9.魔法が使いたい
「魔法が使いたいです!」
「お、おぅ…」
「折角魔法が存在する世界なんですから使いたくありませんか?」
「いや使えるなら使ってみたいが…、当たり前だが前の世界で使えたわけじゃないよな」
「そりゃ使えてたら使いたいなんて言いませんよ」
「来るときに何か魔力を授けられたりとかは?」
「無いですね」
「異世界転移なんて初めてだからどういう仕組みかは分からんが、この世界に来ただけで身につく能力ではないと思うんだが。
現に俺は1年ほど居るが使える兆候すらないな」
「こう空気中にある魔力みたいなのを使ってーとかないんですかね?」
「そういうのはシャルロッテさんかロイドに聞いてみると良いかな」
「ロイドさん?」
「町の西側に家がある。
まあ一目見てわかる家だよ」
まずはシャルロッテさんに聞いてみることに。
----------
「おやまあ、今日は何の用だい?」
「魔法が使いたいんですが、方法について伺えればと」
「そうかいそうかい、お茶を出すからちょっと待って」
「おかまいなく」
……
「アンナは中々魔法の才能があってね、施設維持の一部を任せようと思うんだよ」
「へー」
……
「そいやこの間ジルが…、っとそろそろ仕事しないとねぇ」
「あ…、すいません、お話ありがとうございました」
「いやいや、なんか聞きたい話じゃなかったかもねぇ。
懲りずにまたおしゃべりに付き合っておくれよ」
「はい」
なんかとりとめのない話で終わってしまった。
井戸端会議、恐るべし。
----------
そんなわけでロイドさんの家に来てみた。
うん、怪しげな植物とか変な器具とかいかにもな感じ。
「ごめんください」
「誰だ?」
「えっと、食堂で居候をしている奈緒と申します」
「何の用だ」
そう言って出てきたのは長い髪を後ろで束ねた細身の男性だった。
眼鏡が知的で結構もてそう。
「魔法について伺えればと思いまして」
「ふむ…、君はケンタと同郷だったな。
どうぞ」
男性の家に一人で…と一瞬思ってしまったけど、大きな村じゃないし健太さんも危ない人を紹介したりはしないか。
入ってみると本やメモの山、実験器具のようなものが所狭しと乱雑に置いてあった。
「で、具体的に何が聞きたいんだ?」
「えっと魔法が使いたいんですが、そもそもどうすれば使えるのか見当もつかなくて」
「ふむ…、聞きたい答えとは少しずれるかも知れんが、まず魔力とは目に見えない第三の腕があると思ってくれ。
目に見えないとはいえ腕であるからものを持ち上げられる、これが魔法だ。
怪我や病気などで失われなければ、我々が両腕を使えることに何ら疑問は持たないだろう?」
「わたしにはその腕がないってことでしょうか?」
「ないかも知れないし、あるが使い方が分からないのかも知れない。
ただ、こうすれば腕を上げられますなんて教えようがないだろう」
「むう…、そもそも魔力ってどんなものなんですか?」
「そうだな、先の腕を例に挙げれば当然軽いものと重いもので必要な力が異なる」
「そう考えるとより遠くに作用させる場合も力が必要そうですね。
あとは広範囲もかな」
「ほう」
ロイドさんの眼鏡がキラリと光った、ような気がした。
「ケンタといい、やはり君達の国は技術や知識体系が進んでいるようだな」
「いやいや基礎をちょっと習っただけですよ」
「その基礎を学べる場があるということだよ。
さて、魔法のメリットは使用者の意思でものを自由に変質できる点だ。
火に変えれば火の魔法、氷に変えれば氷の魔法という具合にな」
「わたしたちの世界の『電気』みたいです」
「『電気』はケンタからも聞いたよ。
使用者が変質するのではなく、装置を媒体とするエネルギーのようだな。
そういう意味では2種類、それに近い使い方ができるものがある」
「なんですか?」
「一つは魔具と呼ばれるもので、魔法の補助道具だ。
簡単に言えば特定の変質に作用して威力や効率を上げられる。
ただこれは元となる魔力がないと使えないから、今の君には使用できない」
「そう聞くともう一つは可能なんでしょうか?」
「理論上はな。
この世界には道具自身が魔力を持つアーティファクトと呼ばれるものがある。
ただアーティファクトは貴重でな、現在確認されているものはもちろん、発見されたものも国で管理する法になっている。
一応貸出できるものもあるが、一村娘では無理だろうな」
「そうですか…。
あ、でも魔法のイメージは結構掴めました。
ありがとうございました」
「いや、こちらも有意義な時間だった。
やはり君達の国は面白そうだ、一度行ってみたいものだな」
「あはは」
今回は魔法の話でした。
単純な魔法技術ではロイドよりシャルロッテさんの方が上なのですが、シャルロッテさんは天才肌過ぎるのが難点です。
まあロイドもロイドで…この話は人物紹介で書けたら良いですね。