閑話 心と恋心
最初に会った時、あいつは年上に対する礼儀がなってなかった。
今思えば、それは本人の大人への期待感がすっかりなくなってしまったからかもしれない。
絶対に死なないと思ってた両親、それが突然居なくなったと言われても納得は出来ないと思う。
本来ならこういう子供は国営の孤児院に行くか路地裏に入って手を染める、それが普通だ。
なのに魔物を狩るという茨の道を選んだこいつは馬鹿だと思った。
これはお節介かもしれない、けど私は他の道を選んでほしい、そう思ったのだ。
「餓鬼がまともな魔物なんて狩れる訳ねぇだろ、さっさと家に帰るんだな。」
「何?おっさん、面白い事言うね。」
「はぁ……はぁ……はぁ……かっ、勝ったぞ!」
彼は私の想像していた強さを遥かに超えて強かった。
そのせいか周りの連中も驚いて固まっている。
こいつの技術はまだ荒削りではあるけれど、それでも両親の血が垣間見える程の動きだ。
一つ気になる事は槍を持っている事だけど……まぁそんな事はどうでもいい。
「へへっ、どうだ、これでやめる気に──」
「これで入れますね。」
「はぁ?」
負けを認めていないのかしら?、この子。
ならもう一回──
「だって、周りの反応的に貴方が一番強いんですよね?」
後であいつらに一発入れましょう。
「そんな事はない、俺より強い奴なんていくらでも──」
「ですよね、ここで一番強い人が僕ごときと互角な訳ないですもんね。」
「あ"ぁ?」
この餓鬼、身の程が分からないのかしら?
いいわ、私がじっくりと逆らえない様に調教を……
「やっぱり一番強い人でしたね?」
「はぁ?……あ。」
ついうっかり反応してしまった。
なんで私は……
あれから、色々あった。
ミラがあいつを好きになったり、あいつが隣国に行ってしまったり。
結構どうでもいいけど愚兄がますます面倒になったりも。
このまま何事もなく過ぎていくと思ってた人生にあの愚兄が余計な事をしてくれた。
うちの国とマルマーの王を殺し、マルマーとイレイサに宣戦布告してしまったのだ。
あの阿呆は勝てると思ってやっているの?もしそうだとしたら相当馬鹿ね。
今の騎士団でまともな人材は私だけ。
契約とはいえやめたミラを入れても二人。
マルマーは紫電ことメビウス皇太子しかいないけどその代わりに全体的な練度が高い。
この国は馬鹿みたいにな伝統に従って剣と魔法しか部隊しか存在しない以上、対応できる幅が決まっている。
私も最初は問題ないと思ってたけど最近になってそれが間違いだと気付いた。
イレイサなんて各聖の聖長達がいる。
正直今のイレイサに勝てるとは思えない。
イレイサは長年聖長の練度が高く巷では"神のご加護"なんじゃないかと言われている。
でも、そんなイレイサ相手でももし仮に元団長と元副団長さえ戻ってくれば勝てなくはないと思う。
あの二人は異常、そう言い切れるくらい強かった。
一緒に仕事をした期間こそ短いけれど、そう感じる。
「これで男は私に、女は好きな奴に依存するのよ!さぁ、醜く争いな!」
……!
私は彼女、色欲の悪魔であるシキザの魔法を受けてしまった。
受けた瞬間、膨れ上がる彼への想い。
この心の奥底から湧き上がる想いは抑えられない、そう思った。
一か八か、私は自分の魔法である変身を一瞬解いてから再展開した。
結果は、成功。
私はなんとか正気を保つ事が出来たのだ。
そう、本当に出来たと。
その日から、私の体はおかしくなっていった。
その兆候は私の魔眼から。
段々と、魔力の流れが見えにくくなっていったのだ。
最初は気のせいとか、調子が悪いだけだと思って放置していたのがよくなかった。
私はもう、魔眼で世界を見れなくなっていたのだ。
それと重なる様にスランが連れ去られた。
幸い無事だったけど、 それで終わりにしてはいけない。
もし私の魔眼が問題なく使えてたらあの天使の企みを防げたかもしれないし。
…と、こんな物は些細な問題。
本当の問題は日に日に彼への思いが強くなっていく事。
一目見ただけで心臓がうるさいくらいに鼓動してしまう。
一緒にいるだけで幸せだし、話しているだけで癒される。
罪悪感はある、ミラを応援しようとしてこの有様、言い訳すら出来ない。
ならもういっそ自分の欲望に忠実になってもいいんじゃないか、そう思った。
だから私はじゃんけんで魔法を使った、使ってしまった。
彼と二人きりになれる嬉しさを覆い隠すかの様に、罪悪感が私を襲う。
が、そんな物二人きりになった瞬間になくなった。
やはり魔法を使って正解だったわね。
……どうしましょう、嬉しすぎる。
もし二人きりになれば症状も和らぐんじゃないかと思ったけど、逆効果ね。
多分、私は耐えられない。
絶対に襲うだろうし、我慢も出来ないだろう。
ならせめて、心の底から好きになりたい。
そうすればきっと、終わった後ですっきりとした気持ちを迎えられる。
皆には後で色々言われるだろうけど、今は気持ちに素直になろう。
私はスランの事を愛している、と。
KHRBよろしくお願いします。




