33. 仄燈
第三者視点
すべての輪郭線が曖昧なほどに、無機質な象牙色で統一された空間。
そこに溶け込むような少年と、浮き彫りのように鮮やかな黒髪の少女。
動きのない空間を、かすかに揺らす、柔らかな声。
その声に静かに呼応する、湿った呼吸音。
寝台の上、ジュリが六花を包む腕をゆるく強める。
ジュリの唇が瞬間何かを紡ごうとして止まり、舌先で唇をわずかに濡らして、その歯が下唇を噛む。
六花はただ、ジュリの腕の中で静かな嗚咽を零していた。
静脈の目立つ細い指が、さらに細く華奢な指に触れ重ねられ、呼応するかのように結ばれる。
漆黒の睫毛に縁取られた目蓋が、涙を止めるように一度強く閉じられ。大きく息を吐いた少女は、自分を包むジュリの瞳に、その視線を合わせた。
「・・・」
何かを紡ごうとしたものの何を紡げばいいのか分からなくなったのか、六花の口許が少し緩んで、また固くなった。
「ジュリ」
仄かに笑った顔で、ジュリが答える。
「え?」
何処までも柔らかい声と表情のジュリに、少女は瞬いた。
「僕の名前」
少女の声に何かが溶けだしたかのように、ジュリの声も瞳もさらに柔らかくなる。
「ジュリ?」
ジュリの表情や瞳の柔らかさに、少女の顔や声、眼差しから強張りが薄れていくようだった。
「さっき、忘れてた・・・よね?僕はジュリって言うんだ」
六花の瞳が真っ直ぐ自分の瞳を捉えてることに、話が通じてると確信を持ったジュリが、安堵に息を零すように言った。
「ジュ・・・リ、・・・ジュリ」
記憶にトレースするかのように、六花は音を真似るように紡いだ。
「うん。そう、ジュリだよ」
たどたどしく紡がれた自分の名前に、ジュリがふわりと微笑む。
ジュリの笑顔に、釣られるように少女の頬が柔らかく笑む。
「ジュリ」
六花は、先程紡いだよりも自然に目の前の彼の名を紡いで、それにさらに柔らかく笑うジュリに抱き着いた。
「ぅぁっ・・・!?」
彼女の突然の抱擁に驚いたジュリが、音にならない声を上げながらも、かろうじて受け止めた。
六花とジュリの目が会って、自然と微笑み合う。
何故か感じない、身体の境界線。
ジュリの鼻先をくすぐる、懐かしい臭い。
心地良い重さ。
少し深く息を吸い込みたくなる衝動に似た感覚に、肺いっぱいに息を吸い込みかけた瞬間、ジュリの目に見えた赤紫の痣。
六花の首筋。
ジュリは、わずかに背を丸め、そこに顔を埋めた。