14.灰黒
第三者視点。
地下にある、女王の秘密組織。
ルカが、広いテーブルや、ホワイトボードに並べられている、データや画像を事細かに、目を通していく。
ルカが来る前から、張り詰めた空気だったラボは、より一層の緊張が走っている。
「…っ」
どれを見ても、何を見ても、受け入れられない。
「殿下…」
侍従の孫娘が、新たに出たデーターを渡す。
「何で…?」
足で身体を支えられなくなったルカが、テーブルの両手をつき、掠れた声を零す。
「antidoteは効いてはいます」
ラボの男性一人が言う。
「これじゃ効いてないと一緒だよ」
歯を軋ませ、まるで無能かと詰るように呟く。
「ジュリ殿下の衣服、少女の衣服、現場からも、黒血しか出ませんでした」
別の研究員の発言。
「…どう見ても、これはそうじゃないだろ!」
鋭い一閃のような、ルカの声が、ラボの空気を凍らせた。
瞬間で凍てついたラボに、細く深く息を吐き出しながら、ルカが気まずそうに頭を垂れる。
「存在するウィルスや、毒等も全て照合かけましたが、引っかかるものもなく、黒血のantidoteのみ効果あるだけで…」
先程の男性が、果敢に再度挑んだ。
「…これじゃ、相殺さえされてない」
ルカが、振り絞る。
「でも、濃度を上げれば…!」
そんな言葉に、ラボがさらに凍りつく。
「黒血のantidoteが何か分かっていますか?」
侍従の孫が、冷たく言う。
「黒血のantidoteは血清ではありません。毒で毒を制してるだけなのです。…つまり、濃度を上げれば、今度はそちらの致死毒にやられるということです」
そう続ける侍従の孫が、ルカに別のデータを渡す。
「…濃度はこれが限界です」
侍従の孫の部下が言う。
そして、侍従の孫がまた別のデータの束をルカに差し出した。
「これ…」
新しく渡されたデータを見たルカ。
「ええ。あの少女のものです」
侍従の孫が、さらにデータを渡す。
「…」
ルカの目がなぞる数値、何もかもが正常値。
「答えは彼女にあるかと」
と、侍従の孫娘。
「彼女の身許は?」
ルカが、別部門の人員に尋ねる。
「出生時義務付けられてるチップもなく、国内外のデータベースに引っかかる人間も闇の種族も存在しませんでした。ゲノム的には東の帝国民が一番近いかと」
淡々と返ってくる答え。
回答を聞きながら、ルカが少女の姿を脳内再生する。
ジュリに似た、体格。
同種の透けるような肌。
「…贄の一族」
顔を上げて、ルカが呟く。
「おそらく」
侍従の孫が頷いた。
ルカの瞳が嫌悪で光る。
「ジュリは、antidoteと抜血、オレの血の輸血で繋ぐ。その間に彼女の血や身許の調査を」
antidote=解毒剤