6.メニュー
食事の時のちょっとした話題。
「そういえばここってメニューはないんですか?」
「メニュー?」
アンナさんが首を傾げた。
「えっと、焼き肉とか焼き魚とか」
「ウチは季節のごちそうよ!」
なんかちょっとお高目な呼び名が返ってきたけど、ここは冒険者ギルド兼食堂である。
「まずひとつは、安定して出せるものが少ないのよね。
小麦とかだと保存が効くけど、それ以外は基本採ったり狩ったり釣ったりだからね」
「畜産業…、食用の動物を育てたりとかは?」
「村内だと割と何とかなっちゃうし、外に売ると考えると、売る用・産ませる用・育てる用のエサを確保しなきゃいけないから結構な人手とお金がかかるのよね。
ここは国の外れだから、売りに行くのに時間もかかるし」
「それだったら狩りや釣りの方が安上がり、と」
「うん、ただケンタがエサの問題は解決するかも知れないから、そしたら小規模でいいからやりたいって言ってたよ」
「へー、何やってるか今度聞いてみます」
「あとは村で読み書きができる人があまりいないのよね」
「そうなんですか?」
「意外そうに言ってるけどナオもだからね」
「あ」
確かにこの国の言葉はまだ読み書きできない。
「えっと、学校…読み書きを学ぶ施設とかはないんですか?」
「王都や大きな町だと商業訓練校、魔法研究院、騎士養成校なんかがあったりするね」
「貴族の学校とかあるかと思ってました」
「貴族は専ら仕えてる執事なんかを教師にするって聞いたよ」
「なるほどー、そうなるとあと読み書きを覚えられそうなのは本、は敷居高そうだから絵本とかあればジル君とかミントちゃんと一緒に読めるのかな」
「プッ」
何故かアンナさんが吹き出した。
「ごめんね、似たようなことを考えた人が試しに作った絵本があるんだけど」
台所の床板を一つ外したところから、わら半紙をまとめたような本が出てきた。
何故そんなところにあるの?
読んでみると…、鳥とか魚とか見て何か分からない絵ではないんだけど、なんていうか写実的というには及ばず、デフォルメというには特徴に欠ける感じというか。
いや、専門家じゃないわたしが言ってもあまり説得力はないけども。
「これ誰が描いたんですか?」
「ケンタよ!」
後日、「何故残ってる!?」と健太さんに追いかけられるアンナさんがいましたとさ。
今回は食料事情と識字率の話でした。
森が近いので燻製やハーブ漬けの文化はあり、樹皮や草をすりつぶして梳くことで紙のようなものも作っています。
識字率は高くはないものの、ギルド関係者や冒険者(依頼確認のため)、商人、魔法研究院関係者、教会関係者と、割と低くもないです。
メニューがないのは人の流れが少ない国の外れというのが一番大きいでしょうね。