4.朱赤
ルカくんの受難かな?
頭、すげー、ガンガンする。
頸、すげー、痛え。
力尽きてた、ジュリの側にどうにか辿り着いたけど、ジュリについてる死に血の匂いに、おかしくなりそうだ。
微かにジュリの血の匂いがする。
その匂いを辿ろうとしたら、ジュリはまだ、黒髪の女の頸に噛み付いたままだった。
頸、痛えはずだわ…。
自分の頸の、ジュリの噛み跡に思わず手を当てた。
まだ、血止まってねえ。
吸血童貞こじらせやがって…。
すんげー、齧りつき方。
なんか、…なんか、なんか、すげームカついて来た。
女の首筋に噛み付いたまま、幸せそうに気失ってる双子の兄貴を見せられてるオレって、何の罰ゲームだよ?
しかも、何、この、妙に絵になってるの!?
クッソ可愛いすぎて、腹立つわー。
うわあぁぁぁぁ。
オレ、色々、やらかした。
クソー。
馬鹿ジュリ、馬鹿ジュリ、馬鹿ジュリ。
はー、ムカつく。スッゲ、醜態さらしたじゃん、オレ。
オレより子供っぽい肉の残った、ジュリの頬。
ツンツンと、つい、癖でつついた。
小さな吸気の音に混ざった声がして、いつものように、ジュリの頬が緩む。
女の頸に刺さってた、牙が縮んで、ころんと仰向けになるジュリ。
血の匂い、これか!?
ジュリの頬や額が、擦り傷だらけだった。
おまけに、口元や顎まで、血と唾液だらけじゃねーか。
色々と、一気に拍子抜けしたオレは、ジュリの隣にへたり込んだ。腰抜けたかも、オレ。
起きたことが、凄すぎて、頭がついて行けてねえ。
…。
ここ、何処だよ?
「血生臭い…」
不意に、下から、ジュリの声。
「…」
そりゃ、そうだろ。
飲みこぼすほど、たらふく血飲むわ、死に血の上にぶっ倒れるわ、自分の舌も噛み破ってんだから。
「この子誰?」
ジュリが、起き上がったかと思うと呟いた。
「はぁっ?!」
コイツのせいで、オレ、もうちょっとで、オマエ失くすとこだったんだぞ?!
もうちょっとで、オマエに血ぃ、吸いつくされるとこだったんだぞ?!コイツのせいで!
「ねえ、ルカ。ベロ痛い。おでこも、ほっぺも。ルカ、ベロに穴開いてるっ」
パニック状態になってるジュリが、己の惨状にさらにパニクる。
「…」
パニクりたいのはオレのほうだよ。
本当、どうなってんだよ。
「この子、ケガしてるよ?手当してあげなきゃ。…アレ?ルカ、その頸、どうしたの?」
キョットンとしやがって。
「家、帰ろ…」
道分かんねえけど。
「そだね。なんか、僕、顔パリパリで気持ち悪いし」
飲み汚し激しすぎなんだよ。
「コイツ、どうすんの?」
ジュリに派手に齧られた跡が数箇所ある女を指差して、呟いた。
あの噛み方だ。
吸血童貞だったくせに、ガッツリ、やってたから…。
「お家、連れて帰る?」
ホラーそのものの血みどろ顔してんのに、小首傾げてるジュリが可愛すぎて、意味分からない。
「連れて帰らねーと、駄目だろ、頸見ろよ、頸!!」
クラクラしてきた。
「僕、今日、メガネもコンタクトもしてないから、よく見えないんだよね」
僕、ルカほど鼻も効かないし…、と。
「…」
ジュリじゃなかったら、殴ってる。
「ルカ、この子、運んでね?」
グロッサリーの買い物の荷物みたいに、ジュリがいう。
スタスタと歩き出すジュリ。
帰り道、分かってるんだ…。