閑話 槍と観察
朝、僕はいつも通りに目を覚ます。
時計を見るとまだ待ち合わせの時間まで時間がある。
なので僕は訓練をしようと思い外に出る準備をした。
最近はしっかりと出来てなかったしいい機会だ。
外に出ると先客がいた。
誰だろうと思いながら近付くと、
「あれ、スランどうしたの?」
「……何でここにいるの?」
タルトがいた。
「それは貴方もでしょ?」
「それはそうだけどさ。」
まぁ丁度昨晩の事で聞きたい事があるしいいけどさ。
「まぁいいわ、軽く手合わせしましょ。」
「いいけど、準備運動だけやらせてよ。」
「どうぞ、それくらい待たないとね。」
と言って剣を振り直し始める。
僕もそれを見て準備運動を始めた。
人とやるなら気合いを入れないとね。
しかも相手はタルトだ、擬似的に戦った事があるとはいえ本気で戦ってはないだろう。
ミラさんと並ぶ実力者だ、気を引き締めてやらないと。
「これぐらいでいいかな、タルト。」
「終わった?」
そう言いながら剣を下ろしてこちらにくる。
それにしてもこれがあの巨体だったとは信じられないな……
「水頂戴、やる前に飲みたい。」
「はいは──!」
咄嗟に槍でなんらかの攻撃を防いだ。
どこのどいつだ、早朝から殺しに来る奴は。
「あら、案外やるのね。」
お前かよ!
水飲むんじゃないのかよ……
「おい、騎士道精神はどうした。」
「こんなか弱いお姫様に騎士道を求めるの?」
「あんな重い鎧しててよくか弱いって言えるよな。」
あんなの人が着ける代物ではない。
タルト以外だと動けなくなって死ぬに決まってる。
「私だってあんなの着たくないのよ?あれ重いし。」
「着れるだけで凄いんだよ。」
「そう?ならサービスしてあげる。」
褒められて嬉しかったのかサービスをしてくれるらしい。
正直、嫌な予感しかしない。
「見せてあげる、私の完全体を!」
そう言ってタルトが輝き出した。
その光は段々強くなっていき、
「……え、気持ち悪っ!」
「はぁ!乙女になんて事言うの!」
「それで乙女な訳ないだろ!」
タルトは化け物になっていた。
顔は無数の目が付いた顔になり、体全体の装甲が昆虫の様な感じになっている。
腕は太くなり足には斑点模様が付いた。
「……やる気が無くなった。」
そう言って元に戻ってしまった。
正直あの化け物の姿はあまり見たくない。
「やっぱこっちだな、タルトは。」
「あら、口説いてるの?」
「してないよ。」
「恥ずかしがらなくてもいいのよ?」
からかってくるタルトを無視して僕は水を飲む。
ああなったら関わらない方がいいと知ってるからな。
そうするとタルトはつまらなさそうにからかいをやめた。
「じゃ、私デートの準備してくるから片付けておいてね。」
「いや、片付けろよ。」
「女の子は準備するのも一苦労なの、よろしく!」
そう言って足早に部屋へ戻っていった。
まぁあいつはこんな奴だ、大目に見てやろう。
僕はさっさと片付けを終わらせてシャワーを浴びに行く。
流石にこれくらいのマナーならわかる。
僕も支度を終わらせてタルトの部屋に着いたのは約束の少し前くらいだった。
少し本でも読もうかと思った時に扉が開いた。
知らない人が出て来たんだけどな。
それも絶世の美少女と言っても過言ではない容姿だ。
「誰?」
「人の顔も忘れたの?」
あまり信じたくはないがこれがタルトらしい。
なんか負けた気がするが、認めないのも癪だ。
正直とても可愛い、本人には絶対に言わないけど。
そんな事言ったら僕の人生は終わる。
「あまりの可愛さに惚れちゃた?」
「そんな事お前が魔王に囚われるくらいない。」
「私お姫様よ?」
「お前みたいな奴誰も攫わない。」
あまり直視すると本音が出そうだからなるべく流そうとする。
気付かれでもしたら僕は泣きたくなる。
恋心が芽生えたらおしまいだ、僕的には男の親友なのだ。
僕にその気はないから自分が嫌になってくる。
「ふーん……じゃあ行きましょうか。」
そう言いながら手を差し出すタルト。
どうやらエスコートをお望みの様だ。
「はぁ、これで満足?」
「じゃあよろしくね?」
こうして僕達はデートを始めた。
城門の近くにある扉から城下町に出る。
少し歩いて僕が気になっていた事をタルトに聞いた。
「というか何でデートなんか誘ったの?」
「ん?普通に遊びたかっただけだけど?」
「……それだけ?」
「んー、まぁいいでしょ。」
そう言ってはぐらかしてきた。
まだ朝食を食べてはいないので僕達はカフェに入る。
向かいには動物と触れ合える所があるので窓際に座った。
こういう朝もいいかもしれないな。
「そういえば今日は殆どの聖長が休みだったわね。」
「そうなの?」
「うん、ルナミス以外はね。聖長ってどんな休日を過ごしてるのかしら?」
確かに、聖長達が何をしてるかは想像がつかない。
例えばガロンさんは想像つかないな。
まして向かいの店なんかに──
「……なぁ。」
「何?」
「あれってさ、」
「ガロンさんだね。」
人の趣味にどうこういうつもりはない。
が、そこには似合わないと思っている。
「……関わらない方がいいか。」
「あっちも見られたくはないだろうし、賛成。」
僕達は朝食を終えそそくさとその場を離れる。
「さて、少し広場に行かない?」
「広場?いいよ。」
この国で広場と言われたら闘技場近くの広場だ。
中は見ないけど先に心の準備をしておくのもいいだろうと思った。
少し歩いて広場に着くと人が何人かが団欒をしていた。
そして何故か見覚えのある顔が見える。
「あれって……」
「グラウンドさんの家族ね。」
グラウンドさんとメリーさん、そして──
「あれ、サーナさんだよな?」
「そうね、まぁ邪魔しないでおきましょう。」
メリーさんは仮面を外してるしグラウンドさんがとても落ち着いてる。
そこに行くのはあまり良くないと思うしやめておこう。
「こうやって散歩するのもいいわね。」
「そうだな、平和っていいものだな。」
こういうのもたまにはありだな、と思った。
とても心が落ち着く。
「そういえば、今日の夜にお披露目よね。」
「何が?」
「そんなの対戦相手に決まってるでしょ。」
「えっ!」
それは初耳だ。
対戦相手か、どんな人なんだろう?
「ふっ、じゃあそろそろ帰りましょ?」
「いいのか?こんな早くて。」
まだ三時間ほどしか外には出ていない。
想定より随分と早いのだ。
「目的は達成したしね。」
「目的?」
「秘密よ?」
そう即答された。
聞かないでおこう、気になるけど。
それが賢明だとそう思ったのだった。
帰り道、なぜかパーティをしてたゼータさんとメーラさんに見つからない様に帰ったのだった。
KHRBよろしくお願いします。




