槍と羞恥心
「ゴウヨウ姉さん!」
「あら、まだいたのね。」
悪魔が三人がかりでも勇者にはかすり傷すらついてない。
むしろゴウヨウ姉さん達の方がひどい怪我だ。
「嫉妬の世界!」
「……」
勇者が呆れた様に剣を振うと私の技が右手ごと切り伏せられた。
「諦めなさい、貴女達に勝ち目はないの。」
そう言って勇者が剣を振り下ろす瞬間
「傲慢の世界。」
ここにはいない筈のゴウマリュ兄さんが現れた。
兄さんの放った技は勇者の攻撃と相打ちになった。
「我が兄弟をここまで追い詰めるとはやるな人間。」
「次はもう少し強めに放つわね。」
そう言って勇者と兄さんの一撃が交わろうとした時、見慣れた場所に転移していた。
「君達、相当やられたたね。」
あいつのおかげ、か。
ちっ。
「あれ程の凄まじい力、勝てるのか?」
「僕の準備が整ったら、ね?」
そう言って不気味に笑うあいつを見て私は意識がなくなった。
僕達が王城に近付くにつれて被害の大きさが分かってきた。
王城の被害は一目瞭然だったけど周りの屋敷も半壊している。
一体、誰のせいで……
一応今ある最上階に僕の槍を使って登るとルナミス達がいた。
ルナミスは気を失ってるようだが他は平気そうだ。
「皆、大丈夫?」
「うん、ルナミスちゃんのおかげでなんとか。」
ルナミスが?
あの規模の攻撃を急に出せるものなのかな?
「取り敢えず、皆さん回復させますね。」
そう言ってセフィが回復を皆にした。
ふと周りを見ると気になる物が見える。
「なんだこれ、肌色っぽいな。」
「それ、ルナミスの左耳の一部よ。」
「うえっ!?」
驚いてルナミスの耳の一部を投げ捨ててしまった。
でもこれほどの攻撃がルナミスに放てたと考えると腑に落ちない。
ルナミスに何かあったと考えるのが自然かな。
「エクストラヒール、これで戻りましたね。」
「うっ……あれ?悪魔は?」
「もういませんよ。」
「よかった……」
そう言ってルナミスが起き上がった。
しかしあの攻撃を放った様な覇気は感じられない。
「この攻撃を放ったのって、ルナミス?」
「うん、一応……」
そうは言いながらも実感はなさそうだ。
「後で手合わせいい?」
「えっ、うん。」
あそこまでの力、どうなってるかとても気になる。
ここはルナミスの胸を借りてあの力を体験させてもらおう。
「さて、ルナ王女を安全な場所に移動させましょうか。」
「カトリーナ、よろしくね。」
「私一人ですか!?先輩……」
「まぁ、いいけど。」
僕なら槍で運べるし、適任だ。
でもなんでルナミスは僕に頼まなかったんだろう?
「……なんかその顔むかつくのよね。」
「酷い!先輩、慰めて。」
「後輩の分際でご主人様に物をねだるのは許しません。」
メイが僕の前に立ってカトリーナさんを牽制した。
二人ともそこまでしなくても……
「王城がこうなってしまった以上、暫くは屋敷生活ですね。」
「そうだ……屋敷?」
「はい、スランがいない間に貰いました。」
「あぁ……」
なんか僕がいない間に色々変わってそうだな。
少し寂しい気がしなくもない。
「スラン君、大丈夫だったかい?」
「メビウスさん、どうしてここに?」
こんな所にいていい身分の人じゃない筈なんだけどなぁ?
「すぐに帰国する必要があってね、彼女を連れて行かないといけないんだよ。」
そう言って王女様の方を指差した。
そういう事か、今更正式な見送りなんて出来ないしね。
「彼女を貰ってもいいかな。」
「陛下に許可は?」
「そこら辺は大丈夫だよ。」
なら……
そう思って王女様をメビウスさんに渡した。
「兄様、帰ったら──」
「時期を見て発表するよ、じゃあね。」
そう言ってメビウスさんは帰ってしまった。
そこから数週間してある程度の騒動は収束した。
その間にルナ王女、セフィの結婚の話は世間に広まった。
セフィの方は僕の他の相手の発表もあって大盛り上がりだった。
勇者一行は一人の欠員なしに別大陸に修行しに行く様だ。
彼らの幸運を祈ろう、彼らが僕達の希望なんだし。
今は屋敷でゆっくりしていて疲れを癒してる所だ。
ゆっくりしているとルナミスが入ってきた。
「あれ、一人?」
「うん、今陛下と話してるよ。」
「ふーん。」
そう言いながら紅茶を準備して飲み始めた。
そう言えば勇者が砂月って人を探してたんだっけ?
「ねぇルナミス。」
「何?」
「砂月って「げほっげほっ。」平気?」
急に咳き込み始めたルナミス。
何かまずい事でも聞いたかな?
「その名前、誰から聞いたの?」
「勇者だけど……」
「やっぱり……私の事、教えた?」
「いや、嫌そうだったし。」
そう言うとルナミスが一安心した顔になった。
「あいつら、私の元同級生なの。」
「えっ?」
「特に絹川は私にまとわりつく面倒な奴なの、だから絶対に言わないでね。」
「あぁ……て事は本名砂月なんだ。」
そう言うとルナミスが少し気まずそうな顔をしてゆっくりと頷いた。
「砂月雛、それが私の前世の名前。」
「マルマーの時は教えてくれなかったのに、あっさり教えてくれたね。」
「もう逃げられないと思ったから……後、そっちで呼ばれたらどうにかなりそうだし。」
そう言って顔を逸らしたルナミス。
……
「雛?」
「ひゃっ、やめて!おかしくなるからやめて!」
やめておこう、後で酷い目にありそうだし。
あっ。
「ルナミス、手合わせしよ?してなかったでしょ?」
「えっ、うん。」
ルナミスが同意してくれた事で僕はすぐに外に出た。
お互いいい感じに距離を取って武器を構える。
「ルナミス、本気できてね?」
「うん!」
そう言ってルナミスの見た目が変わった。
そしてルナミスから高濃度の魔力を感じる。
後──
「それ、凄いね。」
「えっ?何が?」
「髪だよ、初めて見たよその色。」
「へっ?……いやぁぁぁっ!」
虹色に光ってて面白いな。
「見ないでぇ!」
「あぁ、はいはい。」
どうやら暫く解除出来ない様だ。
そうして僕はルナミスの髪色が戻るまで後ろを向いたのだった。
これで八章終了です
物語的には半分終わりましたね、つまり後半戦です
これでまだ主要キャラ出きってないのは怖いんですけどね
という事で、九章竜王国編をお楽しみに!
(まぁ間話とメモはあるんですけどね)
KHRBよろしくお願いします
追記
よくよく見てみると名前が違ったので修正しました。
元々設定が逆だったからですね、今後も気を付けます。




