10.水菫
ジュリ。
何が爆発したのか分からない。
漏れるまま、声も涙もたれ流した。
ごめんね。
ごめんね。
ごめんね。
ごめんなさい。
「リザっ…」
何、言ってるか分からない。
グチャグチャな声。
「ivyがあるから…」
リザの手が、僕の左手を取る。
両腕が、リザに降ろされた。
「…リ…ザぁ…っ」
優しいエメラルドの瞳。
僕の顔に、柔らかいリネンが触れる。
それを握る、リザの手には手袋がない。
リザの後ろに、点滴バックが見える。
「ブサイクね」
リザが笑う。
「…」
僕に、こんなこと言うのは、リザだけ。
「泣き虫ジュリ。ちびっこジュリ。馬鹿ジュリ」
悪いあだ名を並べる、リザ。
「いじわる…だよ。リザ」
あまりに変わらない、リザの声に、つい笑ってしまう。
「そうね。ちょぉっと、意地が悪かったかしらね」
僕の頬に触れる、温かい手。
気取って笑って見せてるリザの目。
目尻や頬に、刻まれた笑い皺。
「…久し振り」
グチャグチャの泣き声のままの挨拶は、少し恥ずかしい。
「本当、久し振り。ちっとも会いに来てくれないから、こんなに、おばあちゃんになってしまったじゃない」
リザが、下手くそな舞台女優みたいに言う。
初めて出会った時も、僕はベッドの上だった。
こんな風に。
「リザは、カッコいいよ。いつだって」
僕の言葉に、リザが勝ち気な目をして、眉を上げて見せる。
リザのお得意のポーズ。
「在位80年の女王だもの、当たり前よ。伊達に13から、女王やってません」
おどけるリザが、ベッドの側の椅子に座る。
軽く零された、リザの吐息。
「リザ…?」
僕の視線に、リザの目が揺れる。
「挨拶は、直接したかったのよね」
暖かいリザの手が、僕の手を握った。
「え…?」
ズキンと、身体の真ん中がきしんだ。
「退位しようと思って、ね」
僕の手を握るリザの力が、強くなった。
「な、何で?…な…」
何で?
何で…?
「キリがいいじゃない、95よ?」
リザが笑う。
言葉が出ない。
「…ごめっ、ごめん…ね」
出せたのは、それだけだった。
「何で謝るの?」
勝ち気な笑顔のリザが、僕の手に口付けた。
「だってっ…」
僕の言葉は、リザの指で止められた。
「ジュリは、知らなかったじゃない」
知らなかった。
確かに、知らなかった。
知らなかったけど…。
「僕が、ルカとの約束、破ってなかったら」
あの日。
あの時。
「ジュリは、本が読みたかっただけ。あなたを攫ったのは、それを利用した私の祖父」