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Summer Snow  作者: 神崎 玻瑠音
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21.萌葱

ジュリくん

僕の目の前。

不思議な色の瞳。


紫とオリーブブラウンとオリーブグリーンが、どう混ざってるのか分からない。

覗き込むほど、不思議な色。


頬に口づけたら、瞬きして。

瞬きすると、また違うように見える。


ちゃんと刻まれてる、鼓動。

薄紅色のほっぺ。

柔らかく握り返されてる指


何もかもが、嬉しくて。


黒く長い睫毛は、この子の瞳の不思議さを、もっと不思議な色に見せる。


「ねえ、お名前は?」


ボクをずっと見つめてる女の子に、聞いた。


「…っ」


かすれた息が、少し、小さな唇からこぼれた。

何度か、彼女はそうやって、少し咳をした。


小さく咳をしながら、起き上がろうとする彼女の手が求めるまま、ボクは彼女を支えた。


「大丈夫?」


座った彼女の肩を抱くように、支えながら聞いた。


「…」


乾いた小さな咳。

彼女は、咳の合間に頷いた。


「ジュリ」


上から聞こえた声に、ルカが居たことを思い出した。


ルカが、ペットボトルのミネラルウォーターを差し出してる。

ボトルを受け取って、彼女の口元に近づけた。


「ゆっくりね」


ボクはそう言って、浅く傾けたボトルを彼女の唇に添えた。

小さな音を立てて、ミネラルウォーターを飲む彼女。


なんだろう。

なんで、こんなに、ホッとするんだろう?


彼女を支えてる右腕に、彼女が水を飲む度に響いてくる振動。

その振動の度に、彼女に触れてるところから、拡がっていく、感じたことない安堵感。


350ミリリットルのボトルが空になって、彼女がボクの手首の辺りを押した。


ミネラルウォーターを飲み終えた彼女の唇は、少し濡れていた。


「ジュリ」


降ってきた声。

反応が遅れたのか、咳払いが聞こえた。


ルカが、手を差し出してる。


何がしたいのか、すぐに分からなくて、ルカの顔を見た。

ルカが目線をボトルに向ける。


反射的に、空になったボトルを差し出す。

正解だったらしく、ルカがちょっと乱暴にボトルを取った。

そして、ルカは足音を立てて、ゴミ箱まで歩いてそれを捨てた。


ボトルを捨て終えたルカが振り返って、ボクと目が合う。


なに?その顔。

あ、顔、そらした。


変なルカ。


なに?何なの?


ボクの視線に、ルカは、ちっとも反応しない。


「っ…」


小さな咳が聞こえて、ボクの意識がルカから剥がれた。


「大丈夫?」


腕の中の女の子が、ボクの問に頷く。

ルカが、ベッドの横の椅子に座った気配がする。


「名前は?」


ルカの声。

なんだか、平らな声音。


「…」


女の子が、ボクの影に隠れるように、ボクを見つめる。

怯えてるのが分かる。


「お名前は?」


ボクの目をずっと見つめている彼女に、怖がらないでって思いで、尋ね直した。


「…名前?」


呟いた彼女は、少し考えるような思い出そうとしたような顔をした。でも、すぐに諦めたように、首を振った。


「思い出せない?」


そう訊くと、コクリと頷いて、彼女はボクの目に視線を戻した。

ボクの視界の端っこで、ルカが額に手を当て、深い息をついてる。


ルカのため息に似た呼気に、彼女は視線を落とした。


「…」


彼女の様子に、ルカは反省したように口元に手を当て、ため息を圧し殺した。


少し俯いた彼女。長い黒髪がサラリと一束流れた。

どうしても、その肌と頬と唇は、あの物語を思い出す。


六花りっか


ボクは、呟いた。


「りっか?」


と、女の子が繰り返す。


「お名前ないと、不便だから。キミが思い出すまで、ね」


大きな瞳がボクを見つめてる。


「リッカ?」


ルカが、聞き慣れない名前に、反射的に反応する。


白雪姫スノー・ホワイトみたいだけど、キミは東の国の子みたいだからね。東の帝国では、雪のことを六つの花弁の花みたいだから、あちらの言葉の六に花って書いて、六花りっかって言うんだって。だから、六花りっか


ボクの説明を、少し不思議そうにしながら、彼女は微笑んでいた。


なんかちょっと、彼女の匂いが強くなった気がする。


「気に入った、みたいだな」


ルカの声が聞こえた。


「六花、また、来るね。まだ疲れてるみたいだし、休みなよ」


ボクは、何故かちょっと、急いで言った。

六花は素直に、横になる。


フワリと揺れた、六花からの匂い。

その瞬間、風景が鮮明に過ぎった。


「ジュリ…?」


ルカの声に、過ぎった風景が消えた。


でも、何処の風景かしっかり分かった。







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