26.黒橡
ジュリくん。
短いです。
ちょっと重たいので、自己責任で。
時間の流れから、外れてるような月見小屋。
目を覆ってる腕を外せば、柔らかな瞳が待ってるような。
時折、吹く風に紛れる、多分今年最後の花の香り。
繋がりがチグハグな記憶は、初めてじゃない。
訳がわからない罪悪感も、初めてじゃない。
でも…。
こんなに、何もかもが、痛い。
身体の外側も内側も、無数の太い針が深く、突き刺さってるみたいに。
『天使様、この様な物はいりません』
取り上げられて、目の前で破られた絵本。
『天使様、お声は必要ありません』
突然閉ざされた小窓。
見えなくなる、泣きじゃくってた人々。
どうして今、こんな昔のこと、まだ、出て来るの?
はるか、はるか遠い、昔のこと。
1回、2回、3回…。
ゆっくり深呼吸して。
1回、2回、3回。
深く、深く、深く。
でも、痛くて、痛くて。
涙が止まっても。
深いとこで、脈打つ度に血が溢れ続けるみたいで。
高すぎる天井は、日も灯りも届かない場所が沢山あって。
寝台と、食事のための小さなテーブル。
その丸い小さなテーブルの上には、銀の燭台が一つ
ここではない、あの部屋。
声を出しても、天井にただ、吸い込まれるだけだった。
遠すぎる小さな窓、高すぎる天井。
広すぎる部屋。何もない部屋。
声を出せば出すほど、声が出てるのかすら分からなくなった。
顔を覆ってた腕を外せば、そこには月見小屋の天井。息がこぼれる。
優しい指が、前髪に、頬に、触れた気がする。
柔らかい微笑い声が、フワリと舞った気がした。