32.透幻
随分空いた上に、場面ガラッと変わります。
走って、走って。
走って。
追いかけてるのか。
追われてるのか。
どっちか分からないくらいに、走って。
長い髪が、視界も呼吸も奪って。
もつれる脚とスカートの裾。
それでも。
走った。
走って、走って、走って。
足首が。
脚が。
膝が。
息が。
もう・・・、だめ。
走って!
心で叫ぶ。
自分に。
何度も。
何度も、何度も。
ぐにゃりと揺れる、世界。
がしゃんと脚が、動かなくなる。
カラダが。
何かに、すくいあげられた。
「夢、だよ?」
声に顔をあげると。
紫の瞳。
白のような、金のような、まつ毛。
やわらかそうな、髪。
「・・・」
脚も。
息も。
胸も。
頭も。
全部・・・。
軽い。
「息、吸って、1、2、3」
紫の瞳の持ち主の声。
その声に合わせて、動くカラダ。
「吐いて、1、2、3」
声が気持ちいい。
「吸って、1、2、3」
柔らかく、染み込んでくる。
「・・・恐かったね」
ふわりと包まれた。
「っ・・・」
何かが、あふれる。
中も、外も。
深い、深い、奥底も。
「・・・ダイジョウブだよ?」
痛いほどに、柔らかい声。
「いっぱい、泣いていいからね?」
声に、何度もうなづいて。
しがみついた。
六花ちゃん視点でした。