槍と気付き
『え、あ、え?えぇぇぇぇ!?』
「いや、そんなに驚かなくても──」
『驚くよっ!』
多分怒ってるな、これ。
じゃあ、これって……
「時間が巻き戻った上で異世界に飛ばされた……?」
ありえない仮説だけれども、今はこう考えるしかない。
もし、仮にそうだとして何か予兆はあったか?
確かルナミスと話してて、それから……何をしてたんだ?
思い出せない、ん〜、何か、起きてた気もするんだけど……
「時間が巻き戻った、って何、ですか?」
「あぁ、僕がいた時間だと君はルナミスに転生してたんだ。」
「だから、時間が?」
「そうだね、別世界って可能性も捨てきれないけど。」
別世界のことは今思いついた。
竜王国でアンゼスさんとルナミスの世界が違うと言っていた気がする。
それならまだ分かる、僕が別の世界に来てしまったということになるんだし。
ただどちらにしても何で起きたのかは不明だ。
せめてルナミスと話した後に何をしてたか分かれば、違うんだけどな。
「……取り敢えず、家に、行きましょう?」
「そうだね。」
このまま突っ立っててもしょうがないし、歩こう。
何か資料から読み取れることがあるかもしれないし。
そうして僕達は歩き始めた。
僕達以外に、生き物がいない事に気付かずに。
「ここです。」
「ここが……」
正直、少し驚いた。
思ってたより大きかったのだ。
少なくとも周りの家よりは大きかった。
勿論、貴族の館とかと比べれば小さいのは分かるんだけど、昔住んでた家の事を考えると驚かないというのは無理だ。
「こっち来て。」
「あぁ、うん。」
そうして言われるがまま後ろに付いていく。
二階に上がり、少し歩いた先にあった扉を彼女は開けた。
「どうぞ。」
「……うん。」
「飲み物、取ってくるから、待ってて。」
そう言って彼女は部屋から出て行った。
……さて、何をして待ってようか?
流石に勝手に探すのは良くないしなぁ……
……
いや、駄目駄目、気にしない、気にしちゃ駄目。
僕の絵が部屋中に飾ってあるなんて、そんな光景は見えない、そう、見えないんだ。
……裸、かぁ。
せめて、片付けてから飲み物取ってきて欲しかったな、うん。
どこを向いても部屋中僕の絵だらけ、落ち着いて見れるのは地面だけだ。
というか、普通扉を開けた時に気付かないのかな?
開けただけで目に入るのに、なんで?
はぁ……早く帰ってきてほしい、落ち着かないから。
その願いが通じたのか、彼女が戻ってきた。
「お待たせ。」
「おかえり。」
彼女の手は板を持っていた。
その上に飲み物と、なにか袋の様なものが置いてある。
彼女はすぐにそれらを机に置き、本棚を物色し始めた。
……え?
まさか、気付いてない?
いや、まさか、だって部屋中僕の絵だらけなのに、気付かないって、本当に?
『後は……これと、これと、あれ?そういえばあれってどこにしまったっけ?ここかな──』
どうする?言った方がいいのか?
いやまぁ言った方がいいのは分かってはいるんだけどさ。
『これくらい、かな?よし、「終わったよ」。』
これ多分直接本人に見せるつもりはないよな。
もし僕が彼女の立場だったら、恥ずかしくて死にたくなる。
『あれっ?「終わったよ」。』
言う、か。
心苦しいけど、今の状態で話を進めるのは罪悪感がある。
よし、じゃあまず──
「ねぇ!」
「うわっ!?」
『はぁ、やっと気付いた。「終わったよ」。』
「あっ、あぁ。」
どうやら話しかけれてたみたいだ。
ため息がその情景を思い浮かばせる。
「これ、読めると思う。」
そう言って渡された一つの冊子には「月の隠れるその日には 設定資料集」と書かれていた。
試しに中を見てみると、こちらも全て読めた。
「読める……」
「よかった。」
そう言って彼女は他の資料を読み始めた。
そちらは僕には読めない文字で書いてあったが、何の字かは分かる。
確か……ニホンゴ、みたいな名前の言語だった気がするな。
この言語、勇者の大半は読めると聞いた事がある。
勿論何名かは読めなかったみたいだが、少なくとも存在は知っている様だったと言われているみたいだ。
まぁ、今は関係ない。
今は僕がどうやったら元の世界に帰れるかの手がかりを探しに来たんだ。
……駄目だ、何の手がかりも見つからない。
見知った顔か、全く知らない顔ばっかり出てくる。
うーん……流石に載ってなかった、ってところかな。
まぁ、だよね。
戻り方とか書いているわけないか。
次が最後か……
僕は本を最後まで読み切る。
と、そう簡単に終わりはしなかった。
「ファントム・ドラグロス?」
最後にその名前が載っていた。
いかにも仰々しい絵柄で僕を圧倒したが、そこはどうでもいい。
ドラグロス、確かソリアがドラグロス王国出身と話していた。
名前から察するに、おそらく王族だろう。
こんな感じに書かれているってことは──
「ねぇ、このファントム・ドラグロスって──」
『えっ?……あぁ、「最後に、戦うんだ」。』
「最後……?」
僕は、彼の顔を知らない。
ただ少なくともゲーム中に出てくるってことは僕達の世界でもまだ生きている可能性がある、ということだ。
そしてこんな男が討伐されたという知らせは聞いた事がない。
つまり──
「まだ、生きてる。」
KHRBよろしくお願いします。




