4.村を知ろう
目を開けると見知らぬ天井だった。
うん、覚えてる。
現実逃避は…ちょっとあるかな。
なんにせよ新しい生活、始めが肝心。
と、気合を入れて1階に降りてきたのだけど、最初に遭遇したのは村人のイメージとはかけ離れたおじさんだった。
顔の傷と丸太のような腕、エプロンがアンバランスである。
『オ、オハヨウゴザイマス』
「……ん」
「んもう、パパったらもう少し愛想よくしなきゃ」
食堂から現れたアンナさんに何か言われ、おじさんがわたしに笑いかけた、のだと思う。
正直怖い。
『えっと、この人、私のパパ』
「あ!えっと、おはようございます。今日から宜しくお願いします」
ここにきてようやく日本語で挨拶していたことに気づいたのであった。
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朝食はとろみのあるスープ、何かのお肉、山菜っぽいのを茹でたものだった。
全体的に薄味、まあ元の世界の調味料とかないからね…。
「あの、健太さんは?」
「仕事に行ったよ」
言葉を学ぼうとしているのに気づいてくれたのか、アンナさんはゆっくり簡潔に答えてくれた。
「もしかして寝坊しました?」
「大丈夫、だけど朝は苦手?」
弱くはないと思うけど寝坊することだってあるだろうし、寝起きのままで人前はちょっと…。
「目覚ましはないですかね?」
「目覚まし?」
「えっと、朝になると鳴る機械って言えばいいのかな」
「あー、魔法ならあるよ」
「どんな魔法なんですか?」
「魔法が切れると金属片が落ちてガラガラ鳴るようになってるの」
ピタ〇ラスイッチだった。
結局起きれなかった場合はアンナさんに起こしてもらうことになった。
「わたしはどういう仕事をすればいいですか?」
「契約内容はこの食堂の雑務全般、報酬は食事と部屋一室、ってところでどう?」
「お得すぎる気がするんですが…」
「そんなことないよ、村としては働き手が増えてくれるのはありがたいし、覚えることは結構あるからね。
例えば毒のある食材とか分からないと大変よ」
「なんで食堂に毒のある食材があるんですか!」
「肉とか火を通せば毒が消えるからね」
なるほど、菌の概念がないから毒があるって認識なのか。
実は健太さんはこういった認識違いや日用品に多く触れる業務であれば早く生活に慣れるだろうと、アンナさんに契約の形で依頼していた。
アンナさんは手伝いとはいえ業務を行ってもらう側がお金を貰うのはおかしいと主張し、折衷案としてわたしの報酬としていた。
この二人にはほんと頭が上がらないです。
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「まずは村長に住人が増えたことを報告しないとね」
わたしとアンナさんは表に出た。
昨日は暗く、見ている余裕もなかったのだけど、地面はきちんと整備され、所々に水路のようなものが流れている。
「この水路は何に使うんですか?」
「こっちのは川から引いていて、飲み水とか料理とか洗濯とかね。
こっち側は使って汚れた水を流す方ね」
「へぇー、分けてるんですか」
「汚れた水で病気が蔓延したことがあって、その教訓みたいね」
簡易とはいえ上水と下水が分かれてるんだ。
考えてみたら街灯…村灯?もあるし、そんなに文化レベルは低くないのかも。
ファンタジー世界の文化レベルとか分からないけど。
村長の家に向かっている途中、男の子と女の子が寄ってきた。
見た目小学生低学年くらいかな。
「ねぇちゃん誰だ?」
「アンナ、この人だれ?」
「えっと、奈緒って言います。宜しくね」
笑いかけると、男の子はちょっと焦った感じで
「は、話すのヘタクソだな。別の国から来たのかよ」
「うん、すっごい遠いところから来たんだ」
「おっちゃんと同じか。ならこのジル様がねぇちゃんに色々教えてやるよ」
ちょっと偉そうにしてるのがかわいい。
「あなたのお名前は?」
「ミント…です」
恥ずかしそうに答えてくれた。
こういう弟とか妹欲しかったんだよね。
友達は面倒なだけだよとか言ってたけど。
「仲良くできそうで良かったよ」
「はい、発音し辛い名前ではなかったのも良かったです」
失礼な話ではあるけど、思わず笑ってしまうような名前じゃなかったことも。
「逆にわたしの名前が発音し辛かったり、変な意味だったりしないかな?」
「あはは、大丈夫よ」
良かった。
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他よりも一回り大きい家に着くと、白髪のおじいさんがひなたぼっこをしていた。
「村長ー、この子村に住むことになったから」
「ほっほっほ」
「奈緒と言います。宜しくお願いします」
「ほっほっほ」
「…えっと、笑ってるだけなんだけど」
「大丈夫、聞こえてるよ。
そうね…、何か質問してみて」
「質問って…、そういえばこの村の名前って何か由来があるんですか?」
「ほっほっほ。村の名前はその土地の呼び名、開拓した人物、治めている領主や国から名付けるのが主なのじゃ。
この村は最初わしの名前から付けられる予定だったのじゃが、恐れ多いと進言したところ国から名前を賜ってな、リンドベル王国にちなんでティアベル村となったのじゃ」
「なるほど。ちなみに土地の呼び名だとどうなってたんでしょうか」
「帰らずの村じゃな」
「ナオやケンタが居たのが帰らずの森だからね」
「そんな物騒なところに居たんですか…」
「まあ狩りや採取に行ってるから帰ってこれないわけではないけど、奥地まで探索できた冒険者が居ないのと、逆に魔物や獣が奥地から来ているように思えるんで、別の世界と繋がってるんじゃないかと言われてはいるね」
もしかしたらわたし達の世界と繋がっているのだろうか?魔物は居なかったけど。
「へぇー、あ、村長ありがとうございました」
「ほっほっほ」
こうしてひとまず村の一員となったのであった。
実際は単語対応表を見たり、アンナに補足してもらったりしてます。
今回は文化レベルがメインの話でした。
あと名前の話は入れたかった項目の一つだったりします。