24.胡粉
短め。リザ視点。
血とか出てくるので、苦手な方は自己責任で。
最善。
最善を尽くす。
なんて、嘘臭い言葉なのかしら?
最善なんて、限りある中でしか成立しない。
マツリゴト、祭事、国営。
本当の最善なんて、成立しない。
戴冠式の誓いの言葉の中、何回出て来たかしら?
王太子教育の書物の中、教授の言葉の中、何回出て来たかしら?
最善、最善、最善。
その結果、何を作った?
何を壊した?
何を奪った?
何を、産み出した?
何十年経っても、かき消せない。
大理石の寝台の上、素肌に薄絹をかけられただけの少年。
晒された上半身や腕が、短剣で薄く裂かれていく。
血液がこぼれ、大理石の寝台の溝へと落ちていく。
溝に落ちた血液は、少年の頭上にむけて流れるようになっていて、血液が流れる溝は模様細工のように掘られていた。
大理石に浮かび上がる、真紅の呪文や文様。
泣き枯れた少年の声。
溝を流れる血液は、途中置かれた薬品やワインを溶かせ混ざりながら終点へ。
その終点には、錫の聖杯。
焚かれた、むせるような香木の匂い。
耳に脳にこびりつく、醜い笑い声。
王の椅子に座り、聖杯が満たされるのを待つ、かつての王。
ジュリが知らない、私が本当に初めてジュリを見た日。
城の中、祖父の兵が天使を連れ帰った話で持ちきりだった。
影での噂だったけれど、表に聞こえるほど。
子どもだった私が、純粋に天使様に会いたくて、祖父の居住スペースに、こっそり忍び込んだ日。
酷く残酷だった。
残酷なのに、美しかった。
かつての賢王だった、祖父。
下卑た笑み。
恍惚とした老い窪んだ目で、寝台のジュリを見つめていた。
怖くて、恐くて、自室に逃げ込んで。
寝台に飛び込んで、寝台のカーテンを全部閉じて、閉じ籠もった。
ガタガタ、震えて。
あの光景に。
祖父のあの目に。