23.水晶
第三者視点。
短めです。
女王の居住スペースにある、ライブラリー。
中庭へ続く窓際の、読書椅子に座っていたリザ。
彼女にも気づかず、ジュリは操られているように、中庭にある月見小屋に力なく歩いて行った。
リザは読んでいた膝の上の本を閉じて、深いため息をついた。
中庭の月見小屋は、リザの母親の祭壇そのものだ。
リザの母親の生前そのまま。
リザ自身も、何度、月見小屋に母親の気配を求めに行っただろう。
『ジュリも壊れてるから…』
母とジュリの繋がりの濃さを不思議がったリザに、ルカが溢した言葉。
俄には、理解出来なかった。
ジュリは、いつも笑顔で、柔らかな目をしていて、いつも色んなことに興味持つような天真爛漫。
誰かの悲しみや辛さに敏感で、感じ取ると福音のような光を与える。
天使がいるなら、ジュリが天使だと思う程だった。
全てを知った今でも、リザはそう思えるのだった。
『オレも、壊れてるけどな』
自嘲するルカが、酷く悲しかったのを、リザは今でも鮮やかに覚えている。
でも、だからではなかった。
彼女の母の壊れた心が、亡くなった兄と弟と、ルカとジュリとを取り違ったことを受け入れたのは。
リザの壊れた母の、幸せなオママゴト。
このライブラリーや中庭、月見小屋は、間違いなく幸福な空間だった。
そして、リザの母は、本当に素晴らしい母親だった。
母としても、国母としても。
聡明で、強く。
慈愛に満ちて、優しく。
気高く澄んだ、水晶のような魂の人だった。