20.紺碧
第三者。
ジュリは黒髪の子の手に手を重ねて、ただ見つめている。
そして、ルカはそんなジュリを見つめていた。
静かに流れる時間。
「…起きて」
ルカに聞こえないくらい、とても小さな声で、ジュリが呪文のように呟いた。切ない響きで。
「起きて」
さらに続けて、先程より、わずかに大きい声でジュリが紡ぐ。
重ねていた手を、握る形に変えて。
ジュリの雰囲気に、彼の声に気づかなかったものの、弟は視線の焦点を兄の横顔に合わせた。
兄の横顔、その頬の緊張が溶け、柔らかい笑みに変わる。
ジュリの声に、呼応したかのように、彼の手を柔らかく握り返す少女の手。
何度か目蓋を痙攣させ、ゆっくりと彼女は目を開いた。
「…やあ」
柔らかく優しい、ジュリの声。
その声を探すかのように、黒髪の少女の目が声の方向を辿る。
「…」
少女の唇がわずかに開く。
が、すぐには声が出せないのか、彼女の指がジュリの手を微妙に引き寄せるように握った。
「こんにちは」
ジュリの声がしたかと思うと、軽い口づけの音。
小さなリップ音に、ルカが自分の視界の真ん中にいたはずのジュリを寝台に片脚で乗り上げているのを見つけた。
半ば横からジュリに被さられている少女は、不思議そうに彼を見上げていた。
「…っ」
ルカは、息を引きつらせるしか出来なかった。
「…」
無言で、少女がジュリを見つめている。
「よか…っ…た」
ジュリが涙声で言ったかと思うと、彼女に被さるように抱きしめた。
絵本のようなその風景や、ジュリの執着に似た抱擁は、ルカにとって少しも現実感がなかった。
ジュリの震える息が、静かに聞こえている。
少女の手が、ジュリの背を抱いた。