筈、彼女の色欲なる世界は人数が多ければ多いほどその効力が上がっていく。
色欲にとってこれは相手が醜く争って終わる戦闘。
では何故、遊んでいるのか?
答えは単純──
「勇者の体、楽しい!」
受肉した勇者、ルナミスの体を楽しんでいたからだ。
勇者の体に覚醒後、覚醒前と比べた場合大きく力量が上がっている。
勿論それは勇者の力を十全に活用するためなのだが、それが今回悪さをしていた。
彼女が強欲に作られたという事もあり、悪魔にとって扱いやすい受肉体であること。
そして勇者の力を彼女は上手く扱えていなかった為、想定以上に色欲が強くなっている。
そんな色欲を止められるのは聖長しかいない、筈だった。
「はぁ、でも楽しく戦える相手がいないのがなぁ~。」
色欲が暴れて数分で聖長達は現場に到着し、討伐を目指して戦っていた。
最初は拮抗していた実力差も色欲が”勇者顕現”を使った時点で離されてしまう。
全員、相手がルナミスに受肉していなければ勝てる可能性はあった。
ガロンやグラウンド、メリーはメビウスと大した差はない。
ゼータとメーラも以前スランとアリアンテッタがやった合体をしてそれに並ぶ力で応戦していた。
ただそれはすべて勇者の力の前には無意味だ。
全て力のみで彼らを蹂躙し、一方的に勝った。
「……飽きたし、そろそろ仕事を進めようかな。」
そうして色欲は自身の魔法である”色欲なる世界”を使いながら前に進んでいく。
自身の周りにいる人を殺しながら進み、ファントムから任されたものを設置する。
「よし、これで仕事はほぼ終了!」
そうして彼女は装置の近くでくつろぎ始めた。
残りの仕事は見張りなので特にやる事はない。
勿論遠くから攻撃されることもあった。
ただそれは無意味な行動であり、色欲に攻撃が通ることはない。
悲しいことに色欲が受肉した肉体は勇者である。
不定期に現れる魔王という世界を壊そうとする相手に対して絶対に負けないために送られた刺客。
それが、勇者という存在だ。
そんな勇者が普通の人間の攻撃でやられることはまずありえない。
あったとしても、それは勇者の力を引き出していない状態だけ。
つまり”勇者顕現”を使っていない状態に限られる。
色欲は先程発動してから解除していない為、当然効く筈もなかった。
『……どうしたんだい、シキザ。何か作戦に問題でも?』
「暇だから話し相手になってよ。」
『自由だね、君は。』
「しょうがないじゃん、すぐに終わったんだし。」
『それはまぁ、そうかもね。』
「他はどうなの?私みたいになってる?」
『いや、君だけだね。』
「えぇ~!」
実際、悪魔達は苦戦気味である。
怠惰と憤怒は独歩族との戦闘であり、暴食もメビウスとほぼ互角の戦いをしていた。
嫉妬、強欲、傲慢は相手が御六天や精霊女王、天使である為楽な戦いとは言えない。
もし勇者以外に受肉していたら、色欲の仕事もここまで楽に終わらなかった。
勇者の体を使っている以上、苦戦するのは難しい。
「はぁ、皆でまた会えるか心配だよ。」
『……嫉妬以外は絶対に死ぬよ?』
「はぁ?」
色欲は混乱していた。
それもその筈、色欲は自分達が死ぬなんてことを聞いていなかったからだ。
『そもそも、なんで自分達より格上相手に死なないなんて思えるんだろうね。』
「はぁ!?この国の人間が俺より格上なわけねぇだろ!」
『話は最後まで聞きなよ、相手は僕より生きてきた天使だよ?使える手は使ってるんだよ。』
「それでも勝てるから俺らはお前の──」
『でも、君達が勝てるとは言ってないよ。あくまで僕だけさ。』
色欲はファントムに怒りが沸いた。
捨て駒にされたという事実に、色欲は怒っている。
『嫉妬も交渉が失敗すれば死ぬし、そうしたら君達は全滅だね?』
「……てめぇ!、俺らを騙してたのかっ!」
『騙してないよ、君達が勝手に勘違いしていただけ。違うかな?』
「なめてんじゃねーぞっ!今からお前の──」
『来れたらいいね、それじゃあさようなら。』
「おい──っ、あの野郎っ!殺して──」
刹那、色欲に魔法が放たれた。
ただし、今回は人間が放っているものとは違って当たれば死ぬ様な魔法だ。
彼女は間一髪避け、攻撃が放たれた方向を見る。
そしてその選択は、色欲にとって最善であり、最悪の行動だった。
「ねぇねぇマスター!あの子避けたよ!」
「ねぇマスターあの子強そうだよ。」
「そうだね、じゃあ頑張ってきてね。」
自身が蛇ににらまれている様な視線を、色欲は感じ取ってしまった。
圧倒的格上、勝てる見込みは万が一すらない。
そんな相手が色欲の前に立っていた。
本来、そこにいるわけがない相手がそこにいる。
「……御六天。」
色欲は早めに動き、ファントムの所に行かなかったことを後悔した。
しかしそれがファントムの魔法によって封じられていたとは、知る由もない。
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