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Summer Snow  作者: 神崎 玻瑠音
26/35

25.代赭

リザ。

血とか、苦手な方は自己責任で。


ちょっと長いです

膝の上の本を、棚に戻し、月見小屋へと向かった。


入り口に着くと、本棚の脚元にジュリが見えた。

片腕で目許を覆って、声を殺していた。


「…」


私は、そっとライブラリーへと戻った。

耳聡いジュリが気づかないうちに。


『ヴァンパイアの吸血は2つあるんだ。捕食とサイアって。普通は捕食の吸血で、サイアってのは吸血と同時に血を与えて契りを交わすこと』


ジュリの容態が落ち着いた時、説明を求めた私にルカが言った。


『…』


容態が悪い時のジュリは、初対面から何度も見たことがある。

けれど、運び込まれた時や落ち着くまでの彼の様子は、今迄見てきたのとは全く違った。


正直、こんな状態は見たことなかった。


二人がヴァンパイアだってのは、知ってた。

本や映画やドラマで見てたのとは、随分違ったけど。


『ジュリは多分、何をしたか分かってないと思う』


複雑な感情が見て取れる、ルカの瞳。


『…え?』


ルカの呟きに、反応が声になった。


ジュリと一緒に運び込まれた少女とルカの頸の痕を、見たあとだったから。


『トランス状態っていうか…、本能だけで動いてたみたいだった』


ルカが呟いた。


ジュリの防衛本能システムなのか、特殊な環境下を強いられた天使生活のせいか、ジュリは許容範囲を超えると、意識的に意識を手放す。


『…』


意識は手放せても、感覚や感触の記憶は、ジュリの記憶の根底に残る。

思わず、ルカを見たものの、言葉が紡げなかった。


『…』


ルカの瞳が、微かに揺れた。


『…ジュリは、ルカのこと好きよ?』


ルカの罪悪感。痛いくらい感じる。

知ってるから、言わずにはいられなかった。


『…っ』


隠した息の詰まりを、ルカが誤魔化す。


『ジュリは、強いもの。私よりも、ルカよりも』


視線をルカから、ベッドの上のジュリに移して呟いた。


『…サンキュ』


ルカの声がこぼれた。


『…泣いてもいいのよ?』


気が付くと、呟いていた。


『…。幾つと思ってんだよ。見た目これでも、中身はすげー爺さんだぞ?』


いつもの悪態。


でもね、ルカ。

私も知ってるの。


永く生きてるっていっても、心は鈍感になれないの。

永く生きて、衰えない頭や身体は犯した罪を、何度も何度も鮮明に思い出すし。


冴えた冷めた頭は、残酷に、沢山の別の解を並べるって。


記憶を辿る度、より鮮明になって、蓋さえできなくなる。

そして、白日夢のように、好き勝手に猛威を振るうって。


『母様、母様っ!』


ほら。こんな風に。


『…っ、リザ』


儚く微笑んだ母様は、すごく綺麗だった。


『医師を呼ぶからっ』


触っちゃいけないって、知ってた。

でも、出来なくて、私は母様の求めるまま駆け寄って。

差し出された手が、私の手を握った。


『こ…れ、抜い…て?』


私の手を握る母様の手が、母様の胸に刺さった短剣の柄に導かれた。


『母様っ!』


母様の言葉の意味も。

抜いたらどうなるかも。


全部分かってた。


『お願…い、です。女王陛下、…わた…くしに、名誉を』


気高い微笑。


『前王妃陛下に祝福を』


そう言って、短剣を抜いた。


『女…王陛…下に、永遠の祝福を…』


最期にそう言って、母様は自由になった。


母上はあの時、完全に正気だった。

オママゴトじゃなく。


短剣を握りしめた感触、引き抜く時の母様の身体に引っかかるのを無理矢理引き抜いた感触。

母様の生命がゆっくりと失われていく感覚。


布越しに拡がっていく、母様の血。


何もかも、今経験してるみたいで。


勝手に蘇る記憶の中、私は何度、母様を殺めたのだろう?


ルカは何も言わない。だから聞かない。

ジュリも言わない。だから聞かない。




















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